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    綴 舞

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    二次創作中心。左右固定。ジャンルはその時ハマったもの。

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    綴 舞

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    pixivに載せたジャク監小説。
    Log7の後の話。

    #ジャク監
    jacuzzi
    #腐向け
    Rot

    ご機嫌な日ジャックが監督生を意識し出したのは、オクタヴィネル寮長のオーバーブロット事件があった後あたりからだった。
    彼に対する第一印象は、どこか読めない奴から始まり、決して腹の底から信頼を置けるような人物では無かったのが本当のところだ。
    胡散臭いというより、浮世離れしているような。
    本当に「此処」で生きているのか分からないような。
    そう、まるで幽霊のような。

    なので、そう。
    初めて、彼が本心から笑った姿を見た時。
    そのヘタクソな笑みが彼の本心だとジャックが確信した時。
    不意に、ああ可愛いな、と思ってしまったのである。

    まあ、それが始まりだ。
    突拍子もないことを言ったり、目を向くような行動ばかり起こしている奴だが、一度可愛いと思ってしまえば終始可愛いのである。ジャックにとっては。

    もちろんジャック自身、自分の思考がちょぴりおかしいことは自覚していた。
    だって、相手はあの監督生。
    儚い見た目とは裏腹に豪胆。
    生き汚いかと思いきや、生き抜くことには執着していない。
    執着していないせいか、やることなすこと思い切りが良過ぎて、側で見ている方が肝を冷やすこともしばしば。
    そんな監督生を可愛いなどと溢したあかつきには、眼科を勧められることは必至。

    冷静にそう判断したジャックは、監督生に対する想いというか、衝動というか、そういうものをポロリと零すのは大抵自分が尊敬するラギーやレオナの前だけだった。
    正確に言うと、ラギー8割、レオナ2割だろうか。
    だって我らが寮長はジャックが元気な昼間は大抵寝ているから、話したくたって話せないことの方が多いのだ。

    比率に圧倒的な差はあるとはいえ、レオナは気の向いた時にジャックの話を聞いてくれる。
    それがやっぱり嬉しいから、ジャックは自分が好きなモノの話をよくしていた。
    結果、監督生の話がまあまあの頻度で出たというわけである。

    ジャックから見た監督生の話を聞いて、レオナは最初びっくり眼で信じられないという顔をしていた。仕方がないとは思う。
    その時レオナからは、大丈夫か、と言われたけれども。
    今思えばあの時の確認は、ジャックの目が大丈夫なのか、では無く、監督生で大丈夫なのか、だったのだろうと思う時がある。
    ジャックは狼の獣人であるし、その性質は生涯ただ一人だけを想い続けるものだ。
    監督生が移り気というわけではない。ただ、いつ死んでもおかしくないような生き方に対して、レオナはそう言ったのだと思う。

    その懸念も致し方ない。
    誰よりも監督生の側にいる相棒が時折零すのだ。

    気付いたらいなくなってしまいそうだ、と。
    いっぱい傷を付けているのに、まったく痛くないように振る舞うから。
    いや、きっと本当に痛まないのだろう。それが只々不安だ、と。

    宝石のような青い目を揺らめかせて、獣の耳を情けなく倒して、監督生の相棒は、グリムは言った。
    そんな小さな吐露に、ジャックのみならずその場に居たエースもデュースも何も言えなかった。
    大丈夫だなんて、そんな無責任なこと。言えるはずもなかった。

    だから、というわけではないけれど。
    ジャックはその時には既に監督生を自分の唯一だと定めていたので。
    死んでもらわれたらたまらない、と。どうにかしようと心に決めたのだ。
    とはいえ、監督生に対して正面切ってあれこれするのは悪手。
    あくまでも傍観を徹底しつつも、それとなく彼の行動に口を挟むことにした。
    側から見れば、本当に微々たるものだったけれど。

    そもそも、ジャックは決して気の長い男ではない。
    目標に向かって一途にひた走る努力家ではあるが、暖簾に腕押し、糠に釘は望むところではない。
    でも、監督生に対してだけは焦ってはいけないと本能が訴えていた。
    ジャックはそれを否定すること無く、狩りをするかのように慎重に、だがそれを相手に悟られないように接していた。

    たぶん、真綿で包むかのように柔く、緩やかに監督生の逃げ道を閉ざしていたと思う。
    最後の選択だけは本人に残しておいたけれど。
    ジャックは本心から彼を望んでいたが、縛りたいとは思っていなかったから。

    だから、まあ。監督生本人がジャックに対する想いを伝えてきてくれたことは。
    本当に、本当に。

    ——本当に、嬉しかったのだ。

    赤子の刷り込みのように、ただひたすらにジャックだけを求めていた彼が、改めて自身の気持ちを自覚して言葉にしてくれたことに安堵したのだ。
    思わず何の手加減もせずに抱き締めてしまったので、小さな彼は蛙が潰れたような声を上げていたけれど。

    とにかく。
    晴れて、というか、ようやくというか。正式にお付き合いすることになったわけである。
    既に家族に紹介しておいて何を今更、とは思わなくもないが、ケジメは大切だ。
    実際に、一番お世話になった同寮の先輩二人に報告したところ、ラギーは手に持っていたレオナの洗濯物を床にぶちまけるし、寮長はベッドから落ちた。
    と思ったら、そのままの体制で何か探し当てると、それを掲げて憤然と言い放った。

    「祝いだ。呑むぞ」
    「レオナさんと違って俺たち現役生ですから呑めないっス!」

    ジュースだよ、とクッションでぶん殴られていたラギーを見つつ、今日も先輩たちは元気だなぁ、とジャックは呑気に眺めていた。
    その日はテンションが上がったまま寮長の部屋で飲み食いし、挙げ句の果てには泊まり込むことになった。
    レオナが用意してくれていたジュースは梨の味がして、やっぱりこの人はカッコいいな、と思ったのだ。

    そんな出来事を、ジャックの足の間に陣取って背を預ける監督生に伝えれば、彼は控えめに吹き出していた。
    以前に比べて感情の発露が増えてきたと思う。ジャックは嬉しくなった。
    彼はひとしきり肩を震わせると、長く息を吐いて身体を弛緩させる。
    より体重を掛けてきたのだろうけど、小さく細身であるのでジャックとっては何の負担にもならない。

    「僕もね、グリムやゴーストたちに良かったねって言ってもらえたよ」

    あのね、と監督生は小さく笑んだ。

    「とっても安心したって。僕一人じゃ、勝手にどこか遠くに行っちゃいそうだったからって」

    仕方がないよね、と膝に顔を埋めながら言う。

    「きっとずっと、そう思われていて。でも僕のことを思って言葉にしなかったことくらい、分かってた。とても心配させたんだなって」

    ——心配してくれたんだなって。

    「本当に今更だけど、改めてそれが身に染みたと言うか」
    「ああ」
    「だから、ね。何だかさ……」
    「うん」
    「嬉しくて」

    良かったねって言ってもらえたことが。
    安心してもらえたことが。
    ずっと心配してくれていたことが。
    かつての世界で生きていた頃では考えられなかったことだから。

    「すごいね……僕、ちゃんと此処で生きてるんだ」

    生きていて良かったって、思ってもらえてるんだ。

    「だから今、すごく嬉しい」

    気持ちがね、ふわふわするんだ。

    変なの、とどこかくすぐったそうに話す声にジャックの尻尾はご機嫌に揺れる。ほら、やっぱり監督生は可愛い。
    砂色の髪をワシワシかき混ぜて、ジャックは満足そうに鼻を鳴らす。
    最近は無茶も減りつつあるので、彼から血の匂いがすることも少なくなった。
    ジャックのみならず、監督生を気にかける人の機嫌はそれだけで鰻登りだ。

    「嬉しいな」
    「嬉しいねぇ」

    語尾がちょっと伸びるのは、監督生がご機嫌の印だったりする。
    しかも今日は小さな笑い声も上げている。涼やかな声を捉えて、ジャックの大きな耳がぴるる、と震えた。
    ご機嫌なことは良いことだ。
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