針の向く先「……乱数。あなたまた病院に行かなかったんですね」
事務所のソファで寝転がりながらスマートフォンを眺める乱数を見て、呆れたように幻太郎は言った。
つい1週間前まで、ジリジリと身体の芯まで焼き尽くすような陽射しに辟易していたのが嘘のようだ。身震いするような大きさの入道雲を浮かべた目を刺すような青空は、いつの間にか淡い水色へと衣替えし、その上を小ぶりな雲の群れが流れている。夏と冬の狭間の僅かな休息である。
この時期は、冬に備えて流行病のワクチン接種が始まるタイミングでもある。乱数の命を繋ぐ飴の作り方こそ分かった今であるが、だからといって彼の身体が丈夫になったわけではない。ここ最近の乱数は、どこからか病原菌をもらってきては、体調を崩すことが増えつつある。つい最近も、熱を出して寝込んでいたことがあった。
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