水仕事をする背中があって、ふと、その首筋に目が止まる。久々に見たな、と思った。
「え?」
思ったことはそのまま口から出ていたらしく、皿洗い中の北村がこちらを振り返る。今日は俺の自室で夕飯を食べたあと、北村が、その食器の後片付けをしてくれていた。俺がすると言ったのに、『雨彦さんはご飯作ってくれたんだからじっとしてて』と釘を刺され、今に至る。
じっとしていようとは思ったが、冷蔵庫に用があって台所へ近づいた。そこで、後ろ姿の北村が目に入った。ここまでの流れは、だいたいこういうことになる。
年末特番のドラマ撮影のため、ここ最近は、髪の長い北村ばかりを目にしていた。撮影期間はおおよそ半月で、その間、仕事以外の接触はなかったから、髪の短い北村を見るのは、そういえば久しぶりだった。久しぶりに見たからこそ、すべすべとしたうなじに、すっかり目が止まる。そんなところに興味を引かれるなんて俺も歳をとったなと思いつつ、しかしまあ、北村だからということにしておいた。
あまり本人に伝える機会もないが、自分はこの随分年下の恋人のことを、おそらく、余すことなく好いている。
「撮影中は隠れてたからな、久しぶりだと思って」
「……なんのはなしー?」
訝しげにこちらにじとっとした視線を向ける北村の背後に立ち、該当箇所を人差し指の腹でなぞってやった。分かりやすく、飛び上がらんばかりに動揺したらしい北村は、ひ、とか細い悲鳴をあげる。
それが予想外に大きな反応で思わず笑ってしまうと、北村は今度は、ぐるりと首を捻って、すぐ後ろにいる俺の顔を見ようとする。お皿洗ってるんだけど、とか、至極順当な抗議をされると思っていたら、その顔は、予想外に赤らんでいた。
「…………えっち」
画して、皿は、残り一枚。
そのくらいならいいだろうということで、後ろから北村を抱きとめる。わ、と驚きの声は上がっても、拒否する素振りは見られなかった。
仕事をしていたおかげで半月というか時間はあっという間に過ぎていったが、それなりに、まあ、溜まったものはあるわけで。北村を相手にするとトリガーが馬鹿になる自覚がなくはなかったが、たまには、こういうのも悪くない。二人きりで会うのだって、随分久しぶりなのだから。
ところで、最中、戯れに『主様』と呼ばせて見たら、思いがけず良かったことは反省している。翌朝、北村が何も覚えていないことを祈る。