黒犬を愛でる1黒犬を愛でる
「オルトいる?開けて!!」
「こんばんは、いきなりすみません」
ドアを騒々しく叩く声に渋々家の入り口を開けば親友と白銀の美丈夫が一緒に立っていた。外は吹雪の極寒の中、わざわざ訪ねてきた二人を帰すわけにはいかず、オルトは苦虫を噛み潰したような顔をして仕方なく客人を家に招き入れた。
「こんな夜分遅くにすみませんね」
「ごめんオルト、二人でオルトの話をしているうちにどうしても会いたくなっちゃった」
オルトは深いため息をつきながら二人分のカップにホットワインを注ぐ。程よく温められた赤ワインの湯気から甘いスパイスの香りが漂った。
「で、こんな夜中に二人して家に何の用なんだ」
「そんな怖い顔しないでよ。オルトと三人で話がしたいと思っただけなんだから」
「三人でって、話だけじゃないだろ?」
「まあね」
「お前たち、だいたいいつもいつも。今日という今日はハッキリと言わせてもらうが、俺を利用するのも大概にしろ!!」
「オルト、利用ってどういう事なの?僕たちオルトの事を利用したことなんて一度もないんだけど」
「そうですよオルト君。利用だなんて人聞きの悪い。君、誤解してます。どこがそう感じさせるのか教えてくださいよ」
オルトは眉間の皺を一層深くしながらグラスに残っていた火酒を一気に煽り勢いづいて二人に日頃から思っている不平不満をぶちまけた。
「まず、二人でイチャイチャしたいなら家じゃなくて連れ込み宿へ行け。宿代浮かせたいからって家に押しかけてくるな!!」
「それから2人でイチャイチャしてる時に俺を誘ってくるな。お前らの恋愛に俺を巻き込むなよ!!そんな申し訳程度に取って付けたみたいな扱いは不愉快だ。金輪際ごめん被る」
「あと行為中に好きとか愛してるとか軽々しく言ってくるなよ。毎回毎回心にもない事を言われて虫唾が走る!!」
「あとは?」
「あとはもういい!!!だいたいそういう事だ。頭が痛い!!」
オルトは一息に言い切るとこめかみを抑えて机に突っ伏した。
「火酒なんか一気に煽るから。まずは水飲んでくださいね。あと酔い醒しも」
「……すまない」
「オルト君、きみはやはり誤解している。私達が君の事を愛しているのは本当だし、君と三人で愛を育みたいと思っているのに」
「そうだぞオルト。僕たちオルトのこと本当に可愛いと思っているんだから。それに宿代浮かせたいからオルトの家に来るわけじゃないよ。オルトの家でするのが嫌なら三人で宿取ってもいいし」
オルトの親友はグラスに水を継ぎ足しながらアルコールに苦しむオルトを気遣ってそっと背中を撫でてやった。
「……ノスが一人で家に来る事もあるだろ。……リックがいないからって肉欲満たしに来るのは何なんだ」
「好きな人に会いに一人で来たらいけませんか?もしかして誰でもいいから適当に抱かれに来てると思ってたんですか??」
「……違うのか」
「失礼な!!そんなわけないじゃないですか!君と愛し合いたいからに決まってるじゃないですか。私は二人の事をそれぞれ平等に愛しているんです!!」
「…………その感覚、全くわからない。…リックはどうなんだ」
「僕もオルトと―ノスさんの事を同じくらい愛しているよ」
「……リックは…ノスが寝取られるのが好きだから家に…ノスを寄越していると思っていた」
「は!?オルトその発想はムッツリすぎるよ」
それを聞いた白銀の美丈夫は思わず吹き出して肩を震わせ涙を流し、声を立てずに窒息するほど笑った。そんな感じでしばらくおかしなやり取りをした後、オルトは机に突っ伏したままスヤスヤと寝息を立てて眠りに堕ちた。
「寝落ちしましたね」
「オルトやっぱり可愛い」
「そうですね、愛していますよオルト君。寝室に運びましょうか」
「そうしましょう」
二人はオルトを寝室に運び、穏やかに眠るオルトの寝顔を眺めた。