水仕事をする背中があって、ふと、その首筋に目が止まる。久々に見たな、と思った。
「え?」
思ったことはそのまま口から出ていたらしく、皿洗い中の北村がこちらを振り返る。今日は俺の自室で夕飯を食べたあと、北村が、その食器の後片付けをしてくれていた。俺がすると言ったのに、『雨彦さんはご飯作ってくれたんだからじっとしてて』と釘を刺され、今に至る。
じっとしていようとは思ったが、冷蔵庫に用があって台所へ近づいた。そこで、後ろ姿の北村が目に入った。ここまでの流れは、だいたいこういうことになる。
年末特番のドラマ撮影のため、ここ最近は、髪の長い北村ばかりを目にしていた。撮影期間はおおよそ半月で、その間、仕事以外の接触はなかったから、髪の短い北村を見るのは、そういえば久しぶりだった。久しぶりに見たからこそ、すべすべとしたうなじに、すっかり目が止まる。そんなところに興味を引かれるなんて俺も歳をとったなと思いつつ、しかしまあ、北村だからということにしておいた。
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