鉄と熱 扉を開けた途端に吹き抜けた空気に、穹は思わず顔を顰めた。鼻腔を満たし粘膜をツンと突く不快な刺激臭。穹にはまだ味わう事の出来ない香り。アルコール…酒の匂いか、これは。
足音を立てない様にそろりと足を忍ばせ奥へと踏み入れると、その香りが更に濃く、充満した湿気と共に肌にへばりついた。今夜は雨だ。遠くの空では雷鳴が残響を残している。
照明が消された部屋は暗く、カーテンの隙間から差し込む鈍い光のみがかすかに視界を明るくする。だがそれも僅かな助けであり、目を慣らすにはかなりの時間を要した。
暗闇に慣れた目で部屋をぐるりと見渡したが、想像よりも酷い有様に眉間の皺を更に深めた。テーブルや床には大小様々な酒瓶が転がり、中には砕け散り破片を散乱させている物もある。中身が残っている物もある様で、混じり合った液体が床の所々に染み込み例の酷い臭いを漂わせている。匂いの強さからしてどれも度数の強い酒だろう。
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