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    お題箱で頂いた「ポーカーをするワンツー」です。
    大変お待たせいたしました!

    自分でもよくわからなくなってしまいました、本当にすみません……。

    「ポーカー?」
     そう呟いて首を傾げる素直な反応に、思わず小さな笑いがもれる。敏感にそれを察知した司くんはすぐに不満げな顔をして、説明に入る前にご機嫌取りが必要になってしまった。
     もちもちと柔くこねた頬の手触りはいつもどおりふにふにのすべすべで、司くんはあっという間にまんざらでもない顔だ。喜怒哀楽が非常にわかりやすい。豊かな表情筋で役者としては良いことだが、腹の探り合いには向かなさそうだ。

    ***

     ポーカーを提案したのは僕だけれど、そもそも話の発端となるトランプを持ってきたのは司くんの方だ。なんでも昔咲希くんとよく遊んでいたトランプを久しぶりに見つけて、ふと遊びたくなったのだと。
     しかし、今日は僕の家で二人で次のショーの内容をつめる予定だった。もちろん合間の息抜きに遊ぶのは悪くない、が、なにぶん人数が少ない。司くんも思いつきで持ってきたらしく、どうしようかと首を傾げていた。
     寧々やえむくんがいれば大富豪やババ抜き、七並べなんかもできただろうが、二人ではなんとも寂しい。……これは、悲しいかな経験則だ。寧々も同じことを言うだろう。だから二人でも楽しく成り立つゲームをしたかった。
    「ポーカーか。やってはみたいが……オレはポーカーのルールをよく知らないんだ」
    「じゃあ簡単に説明しようか。ポーカーには役があってね……」
     そうして、役と勝利条件をかいつまんで説明したわけだが。
    「ふーむ……なんとなく、わかったような……わからないような」
     司くんの頭の上にはわかりやすくクエスチョンマークがぽこぽこと浮かんでいた。
     ポーカーは覚える役も多ければ、先を読んで手を決める必要もある。いきなり詰め込んで始めるには少し面倒なゲームであることは否めない。
     僕は結構このゲームが好きだったので昔からインターネットなんかでよくやっていたが、初めてやる司くんにはわかりにくいだろう。
     ゲームはゲーム。楽しいのが一番なのだから、もっと司くんも知っているものにしたほうがいいかもしれない。
    「司くん、わかりにくければ別の……」
    「よし、始めるぞ、類!」
     え、と声が出た。さっきまであんなに微妙な顔をしていたのに、本当にいいのだろうか。
    「別にポーカーでなくとも、他のゲームでも構わないよ。なにか好きなものとかは……」
    「いや、オレはポーカーをやってみたい! 類はこのゲームが好きなんだろう?」
    「え? ああ、まあ昔からたまにやってはいたけれど」
    「なら、オレも類が好きなものを知りたいんだ」
     そう言って笑う司くんの顔はいつもどおりの笑顔なのに、なんでかいつもよりもっと輝いて見えた。流石に自分でもわかる、惚れた欲目というやつだろう。叶わないなぁ。
    「じゃあ、ポーカーにしようか。役の作り方とか、わからないことがあったら聞いてね」
    「聞いたら勝負にならんだろう!」
     それはそうだ。
     オレを甘やかすな!と不服そうに口を尖らせた司くんの唇をふにふにと優しくつまんで、ごめんねと笑った。

    ***

     勝負は簡略化したハウスルールだ。チップは使わないので、ベット(賭け金提示)やレイズ(賭け金の吊り上げ)なんかの工程も全部省く。できるのはコールとフォールドだけ。
     その二つも「勝負に出るならコール、降りるのならフォールド」と決めた。これならだいぶやりやすいだろう。
     ちなみに「勝負を決める際の手札の開示はショウダウンと言うんだよ」と教えればその響きがいたく気に入ったらしく、取り入れられることとなった。
     初めからお互いに五枚ずつカードを配る。手札を開けて、一度だけ好きな枚数を山札のカードからチェンジできる。そして、手元の五枚の役の強さで勝敗を決めるのだ。
     コール(勝負)をして勝てば二点、負ければゼロ点。フォールド(降参)をした時に相手の方が強ければ一点が、自分のほうが強いのにフォールドしてしまったのなら三点が相手に入る。
     僕が六点、司くんが四点先取だ。司くんは少し嫌そうな顔をしたけれど、侮りや甘やかしではなく公平な勝負のためには順当だ、と説明すれば頷いてくれた。
     そうして始めようかと少しくたびれているものの手に馴染むトランプをきりながら、雑談としてポーカーは『元より賭け事である』なんて言えば、じゃあお互いに何かを賭けようなんて話になって。
     とはいえ金銭なんて法からして許されていない。些細な物を賭けることも、お遊びとしては微妙なところだ。そうして最終的に『負けた方は相手のお願いを一つ聞く』に収まった。
     「これが一番ハイリスクな気がするんだが」なんて眉を顰める司くんに、勝てばいいんじゃないかと軽く煽ればすぐに乗ってきた。あまりにも素直でわかりやすい彼に、もはや心配にすらなってくる。六点先取、ストレート勝ちもあるんじゃないだろうか。
    「さて、準備はいいかい?」
    「ああ、どんとこい!」
     僕らの前にはそれぞれ五枚ずつのトランプが伏せられている。ゆっくりと、手を伸ばした。

    ***

    「……司くん、僕は十点先取にしようか?」
     思わずそう声が出てしまった。しまった、と思ったときには遅く、司くんがギッと睨みつけてくる。
    「ええい、まだここからだ! あまり舐めるなよ!」
     ふす、と息巻く司くんに、舐めているわけじゃなくて慣れないゲームに対する点数設定の甘さを感じたから、なんて話しても聞いてくれないだろう。僕の切り出し方も悪かった。
     けれど、今のところ二試合やってどちらも僕の勝ち。両方の試合で司くんはコールをしたから、今の僕の持ち点は四点。早ければあと一試合で終わってしまう。
     次はもう少し考えて点数設定をしなくては、と思いつつカードを配れば、自分の手元にきたカードを覗いた司くんの顔が一瞬輝いた。
     すぐに取り繕ってすん、と落ち着いた顔を取り戻したけれど、やっぱり彼はわかりやすい。これまで毎回一枚はチェンジをしていたのにそのままコールをするところから見るに捨て札のないストレートかフラッシュあたりだろうか、最初から役が揃ったのだろう。彼が時折見せる豪運さから、ありえそうである。
     僕の手札はスリーカード。このままではストレートにすら勝てない。チェンジをしてみたが、狙いのフルハウスは揃わなかった。それならば。
    「フォールド」
    「む……降りるのか」
    「ああ、今回はね」
     そっと自身の手札をすべてテーブルの上に開示した。手札の中にはクローバー、ハート、スペードの5が並ぶ。さて、司くんは何が揃ったのかな。

    「……舐めるな、と言っただろう」

     にぃ、と笑った司くんの声は、やけに低く聞こえて。その手の中に収められたトランプが、ゆっくりと僕の目の前に開かれた。
    「ノー、ペア」
     バラバラな数字、記号。一つたりとも役の揃わない、負け札だ。けれど僕はスリーカードでフォールドをした。これで三点が司くんに入る。僕が怖気づいて早々に降りてしまった、それだけ。この試合だけを見るならば。

     違う、違う、これはそんな話ではない。
     これまでの司くんの手札が頭に浮かぶ。これまでショウダウンの合図と共に開示されたのは一試合目がワンペア、二試合目がツーペア。強いとは言えない手札で勝負を仕掛けてきた彼に、まだポーカーというゲームに慣れていないからだろうなと内心苦笑をしていたのだが、そんな思考さえ彼の手のひらの上だった。
     きっと、司くんがこれまでに自身の手札と勝ち筋を把握してフォールドをしていたら、僕は彼が何か仕掛けてくる可能性も考えて今回コールしたかもしれない。でも『司くんはまだ慣れていない初心者』と思い込んだ……思い込まされた僕は、『初心者』である彼が札を開いた瞬間明らかに喜んだのを見て「見るからに強い手が来たのだろう」と考えてしまった。同じスートが揃うフラッシュ、数字が五枚階段で揃うストレート。どちらも初心者でも覚えやすい強役。だから、僕は躊躇いなく降りた。

     これまでの試合、司くんの手札では勝てる見込みはほぼゼロだった。実際すべて僕が勝っている。ならば、司くんはフォールドをしておけば、僕の点数は二点ですんだ。けれどそれでは司くんに点数は入らない。点数が入らなければ、勝てようもない。今後の試合にどんな手札が来るかもわからないし、司くんは定石や勝ち筋だって知らない。
     だから彼は三試合目……この試合でひっくり返すために正しく博打を打ったのだ。これまでの二試合を布石に、最大点を得ることのできる賭け。
     きっと一試合目に自身の手札を見たときからそのつもりで、ワンペアのままコールをした。何もわからない道化のように。おかげで大幅にリードしていたはずの僕は、たった一試合でひっくり返されてマッチポイントの司くんを追うはめになっている。
     そう、僕は騙された。彼の一瞬見せた嬉しそうな笑顔にまんまと釣られた。それが撒かれた餌だなんて気づきもせずに。彼の演技に、ものの見事に嵌った。
    「ふふ……はは、あっはは!!」
     思わず笑いがこみ上げた僕に、司くんがビクリと身体を揺らした。何だこいつ、という目を向けられているのがわかる。けれど、これが笑わずにいられようか。
     ゲーム性では勝てないと判断した司くんは、即座に自分の舞台に僕を引きずり込んだ。するりと、呼吸でもするように自然と道化の仮面をつけて、その笑み一つで愚かな僕を騙してみせた。嗚呼、素晴らしい!
    「司くん、ショウはまだ終わっていないよ。次の試合といこうじゃないか」

     僕は喜んできみの舞台の上で踊ろう。だから、さあ、もっともっと僕を欺いてみせて。



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