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    dominus_worship

    @dominus_worship

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    dominus_worship

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    同田貫正国は突如として人の肉体を与えられ、本丸に喚び出された。しかし、この本丸は何処か機能不全に陥っているらしく……

    猿叫が聞こえるカンカンカンカン……

    何か、温かい心地がする。誰かに呼ばれているような……

    パチリ、バチッ、パチ、パチリ、

    目の前で弾けるのは、火の粉?
    音が鳴るたびに真っ白な光を放ち、すぐに黄色から赤へと代わって熱を失っていく。きゃあきゃあと幼子の笑い声が聞こえた。






    初めて知覚したのは眩い光。瞬きを数度する。もう、火の音はない。ここは何処なんだ?何だか鉄臭いような気もした。
    ぶわりと花びらが舞う。ああ、そうだ。

    「俺は、同田貫正国。」

    俺たちは武器なんだから強いのでいいんだよ。質実剛健ってやつ?

    するすると己から放たれた口上に、なるほど、と得心がいく。と、同時に疑問も湧いた。刀である俺が、何故言葉を?

    説明を求めて辺りに視線を遣れば、目の前に白い上等な着物を纏った男が立っていた。奉納された遠い記憶で神主を見たことがあるが、それに似ている。
    武器の化身であるが故か。自然、その手のひらに目がいく。けれども、剣だこ、あるいは鍛治の痕は微塵も見当たらず。そこにあるのは、加齢で硬くなった肉がただもうふくふくとついた、そんな青白い手だった。

    男は眉間に皺を寄せ(数振りの記憶が言う、これは不快感や苛立ちを示す顔面筋の動きだ)、「ああ、ああ、またやり直し…」と呟くと足早にどこかへ去っていった。

    ぽつりと残され、その部屋が静まり返る。静寂。
    まあ、状況からするに俺は鍛たれたばかりなのだろう。戦場では使われるのだろうか?まともに振ってもらえるのだろうか?先程の男が俺の主…所有者なら期待はしない方がいいが、待つのは慣れている。もっとも、今回も蔵の肥やしになるのは勘弁だが。
    俺を生んだ炎は沈黙している。が、反して、頭の中では次第に音が響いていく。いや、それは音というより、思念に近かった。


    ───俺の主人は何処だ────戦場は何処だ────錆びる────おれは用無しなのか────戦場へ───朽ちていく───また倉か、戦場へ───私はどこへ───燃える───燃える!───


    堪らず目を瞑った。鮮明に見えるは炎。そして、海。地中。ひりつくような、血の匂い。


    ───戦場は何処だ───使え───俺は美術品じゃない───折るな───主人が死んだ───燃える───まだ曲がらない───私は何でも切れる───何処へ───鑑賞は嫌だ───おれを使え!───ああ───主人は何処だ───戦場───戦───いくさ────



    「ねえ、新入りだろ、お前」

    突如掛けられた声に振り向く。瞬間、ごん!と音がし、次いで視界が低くなった。どうやら地面に落ちたようだ。痛い。…痛い?

    「わ!大丈夫?」

    あー歩けないタイプかあ、と呑気な声を辿ると、見上げた先に青年と言っていいくらいの若い男がいた。そして、おそらくそいつに持ち上げられたのだろう、視界が再び高くなって男の顔が横にある。
    俺はこのままこいつに使われるのだろうか。

    「ん、ん、ええ、と、…何から教えたらいいんだろ、……えっとね、取り敢えず言うと、お前、今人間の肉体だから」

    ほら、わかる?これお前の手だよ。

    そう言って男が持ち上げて翳してくる手は節くれ立っており、肘、肩、と続いて自身の胴…俺に繋がっている。はあ、確かに人間だ。人間の体が、俺の意思に従い自在に動いている。

    「お前が俺の主か」

    「あ、声は出るのね。てっきり喋れないかと思ったじゃん。…俺は主じゃないよ」

    「じゃあ誰が俺を振るんだ」

    「お前」

    冗談だろ、と言いかけるも男は真顔である。

    「主はね、多分さっきまでここにいたんじゃない?ほら、あの白い狩衣着た人間だよ」

    そう言うと、男は俺に肩を貸して部屋を出た。

    男は加州清光というらしい。俺も刀だからよろしく、と俺を支えて歩く姿勢は、重心の取り方が刀を使う者のそれだ。どころか、かなりの遣り手に思える。

    「お前、名前何ていうの?」

    「同田貫、正国」

    「ああ、聞いたことあるよ」

    それから、加州は色々と説明をした。曰く、俺たちは過去に戻って歴史を修正しようとする敵を倒し、歴史を守るために現世に顕現させられたらしい。
    過去に戻るってなんだよと思ったが、武器にそれを知る必要はないだろう。

    「戦はいつだ」

    「いいね、やる気じゃん」

    加州は、んー、と少し考えた素振りをみせた。そして目を伏せ、まあお前はたぶん戦闘要員だしいいか、と言うその表情は…疲れている、のだろうか。

    「出陣自体は毎日朝と夕に二回、で遠征っていう資源集めるやつがあるんだけど、そっちは一日一回ね」

    「出陣が毎日二回?」

    「そ。戦場が時間軸を遡るから、こことあっちじゃ時の流れが違うんだって。それで、毎日回数が固定、ってわけよ…ほら、そろそろ歩けるんじゃない?」

    そう言って加州が歩きながらゆっくり身を引く。倒れる、と思ったが、肉体というものに慣れたのか自然と足を動かせた。

    「うん、大丈夫そうだね…それで、ああ、そうそう。同田貫の出陣だけど、…二日後くらいかな。まあ器の馴染み具合によるけど」

    器の、馴染み…。
    また戦の場が与えられる、というのは正直に嬉しい。だが、俺が、俺を振る?
    幸いにして、というべきか。少し手繰り寄せれば同胞の声に届き、ありえないと思った人間の体というのもこうして動かせている。ということは理論上は俺が俺を振るのは可能だけれど……何とも珍妙な話だ。

    加州が人間臭く肩を竦める。

    「ずっと表情変わんなくて何かお前怖いんだけど…。全く、俺たちに受肉させるくらいなら体の使い方とか本丸のこととか全部いんぷっと?してくれたらいいのに。前に来た奴なんてさ、」

    ガンッ!!…ゴッ、ゴッ、ゴッ、……

    突然のことだった。何か落としたような大きな物音がして、瞬間、加州がピタリと足を止めた。その所為でつんのめりそうになり思わず横に目をやると、その顔は強ばっていた。

    俺は、口を開こうとした。おそらく何か言おうとしたのだ。が、それを制するように加州が長い溜息をついた。

    「あー……。ごめん、ちょっとここで待ってて。誰か来たらソイツについてってもいいよ」

    それだけ捲し立てると、加州は音の方へ足早に消えていく。何やら焦っているようだった。

    縁側に一人残され、さて、一人である。

    なんとなしに庭に目を向けると、そこは白い石が一面に敷き詰められており、しかし鳥やら小動物の気配は一切ない。
    ただ、濃厚な血の気配がした。

    腰に差した刀に手を添える。

    「新入りか?随分物騒だな」

    角の向こうから来たのは紫色の髪をした男だった。音もなく立てぬ登場からして手練であるのは間違いない。体幹がしっかりしていて、打刀を佩かしている。武士のようには見えない。

    男は何とも奇妙な出で立ちをしていた。身に纏った値の張りそうな着物はとことん襤褸になり、肩などは大きく裂けて血が滲んでいる。
    名前を問われたので答えると、ああ、と男は得心したように頷いた。幾分か男の顔が和らぐ。

    「僕は歌仙兼定。風流を愛する者だが……きみとは久方ぶりだね」

    言われ、同胞の記録に意識を遣れば、たしかにこの男…刀には覚えがあった。
    たしか、肥後で常備刀だった際に遠目で見た、ようである。

    「へえ、肉の器はこんな感じなんだねきみは」

    雅じゃない。が、機能美はある。
    そう言うと歌仙は一つ頷いた。訳が分からなかったので、取り敢えず俺も頷いておいた。

    誰に案内されたんだい、と聞かれ、加州清光、と言うと歌仙は変な顔をしたが、すぐに何かに思い至ったようで、唇に手を当てる。そして、じゃあついて来たまえ、と言ったきり歩き出した。

    「えーと、彼は何処まで話したのだろう。君の呼ばれた理由と、これからすることについては既に聞いているかな」

    「まあ…大体は。ただ、加州が俺を何処に連れていくつもりだったのかは知らねえ。」

    「…ふむ、把握した。きっと彼は君に与えられる私室へ向かっていたのだろうな」

    彼はよくやっている、と歌仙はぽつりと呟く。
    その意味はわからなかったが、それよりも私室というのが気になった。変な言い方だ。

    「私室ってのは…出陣以外はそこにいればいいんだな?」

    「まあそうだね。というより寧ろ、基本はそこにいなくちゃいけない。…おっと」

    そこで言葉を切ると、歌仙は煩わしそうに手拭いで頬の血を拭った。刃物で切られたような傷だ。拭ってもそこから血が滲んできている。

    「失礼。…君の私室に行ったあとは、大広間と、そこからの転移門の場所を教える。その上で、そこまでの道を覚えてほしいんだ。ここで暮らしていく上で、君はその道しか使ってはならない」

    「へえ。…ちなみにこの廊下は?」

    「今回限りだ」

    歌仙の足取りが少し重くなった、気がした。パックリ裂けた傷口から、ぷく、と血が粒のように膨れている。

    「…僕らの所有者は審神者と言って、僕らが破損するとそれを治す力を持っている。それと、君が先程喚ばれたように、刀を現世に顕現する力もね」

    外はよく晴れていた。土埃と体液で汚れた着物は場違いだったが、歌仙の背中はぴんと真っ直ぐ伸びていた。

    「だが前者の力は、審神者…あの男には期待しない方がいい。なにせ使わないからね。あの男は一応僕らを取り纏める存在…総大将のようなものだが、僕や小夜、あと君みたいなのにはこの先もあんまり縁がないだろう。」

    「小夜ってのも刀か」

    「ああ。他にもこの本丸には七振りいる。…それで、出陣は薬研という刀が回している。審神者は戦場と達成目標だけを決めているから、出陣毎にその情報は部隊長から知らされるだろう。君は審神者に関わることはないし、…関わってはいけない。これから教える道だけ出陣のときのみ使っていれば会わないだろうから」

    ひゅう、と俺と歌仙の間を冷たい風が通り抜けた。歌仙が襖の前で立ち止まり、音も立てず中に入る。どうやらここが俺の部屋らしい。







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