散歩中に通りかかった家で見つけたキラキラ輝く彼に、僕は一目で恋に落ちだんだ。
星の色に夕日をひとしずく垂らした毛並み。
くるりと大きな目。
揺れる耳も、彼の後ろで揺れる尻尾も、表情に負けず劣らず素直でわかりやすい。
だから、毎日通いつめては彼に【ショウ】の話をする僕のことを、憎からず思ってくれているのだって間違いじゃないはずなのに。
「ねえ司くん、決心してくれた? 僕と世界中で【ショウ】をしようよ」
「決心もなにも、お前と共に行く気はないと何度も言っているだろう」
もう何度目かもわからないお誘いは、今日もまたにべもなく振られて終わり。まあ、諦めなんてしないのだけれど。
だって、いつもこの話をする度に司くんの瞳は一瞬輝くんだ。そうしてすぐに目を逸らしてしまう。何かを諦めるように。
おおかた、飼い主を置いていくわけに行かないだとか、そんなところだろうか。家猫は安全だけれど不自由だ。司くんには似合わないと思うんだけどな。
僕の登れる屋根の天辺より少し上。司くんがいつもいる窓を見上げて、手を差し伸べる。
そっと重ねられた司くんの手を取り、その手の甲に口付けて。いつからか彼が許してくれるようになった、別れの挨拶。
「今日はこれくらいにしておこうかな、しつこい男は嫌われると言うしね」
「既に十分すぎるくらいしつこいぞ? 何回目だ、そのお誘いは」
「ふふ、都合の悪いことは聞こえないねぇ」
「自分で言うな! ……まあ、明日もここで待っていてやらんこともない」
素直じゃない言葉と、素直な尻尾。
するりと僕の手を撫でる毛並みにくつくつと喉を鳴らして、そっとその指先を離した。
「じゃあ、また明日」
「ああ……また、明日」
***
『ねえ司くん、決心してくれた? 僕と世界中で【ショウ】をしようよ』
類が触れた指先。口付けられた手の甲。
とうに熱の離れたそこに、そっと自分の唇を寄せた。
類と一緒にこの街を出ていろんなものを見て、そして一緒に【ショウ】をして。
知らないことや怖いこともたくさんあるだろうが、きっとそれ以上にとっても楽しい日々。
「行ってみたい、なぁ」
ぽつりと溢れた言葉を拾うものは、誰もいない。
***
「あ、司! 駄目でしょう、またそんな高い窓辺に登って……危ないじゃない。お前は後ろ足がないのよ? 落ちたらどうするの」
「みゃあ」
「まったく、最近どうしたのかしらねぇ……無理してしょっちゅうあんなところまで登って。前はこんなことしなかったのに」
「…………なぁお」