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    yun_3985

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    yun_3985

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    ガ清♀
    2軸

    恋煩いにキャラメリゼ「ガッシュ、それってもしかして母性本能ってヤツじゃないかい?」


    時は一時間程前に遡る。人間界に真っ先に逃げて行ったキャンチョメを追って、ちいさな魔界の住人たちとそして清麿とミラノに降り立った直後に事は起こった。
    きっとキャンチョメの事である、魔界の王を決める戦いで共に戦ったパートナーを頼ってミラノに赴くに違いないとの読みは見事的中……どころか、飛行機から降りて即、危機に瀕しているという事実を知り慌てて助けに駆け寄って。
    助けに、なんて言っても、殆ど決着はついていたけれど。ほんの少しだけ彼らの手助けをして、そして久方ぶりの再会に涙と笑みを零したのも束の間。長旅で疲れた体を休めるといいとフォルゴレの住まう豪邸へと案内された訳だが。

    『スマン。少しだけ……一時間もないから、別行動してもいいだろうか』

    荷物を置くなり、茶の一杯も飲まずに清麿はこう言った。まだ二件しか敵との遭遇は無いが、彼らは『本の力が使えない魔物』を優先的に狙っていると。現状、術が使える上に敵を返り討ちにしているガッシュとキャンチョメが揃っている以上、即座に追っ手を放つ事もないだろうと。
    だから一人で大丈夫だ。むしろ自分一人より戦う力の無いゼリィとオルモの方が心配だから。買い物なんだが、一人で持てるぐらいのものだし、ガッシュもキャンチョメと積もる話があるだろう――と、最後の方はなんかもう苦し紛れに、とにかく一人にしてくれと懇願する清麿に不承不承OKを出したのが三十分前。
    ゼリィとオルモは長旅の疲れからソファでぐっすり。フォルゴレは今夜のパーティの準備をしなくては、とあっちこっちに電話をかけているから、まぁ、仕方はなしにキャンチョメと二人きりになってしまって。だからガッシュはキャンチョメが、幼い兄弟を託され魔界から人間界に逃げ延びた話を聞いた後に、重苦しい話題にも関わらず穏やかに笑い出したのに、無意識にこわばっていた体から力が抜けるのを感じた。
    『こんな事になっちゃったけどさ、けれど、やっぱりフォルゴレと会えたのは嬉しいよ。ガッシュもそうだろ?』
    ――勿論だ、なんて、言ってはいけない立場、なのに。キャンチョメは家族を失ってしまったというのに。それでも邪気のひとつもなく言うキャンチョメに、思わず笑みが零れてしまう。こういうところがフォルゴレによく似てる、と思う。パートナー同様、他人を慮り気を遣える優しい男なのだ。
    『ところで清麿、とんでもない美人になったな。もう彼氏とかいるのかな?』
    『ぶっっっっ』
    ……穏やかな気持ちにさせてくれた張本人がその穏やかな思いをブチ壊すあたりも、よく似てると思う。フォルゴレが出してくれたアイスカフェオレを盛大に噴き出したガッシュに、キャンチョメの目がきらりと光る。次に来る言葉は言わずもがなであった。
    『もう告白しちゃったんだろ~』
    『い、いやその、私は……あ~……』
    『魔界に居た頃からずーっと好きだ~って言ってたのに、いざ本人を前にして隠し事できるタイプじゃないだろ』
    机の向かいから長い手を伸ばされ肩をどすどすと小突かれる。崩壊したとは言え魔界の王なのだが。
    キャンチョメの指摘通り、親しい間柄に隠し事が出来るような性格ではなかった。しどろもどろになりながら、ガッシュはざっくりと今の現状――清麿が長年ずっと自分を待っていてくれたこと、再会を果たしてから旅立つまでの一週間で告白してしまったこと、それに対してOKを貰ったこと……まぁ成立と共に身体を繋げる所まで行ってしまった事は流石に口にはしなかったが、取り合えず今のガッシュと清麿は『良い仲』であると説明した、のだが。
    『へぇ、清麿が孤児院ねぇ。ボクらが人間界にいた時なんか、子守は御免だ~ってタイプだったのにな』
    『もしかしたら、その後悔が多少あったのかもしれぬな。清麿自身はとても優しいが、あの頃は少し自分に素直になれなかったからのう』
    成程な~とキャンチョメが適当に相槌を打ちながら、たっぷりのミルクとガムシロップを入れたアイスカフェオレを啜る。そして、はた、とまんまるの目を瞬かせたその矢先。

    『なぁ、付き合っってるって言ったけどさガッシュ。それって母性本能ってヤツじゃないかい?』

    その言葉に、びしり、と見えない空気に見えない罅が入って――冒頭に至る。過去の、女子中学生というカテゴライズに属していた頃の、まだ未成熟なからだつきをしていた清麿を思い出していたガッシュの笑顔が石像のように固まった。
    「なっ……おっ……え………?」
    魔界の王になった頃。幼い頃から帝王学を叩きこまれたゼオンに怒られた事がある。言葉を発する際に迷っている素振りを見せるなと。胡乱な言葉は心の隙と捉えられ、此方の足元を見られてしまうのだと。何事も即断即決、そして正しい判断をし迷いのない発言を心掛けろと。成程その通りだと思って必死に練習したのだが……悲しきかな、兄の教えはフリーズしたガッシュの脳からすっぽりと抜けてしまって。
    「……思ったより混乱してるけど、もしかして心当たりが」
    「無い!決して無いぞ!清麿はちゃんと私の事を一人の男だとッ」
    「でもさ、ガッシュの見た目ってまだちんちくりんじゃないか。孤児院にはそのぐらいの年頃の子もいただろう?」
    「ちんちくりんとは何事だ~!?」
    キャンチョメの言葉がどすどすと心に刺さる。 ……確かに、確かに孤児院にはガッシュぐらいの見目をした少年少女もいたし、彼らは皆一様に家族と家を無くした孤児たちであった。
    エジプトを拠点にすると決めて、本来ならば節約しなくてはいけない研究費用を孤児院と学校を建てるのに使ってしまったのだと、我ながらバカだよなと清麿は笑っていた。それでも、正真正銘『なにもない』子供たちを放っておけなかったのだと。勉学の大切さを誰よりも知っているからこそ、せめて教養と、温かい寝床をくれてやりたかったのだと。そう笑う清麿の事を誇らしく思ったし、そして、魔界で恋焦がれていた頃よりもっともっと好きになって。
    『……そう思ったのは、お前のお陰かもな、ガッシュ』
    『私の?』
    『ほら、お前、記憶なくして人間界に来ただろ?無一文どころじゃない「なにもない」って、とんでもなく怖かったんだろうなって、今になって思うようになってさ』
    そう言って、数日後には長い別れになる、自分が手を伸ばし生活を支えた子供たちを見つめてうっそりと笑う清麿のひとみはとんでもなく美しくて。
    どうしてこんなに美しいのだろうかと思って、ああ、これが『慈愛』というものなのかと、昔よりずっと美しく魅力的になったのは、この感情を表に出すようになったからなのかと理解をして――。
    「あああああああああの瞳で私の事は見てない断じてッ」
    「心当たりありまくりなんじゃないか」
    「違う!見覚えがあるだけだ!違うのだキャンチョメ~っ!」
    机から身を乗り出し、両腕を伸ばしてキャンチョメの肩を掴んで揺さぶってやろうと思ったのだがひらりと躱される。シンプルに悔しい。
    いやそんなまさか、とガッシュの心中がきんきんに冷える。手元の、氷の浮かぶグラスに入ったカフェオレなんかより冷えていた。やまさかそんな、だって告白をした時、清麿はあからさまに照れていたし顔を真っ赤にしていたし、嬉しいって言ってくれたし何より身体を許してくれたし。事がおえた後にシーツの中で恥ずかしそうに素肌を隠していたし思わず零れた綺麗だという言葉に、ばか、と言いながらはにかむように笑ってくれたし!?
    (そ、それのどれもこれもが、母性本能だと……!?)
    確かに、その、昔よりかなり、頭を撫でられている気がする。いや昔は自分の背があんまりにも小さくて頭なんて腰かけていなくては撫でてもらえないぐらいの身長差で、今は頭が丁度具合のいいところにあるからであって。そうだと思う。多分。 ……多分。
    「ガッシュ」
    「……どうしたのだ」
    「その、なんかさ……流石に言い過ぎたかなと思って。謝るよ」
    「そういうのが一番心にくるのだが!?」
    心が折れそうになった瞬間、がちゃり、と背後の扉が開く音。フォルゴレだろうかと思ったが、目の前のキャンチョメが思わずと言わんばかりの表情で息を飲むその顔で理解する。恐らく、十中八九、話題の彼女であろうと。
    「ただいま。 ……って、何睨み合ってんだよ、お前ら」
    振り返った先にいた清麿の手元には、真っ白なショッパーが握られていた。華美な装飾で綴られているのは店の名前であろうか、何と書いてあるかは分からないが、恐らくそれが『どうしても一人でしたかった買い物』であろう事は明白で。
    思わず、じい、と無遠慮に見つめてしまったガッシュの視線に気付いたのか、清麿がほんの少し……ほんの少しだけ、頬を染めて己の身体でショッパーを隠す。どうしてだろうか、と疑問に思ったのも束の間、ふるんと震えた、ワイシャツとベストの中に窮屈そうに詰められた豊かな胸に目と思考を奪われてしまったのに我ながら情けなくなった。
    「そんな剣呑な雰囲気じゃないさ。な?ガッシュ」
    「お、おう!?そうなのだ、私とキャンチョメは仲良しなのだ」
    「……ホント悲しくなるぐらいへったくそだなぁ、ガッシュ……」
    必死に背伸びをしながらキャンチョメの肩を引き寄せる。背伸びをしても身長が足らなかった。キャンチョメの発言も相まって悲しさが更に増した。
    「? まぁいいや。フォルゴレが調子乗ってケータリング頼んだらしいからさ、たらふく食ってやれよ」
    ゼリィとオルモ起こさないとな、とくるりと背を向けた清麿に思わずほっと肩を撫でおろしたものの、キャンチョメの言葉が未だ胸に残るガッシュは、ぐるぐると不安を渦巻かせながらもしゃんと伸びた背の後を追う事にして上質な絨毯を蹴って駆けだした。



    清麿の言う通り、夕飯はそれはもう豪勢であった。たらふく食った上、もう飲めるようになったのならばと清麿のグラスにはワインが注がれた。あまり味が分かるような舌をしていなのだけれど、と照れ臭そうに笑った清麿は、それでも恐らく良いものであろうワインに舌鼓を打って、気が付けば結構めに酒の回っている有様になってしまった。
    「わたし、コンソメと一緒に寝る!まだ遊びたいもの、ねっオルモ!」
    「おお、そりゃあいい。でもあまり夜更かしはいけないからね、バンビーナ」
    そう言って振り返ったフォルゴレはぱちりとウインクをひとつ投げて、『後は任せておくれ』とちいさな声で言った。相変わらず、よく気の回る男である。お言葉に甘える事にして、ややおぼつかない足取りの清麿と共に用意されたゲストルームへ足を運ぶ。扉を開けたそこには、煌びやかな内装の家具と、セミダブルのベッドがふたつ並ぶ豪勢な部屋が広がっていた。
    「清麿、水を持ってくるからソファに座ってくれ」
    「んー……」
    返事は胡乱だが、言われた通りに素直にソファに腰かけるあたり、ギリギリ理性は保っているのだろう。ベッドの横に誂えられた小さな冷蔵庫に駆け寄って、水のペットボトルを取り出す。歩み寄りながらぱきりと蓋を開けて、そして清麿に手渡す……と、水を一瞬で飲み干した清麿が、目の前に立つガッシュを見上げて、ぽやんと酒で緩んだ瞳でにーっと満足げに笑った。
    「えらいえらい。ガッシュはえらいなぁ。ほれこっち来い」
    「え、ヌァッ」
    「酔っ払いの介抱まで出来るようになったのか~。んふふ、誉めてやろう」
    酔っ払っているという自覚があるのだろうか、酔っているからこその容赦のない力でぐっと腕を握られたガッシュが、その場でふんじばる事も出来ずに渾身の力で引き寄せてきた清麿の胸に顔面をダイブさせてしまう。ほよん、と頬に当たる肉は勿論だが柔らかくて、そして、酔っているせいか体温は高くほんのすこし、汗のにおいがする。
    慌てて退こうとしたのだが、混乱の渦中にいるガッシュよりも清麿の腕が拘束する方が早い。ぎゅうと左腕で抱き締めてきて、そして、右手でゆるゆると頭を撫で始めるのに混乱はいよいよであった。
    「ふふ、ほーんと、大きくなっちまったなぁ。お、ツノ見つけた」
    「きききき清麿ッ、その、離し……」
    「ンだよ、人が珍しく褒めてんだぞ。おら大人しく褒められとけッ」
    「胸が!いやもう何もかもが当たっておるのだ!」
    ぎゅうぎゅうに抱き締められているせいで頬が胸に押し付けられるし、膝でソファから離れようとしたのを目ざとく見つけた清麿が、左の膝をぎゅっと太腿で挟んでくる。あっちもこっちもむちむちに挟まれて即座に降参を訴えたのだが、ここで降りないのが高嶺清麿なのかそれとも酔っ払いなのか。
    挙句の果てには何故か髪の毛に鼻を埋めて、すーっと深呼吸してくる。勘弁してほしい。それは赤子にやる仕草だ。そこまで思って、ふと、昼間の会話が脳裏を過る。その内容は、今の清麿がしてくる子供扱いとイコールになって、しまって。
    「……? ガッシュ?」
    急に文句を言わなければ抵抗もやめて大人しくなったガッシュに、清麿が怪訝な声を上げる。しまった、と思ったが、目ざとい清麿はその沈黙を無視してはいけないものだと判断したらしく、すっと火照った身体を離した。
    「すまん、気分、悪くしたか?ちょっと度が過ぎたかな」
    「あ、その」
    「ごめんな。まだ、浮かれてるんだ。お前と再会できたって事に」
    ガッシュをソファに座らせて、隣に腰かけた清麿が、笑う。申し訳なさそうに。そんな顔をして欲しい訳ではないし、その表情から、矢張り、自分の事をちゃんと見てくれているのだと、清麿の真摯な想いが真っすぐに伝わってくるのがわかって。
    「……再会、できたし、それ以上の関係になったのに、軽率に、ごめん」
    「ち、違うのだ。それは私が」
    「お前が?」
    「ぐうっ……」
    改めて、どうしてこんな心配をしてしまったのだろうかと。清麿は共に戦うと誓い合ってから、一度だって子供扱いをしたことはなかったじゃないかと。
    今更ながらなんと愚かな、と己を納得させたところで……しかし別の問題が。清麿が、めちゃくちゃ心配そうな瞳で此方を見ている。ガッシュが清麿に何一つ憂う事なくいてほしいのと同様に、清麿もまた、ガッシュに何一つ憂う事無くいてほしいのだ。よーくわかる。だってそういうひとだから。
    しかし先程まで胸中を渦巻いていた不安が愚かな杞憂だと自己解決した今、果たしてそれを口にするのもどうかと。だが正直に言わないと恐らく清麿はずっとこのままだ。ええいままよ、笑い話で終わるならそれはそれでいいじゃないかと決心したガッシュは、酔っ払いに馬鹿ほど笑われる覚悟で口を開く事にした。
    「その、キャンチョメに言われてのう?き、清麿が、私の告白に対してイエスをくれたのは……母性本能の延長とか、勘違いとか、そういうのではないかと」
    「……は?」
    「いや、そんな訳ないと私はずっと否定したぞ!?けれどそのー、キャンチョメは私が信頼する者であるから、つい……のう……?」
    ぽかん、と目を丸めた清麿に、わあわあと両手を振りたくって否定する。 ……多分、怒られる事はないと思う。笑われるか、呆れられるかのどちらか。せめて罵倒だけは勘弁してほしいと思いながらリアクション待ちでぎゅっと目を瞑る。笑い声も、嘲笑も、罵倒もそのどれもが聞こえなかった。
    「……清麿?」
    恐る恐る、目を開ける。 ……そこには。

    「……ガッシュ」
    「う、ウヌ」
    「一分待て」
    「へ?」

    清麿の腰があった。もっと正確に言えば、ソファから立ち上がった清麿の腰が。
    しかも颯爽と踵を返してしまうものだから、見上げたものの、清麿がどういった表情をしていたか伺う事は出来なくて。部屋に向かうまではあんなに覚束なかった足取りは何処へやら、ずかずかと大股で部屋を歩いた清麿は、孤児院を出る際に持ってきた小さなキャリー……の横にぽつんと置いていた、今日の『一人で行きたかった買い物』のショッパーを掴む鳴り、バスルームに飛び込んで荒々しく扉を閉じた。
    (……も、もしかして怒らせた!?)
    思わずひゅうと喉が鳴るが、しかし、先程の声色からは怒っている様子は感じ取れなかった。怒っているならばもっと冷ややかな声だろう。何度も聞いたことがあるから自身がある。だからこそ、怒ってはいないと、思う。それにしたって何故バスルームに籠城したのか。あの紙袋を持って行った理由はなんだ。
    しかし一分なんてものは存外短いもので、ガッシュの困惑をよそにがちゃりと再び開けられるバスルームの扉。そして、そこには。
    「へっ」
    素っ頓狂な声を上げる間も無かった。清麿が……何故かワイシャツ一枚の、白くて肉の乗った太腿を惜しげなく晒した清麿が、バスルームに籠城した時同様にずかずかと大股で歩み寄ってくる。とんでもない恰好に、というか室内灯を反射して真っ白に輝く太腿に目を釘付けにされてしまって気付かなかったが、歩み寄ってくる清麿の顔は真っ赤だった。酒の赤みではない。歩み方こそ勇ましいのに、その頬はきっちりと羞恥に染まっていて。
    「ガッシュ!」
    「はいなのだ!」
    大きな声につい背筋が伸びてしまう。口から出た言葉は素っ頓狂だったが。
    思わず硬直したガッシュの横に、再び、清麿が腰かけて。そして白い手が、ガッシュの両手をきゅうと、頼りなく握る。普段はまっすぐに見つめてくる鳶色の瞳が、おろ、と所在なさげに揺れるのに、どっと心臓が高鳴ったのは言うまでもなかった。
    「……あのな、その、今日の買い物、なんだが」
    背筋の伸びる一喝を放ったとは思えないほど、蚊の鳴くような小さな声。清麿の言葉を一言一句聞き漏らすまいと、鳴りそうになる喉を堪えてひっそりと息を飲んだガッシュの耳に届いた言葉は。

    「……下着なんだ」
    「へ?」

    一体今日、何度こんな間抜けな声を出してしまっただろうか。兄に聞かれたら雷がその回数分落ちていたに違いない。
    清麿に握られた手の内側に、じわじわと、汗が滲んでくるのがわかる。どくどくと耳の後ろで血流が唸る。清麿の、言葉を迷っているかのように口ごもる唇は、別段化粧が施されている訳でもないのに何だか妙に艶めかしかった。
    「その、あのな?元々買おうとは思ってたんだ。だけどオレぐらいになると特注になるから。その……大きくて」
    「お、おおきくて」
    「だから何年も変えないでいたんだけど……その、お、お前と、そういう関係に、なったから」
    「そういう関係」
    脳が麻痺してしまって、言われた言葉を鸚鵡返しに放つ事しかできない。繰り返すなよ、と睨みつける清麿のひとみは、しかし恥ずかしそうに潤むせいで全然恐ろしくなどなかった。
    「ミラノに来たんだし、丁度いいやと思って……何着か、セミオーダーで作ってもらって」
    だから一人になりたかったんだ、と続ける清麿に、成程、とどこか遠く思いながら。
    ならばもしや、その『買い物』のショッパーを手に一度部屋を出て戻ったということは、と、子供でも分かるような答えにどっと身体の体温が高くなる。自然、清麿の胸元、ひとつ開けたボタンから覗く白い素肌に視線が注がれるのに、清麿は、気付いて。
    「……あのさ、確かに、お前に対して愛情以上のもんは、あるけど」
    その視線に対して、肌を隠す事もせずに。ずうっと握ったままだったガッシュの手を、その僅かな露出にひたりと添える。 ――熱く火照る、しっとりと湿度を帯びる素肌が吸い付くのに、冷静でいられる訳など、なかった。

    「母性とか、そんなもんで、 ……セックスまで許すわけ、ないだろ」

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