君の子腹をそっと摩る。膨らんだ腹部に宿った命が反応するように腹壁を蹴ってくる。
腹部が張ってもう動くのがしんどい。
腹部を抑えたまま、足を開き、ゆっくりと座り込んだ。
「おなか、痛い」
「探偵社に訪ねたら手前はもう帰宅したと聞いたが、こんなところで座りこんでいるとはな」
「中也」
こんなところに来るなんて思わなかった。探偵社近くの路地裏、マフィアが絡むような事件は何一つ起こっていない。なのにこんなところに現れるとは・・・
膨らんだ腹を隠すように外套の前を締め、ゆっくりと立ち上がる。
「こんなところで会うなんて偶然だね」
「最近手前が避けているんだろ」
「避けてなんかないさ、少し忙しいだけ…ッ」
中也に掴まれた手をあわてて振り払おうとするが、その拍子に外套を抑えていた手が離れてしまった。
「手前、その腹…ッ」
顕わになった腹部を見た中也が驚き、目を見開いた。
「身ごもったのか、誰の子だ」
「君には関係ないでしょ」
男なのに身ごもった、その事実を中也に知られたことが耐えられなかった。男性でも妊娠できるのはこの世界ではよく知られたことだ。だが、実例は少ない。当事者でさえも同じような男性に出会ったことはない。
「其れはねえだろ。手前と俺は付き合っているんだから、話し合うのは当然だろ」
「其れは…うっ、痛ッ、はあ、う゛」
中也の云うことは間違っていない。本来であれば話し合うべきだ。だが、考える間もなく下腹部が突っ張るような激しい痛みに、立ち上がれなくなった。腹部を抑えてずるずると蹲る。
「お、おい、太宰、」
「触るなっ」
焦ったような声と背後で動く気配に、思わず声を荒げる。余りの痛みに声が震えた。まだ予定日まで日もあるのに、切迫流産かもしれない。
「悪い、一先ず痛みが落ち着いたら探偵社に戻るぞ。女医に見てもらえ。話は其れからだ」
目の前がブラックアウトする。血圧が下がってきているのだと分かってもどうすることもできない。妙な浮遊感とともに、ふっと意識が遠のいて、再び気が付いたときには探偵社のベッドで寝ていた。