お題:桜、喧嘩、今日のおやつ松井が事務仕事を終えて自室に戻ると、同室の豊前が誰かと言い争っていた。
「ここに置いてあったもち食ったのお前らか!?」
「もち!!もち!!!」
喧嘩の相手はぶぜもちのようだ。後ろにまつもちを庇うようにして豊前に対峙している。
「ここに書き置きがあるだろ?『まつのもち』って書いてあんの。俺のもちとはいえ、お前もこれくらいは読めるだろ!?」
「もち!!もちもちもち!!」
「あ??だからまつもちに食わせてやったって?」
「もち!!」
「『まつもちのもち』じゃなくて『まつのもち』なんだから、まつもちじゃなくてまつのもちだろ」
豊前が松井のためにとっておいてくれたもちをぶぜもちがまつもちに食べさせてしまったのだろう。
「まあまあ豊前、落ち着いて」
「まつ!!帰ってたのか!ちょっと聞いてくれよ!俺がお前のためにとっておいた桜餅をこいつが」
「ぶぜもちは豊前に似て優しいから、まつもちに食べさせてあげたかったんだよね?」
松井はぶぜもちの頭を優しく撫でた。
「もちもち!!」
ぶぜもちは得意げだ。
「桜餅は淡い赤色だから、まつもちも好きだろう」
まつもちがぶぜもちの後ろでこくこくとうなずいている。
「俺だってまつに食わせてやりたくて買ってきたのに……」
「ありがとう。僕はその気持ちだけで十分だよ。と言いたいところだけれど……」
松井は豊前の耳元に顔を寄せる。
「僕も食べたいから、明日一緒に買いに行こう」
囁くように言うと、拗ね気味だった豊前はそれでおとなしくなった。
翌日、豊前と松井が桜餅を買ってきて自室に戻ると、机の上にはぶぜもちとまつもちが皿の上に乗って並んでいた。体の上に桜の花びらを何枚も乗せている。こぼれ落ちたのであろう花びらが周りに散らばっていた。
豊前と松井は顔を見合わせる。
「もしかして、桜餅のつもりか?」
「「もち!!」」
うなずくもちたちの背中から、桜の花びらが舞い落ちる。
「もちなりのお詫びの表現なのかもしれないね」
「それじゃあみんなで食うか!桜餅」
買ってきた包みを開けると、そこには桜餅が四つ並んでいた。