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    信じて

    R18や進捗、落書き、雑なまとめです
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    燐一 いちご狩りをする話(二キもいる)

    いちごになりたい「新品種『あまりん』にちなんで、Crazy:Bから天城燐音さん、椎名ニキさん、そしてALKALOIDから天城一彩さんにお越しいただいてます!」
    「ちわーっす!あまりんこと、天城燐音ちゃんです!可愛らしい響きが俺っちにぴったりっしょ、きゃはは」
    「ちょりーっす!いちご大好き椎名ニキっす!30分で300個食べたいと思います!」
    「こんにちは。ALKALOIDの天城一彩だよ。よろしくお願いするよ!」
    騒がしい2人とは裏腹に、品行方正な挨拶をした一彩を撮り終えると、カメラは農夫の方を向き、いちご狩りのルール説明と簡単な取り方のレクチャーが始まった。
    平日の昼過ぎに放送しているバラエティ番組の撮影に一彩たちは来ていた。関東圏のいちご狩りができる農園で、駅から徒歩数分のため電車で気軽に行きやすいと若い世代を中心に人気の高い、とは、先ほどのアナウンサーの話だ。栄えた街中にあるためさほど広くはないが、たくさんの品種を取り扱っており、なかでも数年前にできたばかりの『あまりん』という名前のいちごが名物らしい。いちごではなくりんごみたいだな、と一彩は思った。なぜ、この3人なのかは知らない。
    一般客を入れるよりも前の、午前7時からの撮影であったが、朝早くのロケにもかかわらず、ニキは車での移動中から既に浮かれていた。否、朝起きて支度をして共に寮を出た時からそうだ。そしてそれは一彩も同じであった。
    (兄さんと一緒に仕事ができて嬉しいな)
    ロケバスの前で合流した兄はまだ眠そうで、目が半分しか開いていない。そうだろうなと予想していた一彩は顔が緩んだ。眠くはなかったはずなのに、兄の大きなあくびを見ていたら自分にもうつった。
    農夫のレクチャーが終わり、二か所窪みがあるプラスチックの容器を渡される。「練乳は入れますか?まあなくてもいいくらい、甘いらしいですよ。あまりん」とスタッフに言われ、一彩は少しだけ片方の窪みに入れてもらった。もう片方はヘタを捨てるためのものだ。
    「今日はこのあと普通にお客さんも入りますので、数粒だけ食べて終わりです。間違っても300個も食べないでくださいね、なくなっちゃうんで」
    「えええっ!食べ放題じゃないんすか!?」
    「すんません、そういうことで」
    「はい……」チューブの練乳とバケツを持参していたニキが肩を落とす。たりめェだろうニキきゅん、と、燐音は笑っていた。
    ビニールハウスの中は上着が必要ないほど暖かい。いちごは手前から奥に向かって綺麗に列を形成した、快適に栽培できるよう腰くらいの位置まである高設ベンチから顔を出して、食べられるのを今か今かと待ち構えていた。狩りという言葉に似つかわしくない人工的な様子は、一彩の想像していたいちご狩りとは何もかも違っていた。そばで蜂が羽音をたてて飛んでいる。
    カメラが一彩の方へ寄るので、目の前の品種の、全体が赤く熟したいちごをひとつ摘む。いちごは柔らかく、力を入れて摘むと潰れてしまう。下には引っ張らず、上向きに軽く折るようにすると簡単に採れることを、一彩は習わずとも知っていた。
    「とっても大きいね!いただきます!」そこそこの大きさのものを一口で食べる。「おいしい!甘いけど、後から酸味もきて、食感もあってとってもおいしいよ!」一彩の食レポはオーバーだが嘘がなく、何にでも純粋な感情を示すので、ファンだけでなくお茶の間からも好まれていた。いちご自体は初めて食べるわけではないのでそこまでの感動はなかったが、カメラは満足したように一彩から離れて、奥にいた燐音の方へ向かって行った。兄がいるところはあの「あまりん」の列だった。
    「弟さん、こっち食べました?美味しいってすよ〜。水っぽくってすぐなくなっちゃうんで、いくらでも食べられそうっす。いくらでも食べちゃだめなんすけど」
    「まだだよ、ありがとう!フム、確かにすぐなくなってしまった。小さくて食べやすいし、かなり柔らかいね。さっき食べたものと全然違う」
    「同じいちごでも味も食感も見た目も違くて面白いっすよね〜。僕ぁもう全種類食べてみたんすけど、あっちの子が大粒で、甘味も酸味もバランスよくて、調理にも向いてそうでお気に入りっす」
    「もう全種食べたのかい!?」
    ニキと雑談していると、司会役のアナウンサーが声をかけてきた。「いろんな品種がありますけど、みなさんの性格をいちごに例えるなら、どれだと思いますか?」
    性格をいちごに例えるという意味が、一彩にはピンとこない。いちごにも自我があるというのだろうか。
    「あまりんとか、天城燐音さんを想起させますけど、椎名さんから見てどうでしょう?」
    「いやあ、燐音くんはあまりんなんてかわいいもんじゃないっすよ。一緒にされたらあまりんちゃんも可哀想っす!燐音くんはもっとこう、酸味があって、熟しすぎて黒くなってきてる、こういうのがお似合いっす」
    「あはは」
    一彩には難しい質問にすらすらと答える姿を見て、さすがは食べ物を愛するニキだと思った。兄に聞かれたらニキが絞められるのではないかと危惧したが、燐音はまだ奥の方にひとりでいた。その代わりなのか蜂が飛んできて、会話が中断される。こちらから何もしなければ害はないとわかっていたが、一彩はその場から離れた。足が兄の方へ向かう。途中で数粒摘んで食べる。
    「兄さん」
    「誰かと思えば弟くんじゃねェの。赤すぎていちごかと思ったぜ。おめェも摘んで食ってやろうか?」
    「僕はいちごではないけど食べていいよ」
    「やめろやめろ、収録中だぞ」言い始めたのは兄だ。カメラは言葉巧みにいちごへの愛や、性格云々を語って撮れ高をくれるニキにつきっきりだった。兄弟の周りには誰もいない。
    「いちごなのは兄さんらしいよ。あまりんさん」
    「ウケるよなァ。どう考えてもあまりんなんてキャラじゃねェっしょ、俺っち。まあ、名前が似てるってだけで仕事もらえンのはありがたいけど。いちごっつーよりりんごみてェな名前だよな」
    燐音がツヤのある一際赤いひとつを手に取る。長く骨張った指で摘んで口に運んで、ヘタだけ残してパクリと食べる様子を一彩はじっと見つめた。口の端から薄赤い汁が漏れるのを見て、ごくりと唾を飲み込んだ。
    「うんま」
    「あまひいはないのかな」
    「は?何の略だよそれ」
    「兄さん覚えてる?故郷でもよく、こうして木苺を摘んでふたりで食べたよね」
    手を伸ばして美味しそうないちごを物色する。しゃがんで摘んでいた過去との違いをさっきよりも感じるのは、燐音が隣にいるからだろうか。夢中になっている一彩の袖が地面について汚れないように、兄はいつも気にかけてくれていたが、それも今は必要ない。
    「また兄さんといちご摘みができて嬉しい」
    一本の茎から途中でふたつに分岐して実っているいちごを選び、大きい方を食べた。
    「甘い!すごく甘いよ!」
    濃厚な甘さが口いっぱいに広がる。目を見開いて、感動を兄に訴える。酸味がほとんどなく、ひたすら甘い。これがあまりんか。
    「美味しい!兄さんも食べて!木苺は酸っぱいものだったけど、これは本当に甘いね。確かに、練乳は要らないかも。ウム、美味しい」
    「さっきから食べてるっしょ」そう言って笑って、枝分かれしたもう一粒を燐音が口に含む。どうしてあまひいはないのか。あなたに食べられる、いちごになりたい、と突拍子もない思考になる自分がおかしい。昔はこんなことは思っていなかった。
    「もう少し食べてもいいかな?他のお客さんの分を残しておいてと言われたけど」
    「まだ平気だろ、食え食え。お兄ちゃんが許す」
    今度は逆に、燐音が目を細めて一彩を見つめていた。「見して」と言って燐音は一彩の右手首を掴み、手のひらを上向きにさせる。人差し指と親指の先がうっすらと赤く染まっている。
    「ふっ、あけェの」
    そうだった。兄は昔から、こうして一彩の赤く濡れた指を見て、なぜか楽しそうにしていた。何が面白いのか一彩にはわからないが、手ぬぐいを取り出して丁寧に指を拭いてくれる優しい兄が好きだった。一彩の大切な甘い甘い思い出だ。ニキは否定していたが、確かに、自分の思う兄は、このあまりんのようなのかもしれない。
    「おまえ、口の周りも赤いよ。変わんねーな」
    その後は、決まって、口元も拭ってくれる。
    「キスしたい」
    早く食べてほしいとでも主張するかのように、一彩の顔が真っ赤に染まった。収録中だぞと、釘、もとい針を刺すかの様に蜂が寄ってきた。
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