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    綴 舞

    @id_es000

    二次創作中心。左右固定。ジャンルはその時ハマったもの。

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    綴 舞

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    捏造過多。ほとんど全員生存のハッピー世界軸。
    モゴ褪成立前。
    続くよ。

    モゴ褪1お土産です、そう微笑みながら褪せ人はモーゴットの前に立つ。
    差し出されたのは両手に収まるだけの、ささやかな花束。毒にも薬にもならない、名前すら存在するのかも分からない花。
    人々に踏み躙られ、目を向けられることが無かった花々を、エルデの新たな王は愛した。

    「王都に戻る途中、たくさん咲いている場所があったんです。休憩も兼ねて、いくつか摘ませて貰いました」

    執務室に置いても良いかと問われ、モーゴットは緩慢な動作で首肯する。それを見て褪せ人は笑みを深くすると、何か生けられるものを探してくると踵を返した。
    女の動きを追うかのように、星色の髪がふわりと揺れる。黄金とは異なる色彩に、モーゴットは目を細めた。




    『何度も、繰り返しました』

    かつて、王都にて対峙した褪せ人は言った。

    『何度も何度も。何か見落としがあったのでは無いかと、繰り返して、繰り返し続けて。私だけ、ずっと。たった独りで。
    ……嗚呼、違いますね。「独り」は間違っていました。
    トレントと、旅を共にした遺灰達は何故か私を「私」だと。……いつだって一緒だったから』

    笑う女の顔は酷く歪んでいたにもかかわらず、モーゴットを射抜く瞳は爛々と輝いていた。

    『——申し訳ありません、モーゴット様』

    そう、まるで夜空で一等明るく、己を燃やし続ける星のように。

    『私も、ただ……愛しているのです』



    狭間の地で息を吹き返した褪せ人は、全ての大ルーンを手に女王マリカに謁見し、王と成った。
    しかし彼女はエルデンリングを得ることは無く、気付けばデミゴッド達には奪われた筈の大ルーンが再度宿っていた。
    以降、黄金律の崩壊により狂った世界は少しずつその様相を変えていった。

    狂気に侵された人間の目には理性が戻り、人々が定住する場所を確保するために土地の復興が始まる。
    それらの指揮を取ったのが、彼女が旅路で出会い、かつて失われた者達だった。
    未だ道半ばであり、世界は混沌に満ちていても、そこには確かに未来があった。

    その様を見て星色の瞳が安堵に濡れたのを知るのは、恐らくモーゴットだけだろう。



    「モーゴット様」

    手頃のものがありましたよ、と小さな掌で包み込めてしまう大きさの陶器を机の上に置く。
    女の手にすら収まってしまうのだから、モーゴットが手にすればたちまち割れてしまうのだろう。
    花瓶を凝視しすぎたのか、褪せ人は小さく笑って、大丈夫ですよ、と微笑んだ。

    「この花瓶は特注ですから。アレキサンダーさん、と言えば貴方にも分かりますか?」

    なるほど、と一つ頷く。

    「花瓶では無く、壺か」
    「はい、ディアロスさんの手製です。見た目よりも遥かに丈夫なんですよ」

    そう言って、彼女は王都に至るまでに見聞きしたものをモーゴットに話していく。
    勿論その中には彼女が王として視察してきた内容も含まれるのだが、6割は寄り道にも等しい内容だった。
    しかし、モーゴットにとっては無駄と断じる事柄も、後から何かしらの役に立っているのだから褪せ人の嗅覚なるものは侮れないのも事実。
    なので、致し方なく。本当に不本意ではあるものの、彼は女の鈴を転がすような声音に耳を傾けている。

    「此方へ戻る途中にモーグ様の所にも行ってきました」

    女は一度言葉を切り、少しだけ気まずそうに再度口を開く。

    「その……マレニア様と、一緒に」
    「何?」
    「あ、あの。あのですね、特筆して何かが起こった訳では無いのですが」

    ——いえ、モーグ様の頬は犠牲になりましたが、それ以外には何も。針で抑えているので彼女が再び咲く心配もありませんし。

    しどろもどろに説明を始める褪せ人に、モーゴットは無言で続きを促す。
    何も喋らずとも黄金色の瞳は威圧を放っていて、女は久方振りに彼と対峙する緊張感を味わっていた。

    「マレニア様に剣の稽古をつけてもらっていた時に、ミケラ様の居場所を、つい、ポロッと」
    「……」
    「いずれ告げるつもりではいましたが、言うタイミングを間違えました。そのまま勢いで、共にモーグ様の元へ」

    正確には駆け出すマレニアの背に必死にしがみ付いていただけなのだが、そこまで説明する必要は無いだろうと褪せ人は事の顛末を語る。

    「ミケラ様は眠っておられますし、再度動かすのも何があるのか分からないので、一先ずは様子見ということになりまして」

    それでも溜飲が下がらないマレニアによってモーグの頬に拳が打ち込まれたのだ。
    暗闇を割く黄金色の拳は矢の如く。それは血の君主の硬い頬を真っ直ぐ撃ち抜いた。
    側で見ている他無かった褪せ人は、その美しい一撃に心底惚れ惚れし、どうっと大きな音を立てて頽れたモーグに我に返ったのだ。
    怒髪天のマレニアと激昂するヴァレーを何とか宥めすかして、ミケラに関する幾つかの約束を取り付け、マレニアを引っ張って聖樹の元まで帰る頃には褪せ人はすっかり疲労困憊になっていた。

    「自業自得だ」
    「返す言葉も……」

    迂闊でした、と肩を落とす褪せ人に、モーゴットは重く長い溜め息を吐く。
    何も起こらなかったことに安堵すればいいのか、どこか抜けている褪せ人に王としての自覚を促せばいいのか。
    もう少し何とかならないものか、と思ってしまうのも致し方ないことであった。

    ところで、とモーゴットは話を変える。

    「すぐに発つのか?」
    「いいえ。今回の視察は長かったですし、王都もゴッドフレイ様と貴方に任せっきりでしたから。たまに円卓に赴く以外は大人しくしていようと思います」

    ボックのこともあちこち連れ回してしまいましたからね、と付け足す。
    彼女の専属お針子は既に休んでいるらしい。無理やり休ませたと女は言っていた。
    主人よりも先に休息に入るのを拒絶し、許容量以上に働いてしまう傾向にある彼に対して、褪せ人は誰が見ても明らかに心を砕いていた。

    言葉を惜しむことはせずに、時には手を取り、時には抱き寄せ、謝意を述べる。
    目を逸らさない褪せ人に、ボックも少しずつ心を許していったらしく、最近では時折小言を言うまでに至ったとか。
    主人の無頓着をどう改善するか。側でロアの実を食む霊馬に相談していたのをモーゴットは遠目に捉えていた。

    「少しは節度を持て。お前の従者の心労が目に浮かぶ」
    「肝に命じます……」

    心なしか沈んだ声音で答えた褪せ人は、気持ちを入れ替えるように一つ頭を振る。
    ふと外に視線を移せば、すっかり日も暮れてしまっていた。

    「申し訳ありません。すっかり話し込んでしまいましたね」
    「ああ……」

    時間を忘れていたと自覚したモーゴットは口を噤む。
    女は首を傾げるものの特に声に出して問うことはせずに、貴方も早く休んでくださいね、と扉に向かう。

    「——モーゴット様」

    星と称される女は、その字を彷彿とさせる瞳を瞬かせて、真っ直ぐに忌み王を見つめた。

    「貴方をお慕いしています」

    花が咲いたかのように柔らかに微笑みながら、お休みなさい、と一言残して褪せ人は部屋から立ち去る。
    一人残された彼はその背を見送ることしかできず、彼女が置いて行った花だけが葛藤に歪められたモーゴットに静かに寄り添っていた。
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