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    26歳同棲類司。前後にも諸々あったり。
    そのうち書ききりたいです。

    「司くん……ふふ、ぐっすりだねぇ」
     珍しくソファで眠ってしまった恋人の頬を撫でるが、もにゅもにゅと何やら顔を顰めた後また穏やかな寝息を立てている。
    次の舞台はアクションが多いものらしく、練習もハードなのだという。ここ数日彼は随分とお疲れのようであった。
    とはいえそれは悪いものでもなく、今日はこんな動きを教わった、殺陣でどうしても上手くいかなかったところがピッタリ息を合わせられた、なんて嬉しそうに話してくれる様子は本当に楽しそうで。無理はしないでね、なんて言いつつそんな司の話を聞くのは類の楽しみでもあった。
     しかし、それならば猶更司にはゆっくりと休んで、明日の英気を養ってもらわなくてはならない。
    幸い風呂に入って髪を乾かすまでの気力はあったようで、ふわふわの髪からは類とお揃いのシャンプーが香る。歯磨きは夕食後すぐに済ませるのが彼のルーティンだ。今日はもうこのまま寝かせてしまっても構わないだろう。
    「司くーん……よいしょ、と」
    念のため肩を軽く揺すり起きないことを確認して、その足の間に入り込んで正面から抱き上げる。高校を卒業しても若干伸び続けた類の体躯は、平均男性よりもしっかりとした司の身体も何とか持ち上げることができた。野菜を摂らなくてもきみを抱っこできるくらいには成長できるんだよ、なんて言ったら彼はぷりぷりと怒るのだろうな。
     そんなことを考えながら運びやすいように軽く抱きなおせば、んむ、だかむにゅ、だかよくわからない声を出しながら司が身じろぎ、その両足をぎゅう、と類に絡めた。起こしてしまったか、と、体勢的に伺えない顔の代わりに呼吸に耳をそばだてるが、すうすうと静かな寝息は変わらない。どうやら寝ぼけただけのようだ。
    大きなコアラのような姿の司を写真に残せないのは残念だな、今度自立自動走行型写真機でも作ろうか、などと思案しながら彼の部屋へと向かう。
     両腕がふさがっているので足で扉を開けて、ベッドへと直行する。普段なら行儀が悪い!と声を飛ばす人は、今類の腕の中で絶賛コアラ中だ。
    「ん、っと……ふぅ。きみの部屋が綺麗で助かったよ。僕の部屋なら何度か転んでいたかもしれない」
     流石に疲れた。ねえ僕頑張ったよ、ご褒美をもらってもいいよね、なんて返事のないことが分かっているおねだりをしながら、ふかふかの布団に司を下ろしてその隣に腰掛ける。
     大好きだなぁ。
     ふと湧き上がる思いのままに、その頬を、髪を、撫でる。好き、大好き、大好き。
     臆病な自分は、一度彼から逃げてしまった。それでもずっと大好きで、その想いを忘れることなんてできなくて。彼は、そんな身勝手な類を許してくれた。オレもずっと好きだった、そう笑いながら。
    幸せだった。とてもとても、幸せだった。
    「……あれ」
     暖かな気持ちに揺蕩いながら司の髪を梳いていた類の手が、不意に止まる。学生の時より少し長い状態でキープされている彼の髪が、普段覆い隠している耳。その耳たぶには、小さな窪みがあった。
    「……ピアス、痕?」
     もう完全に塞がっているそれは、しかし確かに司の柔い耳朶でその存在を主張している。
    (でも、ピアス、嫌だって)
     高校生の頃、類のピアスを眺めながらいつ開けたんだ、痛くないのかと興味津々で聞いてくる司に、きみは開けないのかい、と尋ねたことがある。その時、司は「痛そうだから嫌だ」と顔を顰めていたのを、覚えている。なら、どうして。
    (なんて。わかってるくせに)

    司は、きっと自分では開けないだろう。でもきっと、司にピアスを開けないのか、と尋ねた時に類が我儘を言っていれば、優しい彼は少し悩みながらも頷いてくれただろう。
    恋人から、お揃いのピアスを開けたい、だとか、ねだられれば。

    「つかさ、くん」
     知っていた。司に過去恋人がいたことは。
    司本人から聞いたわけではないが、狭い狭い業界に席を置いている者同士、しかも元同じ座に属していたとなれば、周囲からそんな噂だって耳に届く。
    自分たちもいい大人だ。恋人の一人や二人いて当然だし、当然キスもセックスもしたのだろう。司の体温を知っているのは、類だけじゃない。
     わかっていた。わかっていたつもりだった。それでもいいと、ものわかりのいい顔をしていた。だが、こうして司の身体に残された痕を目の当たりにして、思い知らされる。司から逃げ出した己の愚かさを。
    「……すき、すきだよ」
     吐息にすら近い、掠れた声。耳朶の端、ざらつく窪みに口付けて、呟くように零し続ける。すき。すき。
     ひたりと濡れた手の甲の感覚で、自分が泣いていることに気が付いた。そっと身を起こして、部屋着の袖で乱雑に目元を拭う。ぐず、と鳴る鼻は無視をした。

     ベッドの足元に丁寧に畳まれた毛布を広げ、司にかけた。まだ冷える日も多い。穏やかに、眠ってくれるといいのだけれど。きっと彼は明日もきらきらと輝くのだから。

    「おやすみ、つかさくん」

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