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    黒鯨720

    @kokugei720

    pixivに上げていない作品置き場です

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    黒鯨720

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    友人の誕生日に何か書こうかと聞いたら「ジェノサイド」と言われ、考えた結果こうなりました

     アビスの魔術師の作り出した氷柱がビシビシと足元を凍りつかせる。と同時に爆風と炎が己の身に降りかかって来るのを、すんでところでかわし、タルタリヤは内心ヒヤリとしながらその二元素を送り込んだ少年を見遣った。
     ────面白い。
     相棒と、似ていると思った。殿下と呼ばれる、アビスを従える存在の彼と殺りあえる事は、かつての黄金屋の彼女との戦いを彷彿とさせる。
     ただ────雑魚が邪魔だな。
     彼と真剣勝負をしたい。タルタリヤを見下ろす少年の表情は、己に少しの関心も持ち合わせていなくて……まるで道端のゴミを処理しようとでもしているかのようで、その高慢ちきな態度を一蹴してやりたいと、矜持なのか、それともこちらを見下す相手をただ見返してやりたいという闘争心なのか……
     いや、理由などどうでもいい。目の前の強敵を本気にさせたい。それを思うだけで、ひたすらに胸が高鳴るのを感じた。

    「なぁ、君の妹を知っているよ」
     確信があった。相棒が探して、求めて止まない兄が、今対峙しているこの少年であると。
     アビスの魔術師の氷柱と大型ヒルチャール数体の突進を軽くステップを踏みながら避け、崖の上で悠然と構える少年の様子を伺う。
     彼は一瞬手のひらの中の元素を揺らめかせたかと思うと、チラリとこちらを見下ろしてその手に剣を具現化させた。
    「ファデュイ執行官と……妹が懇意にしているのは知ってる」
     お前がそうか、と、暗に瞳が告げていた。

      ────そうだ、俺に興味を持て。

     タルタリヤは頭の仮面に手を掛けると、紫電を放ちながら弓をつがえ、アビスの魔術師目掛けて雷光を纏う一矢を放った。断末魔をあげて消え去る姿を確認する前に背後のヒルチャール共に回し蹴りを披露すると、槍をかざして雑魚どもが突進してくるのを待った。
     案の定頭の無い奴らは何も考えずに向かってくる。この後のメインディッシュのための軽い準備運動といこう。

     ◇

    「お兄さんを見つけたら、君はここを去るの?」
    「うん。私は……存在しないんだ。この世界には」
     タルタリヤの胸に頬を寄せ、蛍は意味のわからない事を言う。君は、いるじゃないか、今ここに。
     面と向かって愛を告げたことは無いけれど、俺の想いには、気づいているだろう?
     つれない彼女の滑らかな背中に手を回してぎゅうと抱きしめると、もう行かないと、と離れようとする。あくまでも、関係を深めようとはしない彼女。いつか消える存在だから、敵対組織の幹部だから……深く繋がる事を拒否するくせに、こんな関係だけは受け入れてしまう、狡い女の子。
     素直に拘束を外して、「またね」と言った。蛍はベッド下の服をかき集めると身に着け、振り返りもせずに無言で立ち去った。


     もうひと月ほど前になるか。彼女と最後に会ったのは。お互い忙しくて、蛍はというと色々な国を跨いで駆け回っている様子だ。

     気がつくと、彼女から受け取った洞天への通行証を握りしめていた。指先から、腕を伝った鮮血が札を汚す。
     少々、血を流しすぎたな。手強かった少年との心躍る戦闘を思い出して、思わずゾクゾクとした高揚が湧き上がってくるが、さすがに今の自分の状況はまずいかもしれない。意識が朦朧とする中で、彼女の胸に抱かれたいとだけ思って、タルタリヤはその場に膝をつき、意識を手放した。
     
     喉の乾きで目を覚ました。次いで、全身の痛みと激しい頭痛。僅かに目を開けると、愛しい少女が心配そうに覗き込んでいた。誰よりも自身の興味を引き出して夢中にさせてくれる彼女。一瞬、その顔があの少年と重なった。血塗れで、吐血しながら彼が最期に言った名前。
    「ほた……る」
    「タルタリヤ! よかっ、た……」
     あぁ、泣かないで。真実を、言いづらい。
     絶望に打ちひしがれる君を見るのは、しのびないな。

    「一体、なんだってこんな大怪我……」
    「あは……君くらい、強いヤツと殺りあってさ」
     心配したんだから、と涙を流しながら笑う彼女の頬に手を添えた。

    「ねぇ、お兄さんがずっと見つからなかったら……俺と一緒にいてくれる?」
     瞬間、少しだけ驚いたような表情を浮かべた彼女は、すぐに顔を曇らせる。怒ったような、呆れたような様子で憮然とする彼女の後頭部に手を回して引き寄せると、素直に唇が寄せられた。
     そっと触れ合う冷たい唇が心地いい。
     悪い奴に簡単に絆されてしまうこの子を、いつまで騙し続けようか。
     涙を流させたく無いという想いも本当の気持ちだけれど……兄の仇だと、剣を向けられる姿を想像すると、どうしようもなくゾワゾワと胸が高鳴るのも事実で……
     
    「タルタリヤ……?」
     触れ合った唇が嗤いで歪んでしまっていたのだろう、蛍が不安そうに顔を覗き込んでくる。
    「ごめん、何でもないよ」
    思わず込み上げそうになる笑い声を押し殺して、精一杯の笑顔を作った。

    「ねぇ、相棒。俺の気持ち……気づいてるよね」
     彼女の瞳を見据えると、蛍は戸惑いがちに俯く。ぎゅうとその手を掴んで、瞳から目を逸らさないでいると、「だって……」と可愛い唇から小さな声が漏れた。
    「私は……いつか」

     その驚異は、取り払ってあげたよ。いつ、君に告げようかな。

      ────それとも、永遠に……
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