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    yagiyuki28

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    べったー以外の小説置き場を試すついでに、供養がてらお蔵入りの五乙を一本。途中で終わっていますので、その辺りはご了承ください

    「五条さん、少し時間をいただいて良いですか」
     高専に戻るなり、どうやら自分を待っていたらしい七海に声をかけられて、五条はおやと目を瞠った。
     可愛いこの後輩はどうやら自分を苦手に思っているようで、よほどのことがない限り自分から声をかけてくることはない。水くさいなあとは思うが、こちらから声をかければ律儀にやってくるので、嫌われてはいないと思う。もっと積極的にコミュニケーションをとる必要があるのかもしれないな、とも思っている。当の七海にしてみれば、ありがた迷惑だろう。
     ともかく、そんな後輩がわざわざ自分から声をかけてきたということは、それなりに大事な話があるということだ。
    「いいよ~。どこで話す?」
     七海が指定したのは、校内の片隅にある自販機が置いてある休憩スペースだった。人にあまり聞かれたくない話なのだな、とそれで判断する。
     自販機の明かりで照らし出されたスペースの古ぼけたベンチに腰を下ろし、後から着いてきた七海に向かって小銭入れを投げる。それで当たり前のように缶を二つ買ってきた七海は、小銭入れとともに缶を一つこちらによこしてきた。砂糖とミルクたっぷりのココア。なんのかの言いながらも、こういう時ちゃんと相手の好みの物を選ぶ七海の律儀さを、五条は好ましく思っている。
    「で、七海の用件って憂太のこと?」
    「……はい」
     数日前、彼に頼んで憂太を任務に同行させたから、たぶんその時なにかあったのだろうとあたりをつけたのだが、どうやら当たったらしい。
     先日めでたく里香を解呪した乙骨憂太は、特級から四級に降格となった後、現在三級術士として高専に所属し、日々任務に追われている。
     もっとも、あと数ヶ月もすれば一級、いや特級まで簡単に返り咲けるだろうと五条は思っている。それほどに、里香というアドバンテージを失ったとはいえ、憂太自身の才能も実力もそこらの術士では足下にも及ばないほど高いのだ。
     でもだからこそ下手な相手に預けられないのがネックで、単独任務を任せられないうちは、こちらが信用できる術士に頼み込んで同行してもらっている。何しろ今までこちらの世界に全く縁がなかったせいで、自分がどれほど常識外れな術を使えているのか自覚がない憂太は、時々とんでもないことをしでかすのだ。
    「それで、今回は何やらかしたの? あの子」
    「やらかしたと言いますか……」
     なぜか七海はちょっと言いよどんでから、ぼそりとつぶやいた。
    「匂います」
    「は?」
    「ですから、匂うんです。乙骨君から」
    「えっ、憂太が臭いってこと?」
    「違います」
    「え~! 七海ったらひどいなぁ。多感な思春期の若人に臭いとか言っちゃうの、デリカシーなさ過ぎない?」
    「デリカシーがないとか、貴方にだけは言われたくありませんね」
     心の底から心外だといわんばかりの、氷よりも冷たい視線が向けられる。こわーいとわざとらしくしなを作ると、今度はゴミを見るような目を向けられた。相変わらず固いなあと思いながら先を促すと、仕方ないという顔で七海は続けた。
    「……上手く言えないんですが、甘い匂いがするんです彼から」
    「飴でも食べてたんじゃない?」
    「現場でそんなことしているの、貴方くらいですよ」
     七海はため息をつくと、探るような目を向けてきた
    「……五条さん、彼になにかしましたか?」
    「いや、何にもしてないよ」
    「本当ですか?」
    「疑り深いなぁ」
     可愛い生徒に変なことするわけないでしょと言うと、なぜかさらに冷たい目を向けられる。
    「いや、本当に何にもしてないから。……でも、匂いがするって、なんかつけていたとかじゃなくて?」
    「彼がそういうオシャレに気を遣う方だと思いますか?」
    「ないね」
     考えるまでもなく、即答できる。
     最低限の身だしなみには気を遣っているようだが、それ以上のおしゃれにはあまり興味がないことは普段の彼を見ていればわかる。
    「ただ匂いを感じただけでは、わざわざ報告なんかしませんよ。ただ、匂いを感じたのが、彼が呪力を放出したときだったんです。で、そのときの呪霊の動きが少し気になりまして……」
    「なにがあったの?」
     七海は少し考え込む顔になってから、ゆっくりと口を開いた。
    「匂いを感じた瞬間、一瞬ですが呪霊の動きが止まったんです」
    「は? なんで?」
    「さあ……」
     いつも以上に眉間にしわを寄せながら、七海は彼にしては珍しく歯切れ悪く続けた。
    「……ともかく、なんとなくですが厄介な予感がします。できれば、すぐにでも確認してあげてください」
    「わかった。ありがとね」
    「では、私はこれで」
    「え~、せっかく久しぶりに顔を合わせたんだから、もっと話そうよ~」
    「お先に失礼します」
     五条の声を綺麗に無視しながら、七海は軽く会釈するとそのままスペースから出て行った。その後ろ姿にひらひらと手を振ると、五条はココアの缶を開けて口をつけた。
    「匂い……、匂いねえ……。呪力に匂いがあるなんて聞いたことないけど」
     とはいえ、あの少年が色々と規格外な存在であることは五条もよく知っている。
     なにしろ呪術の知識など一ミリもない一般人だったのに、特級過呪怨霊を自分の呪力だけで作り出した規格外の存在だ。常識という物差しで測ってはいけない。……そう、自分と同じように。
    「とりあえず、会いに行ってみるか……」
     まあ、百聞は一見にしかずとも言うし。
     五条は一気にココアを飲み干すと、電話をかけ始めた。
     そういえば、ここのところ本人とはすれ違いで会えていなかったから、ちょうど良かったかもしれない。
     報告を見て知っているが、成長の程をこの目で見られるのは楽しみだ。何しろあの子は、可愛い生徒であり可愛い遠縁の子でもあるのだから。
     それに、七海のあの態度も気になる。物事をはっきりと言う彼にしては、ずいぶんと歯切れが悪かった。でもそれも、会ってみればわかるだろう。
     そんなことを考えながらコール音に耳を傾けていると、ようやく相手が出る。五条は楽しさを抑えきれない声で、明日のスケジュール変更をつげたのだった。




    「えっ、五条先生 ……なんでここに?」
     補助監督の車から降りるなりこちらを見て驚きの声をあげた憂太に、五条はひらひらと軽い調子で手を振った。
    「ひっさしぶりだねぇ、憂太。今日は、このグレートティーチャー五条悟先生との任務だよ~。ビックリした?」
     慌てた様子でこちらに走り寄ってくる憂太を見て、子犬みたいだなと五条は思った。実際は、彼の実力を考えると子犬どころか闘犬と言ってもいいくらいなのだが、普段の彼はころころと転がっている無邪気な子犬のイメージが強い。
    「はい、驚きました。でも、今日は別の方が引率だって聞いていたんですが……」
    「あれ? 憂太は僕じゃ嫌なの?」
    「そんなことありません!」
     ふるふると慌てて首を振りながら否定する憂太に、五条はにっこり笑った。
    「今日は憂太の成長っぷりを見させてもらおうと思ってさ。そうそう、七海が褒めていたよ」
    「本当ですか? 七海さん、すごく強いですよね。それにとても頼りがいがあって、親切で……」
     ニコニコと満面の笑みで後輩を讃える憂太に、なぜかちょっと面白くない気持ちになっていると、途中でハッとした顔になった憂太が恥ずかしそうに頬を掻く。
    「すみません……。先生と話すの久しぶりで嬉しくなっちゃって」
     もぞもぞと決まり悪そうに唇を動かす憂太を見て、今度は逆に気分が良くなってくる。こういうところ、本当に無意識の人たらしなんだよなあと改めて思う。
     五条が厳選しているということもあるが、今まで引率を頼んだ術士たちの憂太への評価はどれもすこぶる良い。礼儀正しく、足手まといにならず、おまけにこちらのことを曇りのない尊敬の目で見てくるのだから、そりゃあひねくれ者揃いの術士だって悪い気はしないだろう。だからといって、本当におまえの親戚なのかと真顔で聞かれるのは解せない話ではあるが。
     しかし実のところ、五条も憂太のことを他の生徒たちよりも気にかけていることを否定できない。だってこんなにも素直に慕ってくれるだけでなく、超が着くほどの遠い縁とは言え血がつながっている相手がこれだけの才能を持っていたら、どうしたって気にならないはずがないだろう。
     それに、憂太は色々な意味で問題児だったし(現在もある意味そうなのだが)、手のかかる子ほど可愛いと言われるとおりどうしたって可愛いのだ。
    「じゃ、僕は同行するけど基本手を出さないから、頑張って」
    「はい!」
     頭の上に、目に見えない犬の耳がピンと立つのが見えるような気がする。思わず頭を撫でたくなる衝動を抑えながら、五条は本日の現場である廃墟を見上げた。
     住宅地から少し離れた高台にあるこの廃墟は、元は研修や合宿などに使われる宿泊施設だった。二十年前に他県の大学のサークル合宿で死亡事故が起こり、その後も立て続けに死者が数名出たため経営が悪化、十数年前に閉鎖され廃墟となった。曰く付きの廃墟ということで、近隣では心霊スポットとして有名らしい。
     最初の異変が起こったのは一年前。廃墟に心霊スポット探索にやってきた大学生のグループの一人が行方不明になり、その数日後、廃墟の裏の林で首をつっているのが発見された。
     その時は発作的な自殺として片付けられたが、その後も数ヶ月おきに同じように探索に来たグループの中の一人が行方不明になり、廃墟の周辺で首をつっているのが発見されるようになった。
     それが三人目になる頃には当然廃墟への立ち入りが禁止されるようになり、警察も定期的に巡回するようになったが、半月前、それらをあざ笑うかのように、巡回の警察官が二人同時に首吊り死体として発見された。事態を重く見た県警から高専に調査の依頼が入り、複数の二級呪霊または準一級相当の呪霊がいるのではないかと観測されている。
     本来なら三級の憂太には荷が重い現場だが、実際の彼の実力を考えれば何の問題もないだろう。
    「帳を下ろします」
     憂太を連れてきた補助監督が印を結ぶ。周囲が結界に包まれ、同時に重苦しい呪力が周囲に漂い出す。
    「当たりだね」
    「……みたい、ですね」
     少し首をかしげながら憂太が答えるのは、相変わらず呪力探知が下手だからなのだろう。特級過呪怨霊であった里香に長年取り憑かれていた憂太は、その膨大な呪力を当たり前のように日常で感じていたせいで、呪力感知能力にやや難がある。これに関しては引き続き要特訓だな、と教師らしいことを考えながら五条は腕を組んで傍観の体制に入った。
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