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    じゅん

    趙にハマってる気が狂ったオタク

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    じゅん

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    みどりちゃんに書いた落書き
    すごく書きかけ

    レンマサの始まり方ってどんな感じかなってお話「お前に恋愛ってものがどういうものなのか、教えてあげるよ」

     セリフの甘さとは比べ物にならない程の低音で喉が鳴った。威嚇にも等しく、しかしこれは愛の告白ではなく宣戦布告であったから問題にはならなかった。ーー仲間へ突きつけるものでは決してないのであろうが。
     その証拠に、言われた聖川は言葉を飲み込めずに呆気にとられている。それもそうだ。なんの前置きもなく、いきなり本題だけを切り出したのだ。相手を気遣わない無作法な会話は普段ではありえないことで、だからこそ非日常への一歩となる。
     レンは、長年の付き合いである聖川と恋愛することにした。幼馴染であり、同級生であり、今ではアイドルグループのチームメンバーであるこの男と。決して恋情からの申し出ではなく、腹の底から湧き上がる怒りに似た激情からである。この怒りが風化する前に、この男に思い知らせなければならなかった。
     だから、こうやって自分の車の助手席に乗せて、逃げ場のない空間で切り出した。
    「お前は、うん、と言わないと車から降りられないよ」
    「......は......?」
    「いや、言わなくてもいいか。もう決まったことだし」
    「よく意味がわからないんだが」
     芯のブレた声で聖川が返す。それに舌打ちしたくなった。少し前まではそんな情けない声を出さなかったのに。
     よく見なくても、聖川の元から白かった肌はより血色失っているし、目の下には青黒いクマができている。身体の線もほっそりとした。どう見ても、弱っている。病気ではないことを知っているからこれは精神的な問題だ。
     全く厄介な男だ。こんなふうに弱られて見過ごせるわけないのに。
    「お前は何も考えずにオレに付き合えばいい」
     聖川の頭を軽く叩く。
    「......ハンドルは両手で握れ」
    「今いうこと?」
     聖川はズレた指摘をして、眉を顰めている。今の状況とは不釣り合いの言動におかしさが込み上げてきて吹き出した。面白そうに笑うレンを見て、むむむと不満げにする姿にすっかり毒気を抜かれる。
    「お前はそうじゃなくちゃ」
     ようやく気分が落ち着いた。
     そうだ、聖川は変わる必要がない。

     そうして、あっさりと聖川の家に転がり込んだ。寝不足で判断力の鈍っているやつを丸め込むのなんて簡単だったし、何より二人は長いこと共同生活をしてきた仲だったので驚く程同居のハードルが低い。多分、二人で飲もうと誘うより楽だ。長年、否応なく暮らしてきたので、「一緒に暮らすから」も「またか」程度だった。
     使われていないゲストルームに大荷物を運び込んで好き勝手に私物を配置していくのにも聖川は何も言わない。なんとなくぼんやりとレンの動きを眺めているだけで、こちらが心配になる無防備さだ。
     ほんとーに大丈夫?と心配になって冷蔵庫の中身を漁って配置を変えようとしたら怒られた。良かった、聖川は正気だ。台所という聖域への縄張り意識は健在だった。
     「野菜室にバターを投げ込もうとする奴がいるか!」と怒りながら、大事な冷蔵庫が荒らされていないか念入りにチェックしている隙をついて、家の中を見回る。
     一人暮らしには広いと言ってもマンションの一室なので、それほど時間はかからない。リビング、寝室、バスルーム、ドレスルーム。一通り確認して、"他人"の香りのしなさに安堵した。
     良かった。根城までは荒らされていなくて。
     聖川は放っておけば家の中で1日が終わるやつだ。自覚があるのかは知らないがインドアなタイプで、そういう人間にとっての自宅はレンみたいな外を飛び回る人間に比べて思い入れのある場所になるだろう。だから他人に好き勝手されてほしくはなかったのだ。有無を言わさず転がり込んできた自分が言うことではないのだが。まあ、他人ではないし。今更この程度で騒ぐ仲でもないし。
     「前にお前が来た時から、別に変わってるところはないぞ」
     「そうだね。驚く程簡素」
     「居候の身で文句か?」
     「いや、安心してる。模様替えでもされてたら怒ってたよ」
     明らかに趣味ではないだろう本やCD、インテリアがあったら許せなかった。無遠慮に聖川の領域を荒らした他人にも、それを許した聖川にも。
     「お前の家じゃないだろう」
     「もうオレの家だよ。だからセンスのない内装はごめんだね」
     「......派手に飾り立てるのは趣味じゃない」
     どうやら、インテリアに文句をつけられていると勘違いしたらしい。
     「知ってる。安心しなよ。オレはお前の居心地を悪くするような感性はしてない」
     「どうだかな」
     どうでも良さそうな様子にため息が出る。そういう隙がだめなのだ。はっきりと自分のテリトリーだから手を出すなと言えないと。
     「しょうがないね。しばらく住むことだし、オレが整えてあげる」
     だから聖川が自衛できるようになるまで、自分が守ってやることにする。

     ここは、神宮寺レンのテリトリーだ、足を踏み入れるなら覚悟しろ、と。

     幸運にも世界を創り上げるのは得意だった。とびきり、美しい世界を作ってあげよう。居るのが怖くなるほどの。

    ***

     実のところ不眠症を疑っていたのだ。明らかに眠れていない充血した目やクマ、いつもより鈍い反応や頼りない足取り。それらを聖川は隠せていると思っているようだったが、残念ながら長い付き合いなので察してしまう。
     ああこいつ寝れてないんだな。でも、みんなには気づかれたくないのか。心配をかけたくないってのは分かるけど、やるなら完璧にして欲しいよね。面倒だなーー、まで聖川を視界に入れて数秒で思考できる。
     なので、家に上がり込んだのは単に寝かしつける目的だった。お腹いっぱい食べさせて、温かい風呂に入れ、寝付くまでそばにいる。それでもダメそうならイイ医者を探して連れていく。睡眠に関しては一朝一夕に解決することがなく、長期戦を覚悟して臨んだのだけれど。
     それはもうあっさりと寝た。ベッドに入れて、隣に横たわって子守唄を歌ってポンポンと布団の上から叩いてやればイチコロだった。単純に活動限界がきていて寝落ちたのかもしれないし、入眠には問題なくとも夜中に何度も目覚めてしまってうまく寝れないタイプなのかもしれない。案外、寝る前に飲ませたハーブティーが効いたのかも。
     ともかくしばらくは様子を見ながらやっていくしかない。隣で寝ていれば分かってくるだろう。レン自身それほど眠りが深くはないから、異変にはすぐに気づけるはずだ。
     スマホを覗くと深夜1時を回ったところだ。聖川には遅寝、自分には早寝の時間。
     まあ、寝るか。寝れる時に寝ておく。サバイバルの基本だ。
     ここを自分のテリトリーと定めたけれど、いつ問題や危険が起こるかはわからない、そういう場所だった。

     「............__________ああ......」
     何度目かになる蹴りを食らって、目を覚ます。非常に不機嫌な声を漏らしてしまった。そうだ。そうだった。聖川真斗は寝相の悪さの代名詞だった。うん、でも体格のいい大人二人で寝ても余裕のあるベッドの上でこれほどまでに的確にこちらを蹴ったり、腕を振り回して腹に当てたりできるのか。
     実は起きていて嫌がらせしてるんじゃないだろうな?
     そう思って寝顔を覗き込むも狸寝入りではなさそうだった。呼吸も乱れていない。心身共に疲れているはずなのに何故これほどまでに元気に眠れるのかが分からなかった。全く動かず死んでるんじゃないかと不安にさせるくらいに深く眠りに落ちていてくれた方が幾分マシだ。
     「......縛り上げるか......?」
     睡眠を邪魔されると人は攻撃的になる。部屋に縄かそれらしきものはないかと視線を彷徨わせたが、近くに良さげなものはなかった。仕方ないのでクローゼットを開けて中を眺める。几帳面に整頓されている衣類しかない。それもそうだ。クローゼットに縄がある確率は低い。それなら縄はどこにしまっておくべきものか...?と考えてふらふらとリビングの方まで足を伸ばしたあたりで、頭を締め上げる眠気に襲われてそのままソファに倒れ込んだ。
     「ねむい......まぶしい......」
     遮光カーテンの引かれている寝室と違い、ここはカーテンを通して薄らとした朝日が降りてきていた。もう朝なのかという気持ちといいから眠りたいという気持ちと起きたら文句を言ってやるという気持ちでごちゃごちゃになりながら眠りに再び落ちていった。


     訳がわからないことを言いながら神宮寺が自宅に居着いてから二週間経った。好き勝手に室内を飾りつけたり、見たこともない食材を買ってきて何か作れとせがんだり、大きな花束を抱き抱えて帰ってきたり、概ねマイペースに神宮寺は生活している。
     今更この男の考えを理解しようとすることすら面倒だな...なんて怠惰な考えがあるからどうにかしようとすら思わない。(小言や些細な言い争いはあってもそれは日常なので勘定には入れない)
     それに今は、誰かのペースに巻き込まれて思考の隙を与えられない方が楽だった。深く思索にふけるとどうしても嫌な感情ばかりが溢れ出してきて、自分のことを見下してしまいそうになる。いつだってどこかで誰かに囁かれている気がする、"お前じゃなくてもいい"、"お前はなんだ?"、という声が重みを増してのしかかってくるのだ。
     大体、その重圧は夜にやってきて真斗を苛んだ。今更そんな問答する必要すらないはずなのに。
     それが神宮寺がいると不思議と止んだ。どこにいても目を惹く男だから、自然とその存在を思考の片隅に置いてしまう。その雑音めいたところが今は有り難かった。無理矢理に意識を使わせてくるから気づけば疲れていて、夜が過ぎる。寝ている時ですらその存在は確かで、いつのまにか隣で寝ることを日常にした神宮寺は寄り添えば温かかった。
     人肌のぬくもりなど初めて知ったかもしれない。そしてその安心感も。
     昼間はあれほどうるさい癖に眠る時は静かで、真斗に触れないように遠慮がちに横たわっていた。筋肉質な体躯はマットレスに沈んで確かに存在を訴えているのにどうしてだか生身の人間に見えない。だからそばによって触れて、温かさと吐息で生きていることを確認した。そうするとすり寄ってきた真斗を何かと勘違いするのか優しく抱きしめて足を絡めてくるから窮屈で仕方ない。
     しかし肌寒くなっていく季節にその体温は心地よく、浅い微睡に誘われていくのだった。深い睡眠は得られずともそうやって過ごす夜は少なくとも心を病ませない。
     お前も役立つことがあるんだなと言えば嫌な顔をするのだろう。気分を害す神宮寺を見るのは悪い気分じゃないから、機会があれば言ってやってもいい。

     「で、お前、話聞いてる?」
     「何がだ?」
     食後に一服してぼうっとしていたら、いつのまにかソファの隣に神宮寺が座っていたらしい。
     「聞いてなかったってわけね。はいはい、また初めから話してやる。次のオレの休みとお前の休みが被ってるから何処か出かけようかって提案したところ」
     「............待て。何故お前が俺の休みを把握している」
     「同じ事務所で同じグループにいるんだから、スケジュールくらいすぐ調べられるよ」
     「それもそうだな。でも珍しいこともあるものだ。連れ立って出かけたいなどと」
     「何。イヤなわけ?」
     「別にそういうわけではない。お前が俺を誘うなど滅多にないだろう。何処か行きたい場所でもあるのか?」
     「お前、もう忘れたんじゃないよな?」
     まじか、信じられない。とばかりに顔をまじまじと見つめられる。
     「......?」
     「言っただろ。恋人になるって」
     「はあ......。聞いた覚えないが」
     「聖川お前......耄碌したな」
     次は可哀想なものを見る目だ。やめろ。
     「いつそんなことを言った」
     「一緒に暮らすって話した時に言った」
     「そうだったか?」
     記憶を探ってみる。
     そう言えば「恋愛を教えてやる」だとか偉そうに言ってた。それだろうか。いやでも教えるのと実際の交際は別であるはずだ。
     「やはり記憶にない」
     「お前さぁ......まあいいや」
     「良くないだろう。そもそもいつから付き合ったことになっている」
     「ん〜、ニ週間くらい前?」
     「俺たちもうそんなに付き合ってたのか......」
     「時間が過ぎるのは早いよな」
    「本当に付き合ってるのか? 別に今までと何も変わってないように思えるが」
     「一緒に住んでるじゃん」
     「学生時代も共に暮らしてただろう」
     「そうだけどさあ」
     「......つまりこれは同居ではなく、同棲......になるのか?」
     「えっ、なんかそれ気持ち悪......」
     自分から言い出して始めたことなのに、身を震わせている。神宮寺はやはり訳の分からない男だ。
     「おい、俺との同棲が気持ち悪いとはなんだ!」
     「......だって、ねえ......」
     「だってじゃない。勝手に始めて勝手に気色悪がるな!」
     「分かった!......分かったから!」
     悪かったってば〜、とおざなりな謝罪に本気で憤慨しそうになる。何もしていないのに、いやどちらかと言えば神宮寺の好きにさせてやっているのに挙げ句の果てに"きもちわるっ"と言われるのは納得がいかない。正体不明の食材で作った料理名もつかない何かの少し可笑しな見た目には怖気付かない癖に、自分との同棲にはちょっと吐き気を催してるのだ。小さな声でうぇ...と言っているの聞こえてるぞ。
     「聖川」
     「............なんだ」
     「お前、顔が怖いよ」
     「誰のせいだと思ってる」
     平静を保つのに精一杯で、声の震えまでは制御できない。爆発直前であることを悟ったのか、神宮寺は息を吐いた後にそっと手を重ねてきた。
     「お前侮辱するつもりはなかった。ちょっと......現実についていけてなかっただけ」
     「......」
     少し困ったように笑われる。言い争いをしてこんな風に折れてくることが珍しくて、驚きで怒りが萎えてしまった。
     「......、特別に許してやる」
     「どうも」
     「で、」
     「うん」
     「俺たちが付き合っていると仮定して、どうして一緒に出かけようとする?」
     「は?」 
     まじか、信じられない。という顔を神宮寺が再度する。なんなんだ。
     「あのさ、聖川」
     何も知らない幼い子を諭す口調だ。口調の柔らかさに比べて、瞳は諦めを浮かべてまるで見放したがっているようだった。
     「お前は知らないかも知れないけど、恋人っていうのは連れ立って出かけるものなの。それを世間ではデートって呼ぶんだよね」
     「そのくらい知っている」
     「俺とお前は仮にも恋人なわけ。それなら行くでしょ、デート......」
     「............そうか......?」
     俺と神宮寺がデート......?
     全く想像がつかない。どころかちょっと薄寒い気がする。
     「それはどうしてもいかなければならないのか?」
     「うっ......」
     「神宮寺......?」
     「聖川、お前には分からないんだろうね」
     「何が」
     「デートを渋られる気持ちが......」
     ふらりと力なく立ち上がった神宮寺が、まるで亡霊の如く真斗の前に立った。
     「ごめん、休憩させて」
     「......、ああ」
     あまりの悲壮さにうなづいてしまった。そのままヨレヨレと自室に戻っていき、その夜は部屋から出てこなかった。



     あまりの精神的な疲労から一夜寝込んだ結果、一つの結論に至った。聖川との対話は困難であると。いやまあ確かに、二人が付き合っているだとか恋人同士だとか頭で理解して納得しろというのは些か難易度が高い。言い出したレンですら、まだ受け入れきれていない。しかし、今の聖川を相手できるのは自分しかいないという妙な確信と責任感があるからやってこれているのである。
     ーーしっかりしろ、神宮寺レン。お前ならできる。
     大一番、あるいは大舞台に臨む気持ちで、自分に喝を入れた。
     対話に敗れた今、取れる選択肢といえば?
     そう、既成事実を作り上げる、だ。相手が意識してなかろうが、一緒に住んで、出かけて、それっぽく振る舞っていればいい。恋人っぽい行動を積み重ねて、あとは「責任をとれ」、と言う。ちょろいもんだ。ありもしない責任を押し付けるだけで、名目上恋人になれるのだから。恋人になったら恋愛とはなんたるかを教えてやればそれで役目が終わる。
     こういった分野は得意ではあるので何の不安もない。一つあるとすれば、聖川相手に強引に迫らなくてはならないのはプライドに傷がつくくらいだ。
    その一つがかなり大きな問題ではある。一時は険悪な関係だった男を相手にする戸惑い。それだけではなく、自分のことをよく知られているというのもやりにくさに繋がる。何が好きか嫌いか、思考の癖、行動パターン...ある程度のことは理解されている。----レンが聖川のことを恋愛対象だと見ていないことも。
     だから聖川は、受け入れないのだ。本気の想いじゃないのを気づいているから。
     だからと言って、放っておいたら多分あいつは潰れてちゃうだろうし。
     今、"恋愛"について聖川に教えないといけないという切迫した気持ちがある。これ以上、"自分"が"愛される"ことを考えもしないつまらない人間になってしまうのはどうにも癪に触るのだ。これもかれも、不用意に不躾に聖川が傷つけられたせいで。
     「......ああ、最悪だな」
     ひどく腹を立てた記憶が蘇りそうになって慌てて思考を止めた。


     「もう満腹だ」
     木曜、午後八時。ディナータイムに突然呼び出された聖川はひとしきりの文句を言い、強引に勧められた料理の数々を食し、律儀に感想を言い終えてからフォークを置いた。 
     「ね? 美味いでしょ」
     「ああ」
     「お前はオレの味覚をもっと信用すべきだと思うね」
     「別に疑ってはいな......、いやたまに疑っている時もあるな」
     
     
     
     

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