温泉てとっても良いものですね 先日から冒険者が多く集まるところで囁かれていることがある。なんでも私達が所有出来る家屋の種類が増えたとかなんとか。私はカンパニーハウスの地下工房には見学で入ったことがあるくらいで基本的に立ち入らないからあそこで何が行われているのかさっぱりわからないし、そもそも家も持っていないから縁がない話なのだけれど、あまりにたくさんの人が話題にしているものだから、なんだか気になってしまう。
「ルカくん、先週から冒険者に解放されたっていう新しいお家もう見ました?」
モーグリ族に頼まれて、ドラヴァニア雲海をあっちへ行きこっちへ行きと奔走していた時、ルカくんが会いに来てくれたものだからつい尋ねてしまった。だって気になったんだもの。なんでも東の国の様式らしいけれど。既に冒険者居住区で見ることが出来るなにやら大きくて立派な建物とは全く違う感じなのだろうか。
「誰かが写真を撮ったやつは見たけど、自分の目で直接はまだかな。一緒に行く?」
とても魅力的なお誘いだった。でも今はモーグリ族の為にも人と竜の関係改善の為にも頑張っているところだし、地味に忙しい。
「モーグリ達が気になる? 大丈夫だよ、急がなくても」
私が考えていることなんてどうやらルカくんにはお見通しのようだ。もしかしたらルカくんも過去に似たようなことで悩んだりしたのかな。
「竜たちの過ごす時間を考えれば一日なんてそれこそ誤差みたいなものだし、大丈夫」
確かに彼らは数十年待ってくれれば大丈夫! なんて私達ではとても考えられない年数を提示してきていた。一日作業が遅れても何も気にしないかもしれない。人間である以上、いつ体調を崩すかもわからないのだし、時には休息も必要だろう。
「じゃあ、ちょっとだけ」
噂によれば数寄屋造のその家には温泉があるという話だ。温泉。エンピレアムにある大浴場には行ったことがある。それからクガネの宿に併設していた浴場も。あれらはとても気持ちがいいものだった。ただ、男性も女性も同じ湯船につかるという習慣がちょっと慣れなくて、どこに視線をやればいいのか悩んでしまうのだけれど。
「前に行ったことがあるお店が建て替えたらしいからそこでいいかな。どうせだから東の国の装いにしようか」
東の国のと言われてドレッサーの中身を思い出す。ほとんど東方の服は持っていない。そもそも流通している数が少ないのだ。ドマがあんな状態だったのだし、仕方がないのかもしれないけれど。でも折角ルカくんが東方の物をと言っているのだから応えたい。初めて会った時に着ていたハカマにしようか。あれは冒険者になってすぐの頃、マネキンが着ているのを見て勢いで買ってしまったものだけれど、最近はあまり着ていなかったからちょうどいいかもしれない。
「じゃあ、着替えてきます!」
「ゴブレットビュートだから、ウルダハのエーテライトプラザで待ち合わせね」
「はーい!」
待ち合わせ。それだけでドキドキわくわくする言葉だ。私は明らかに浮かれているとわかるような声で返事をして、すぐさまリムサ・ロミンサにテレポしてしまったのだけれど。もしかしたらルカくんは笑っていたかもしれない。恥ずかしい。
ルカくんと二人で数寄屋造のお家を堪能した結果。カンパニーハウスを数寄屋造へと改装することが決定しました。だって温泉気持ちよかったし、縁側に座ってただお空を眺めたりするのも楽しかったし。とにかく素敵な雰囲気だったのです。今のフローリストのお家も可愛いし好きなんだけれど、ルカくんと私は……というか主に私が数寄屋造にめろめろになってしまったのだ。思わずその足でマーケットボードに買い物に走るくらいに。