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    melrose_E

    えれめんたるの某村に住んでるよ
    HLなうちよそのお話をupするよ。

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    melrose_E

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    FF14うちよそ(うさララ)出会い編です
    でも相手の名前出てない…

    メル→ララフェル。まだまだ駆け出し冒険者。
    ルイ→メルの義弟。メル一家に拾われた子。ヴィエラ。

    だからそういうところがダメなんだよ「おかえり、メル。君に手紙が届いてるよ」
     ダンジョンへ行き、巣食った魔物を蹴散らして。交流が可能であると判断された部族の手伝いをし。ヘトヘトになりながら夕食として買い求めた軽食を手に宿に戻ったらミューヌさんから声を掛けられた。
     手紙と聞いて真っ先に浮かぶのは弟のルイからの物だが、つい先日届いたばかりだから考えにくい。両親もルイ以外の兄弟がいない私に誰が一体手紙を送ってくるというのだ。
    頭の中は疑問符で埋め尽くされたが受け取らないわけにもいかないし、ご飯が待っている。さっさと受け取って部屋で確認をしよう。そう思いミューヌさんから手紙を受け取り、差出人を確かめることもせずに自分に与えられた部屋に早々にひっんだ。
     さて、一体誰が何の目的で送ってきたのかと思いだから封筒の裏面を見てみれば、なんてことはない。手紙は叔父から送られてきたものだった。あまり愉快な内容ではないだろうと予測をつけながら封を切ると、思った通り。ルイが成長して、食べる量が増えた、にょきにょき大きくなるから着る服もすぐに新しくしないとならず、これまでの仕送りではやり繰りが出来ないので、送金する金額を倍以上にしろといった趣旨のものだった。
     確かに叔父に送っているお金は大した金額ではない。冒険者ならば三日もあれば稼げる金額だろう。だからといって、送金額を倍に増やせば今度は私が食べていけない。
     日々のテレポ代に食費、装備品だってしっかり手入れをしてあげなくては使い物にならなくなってしまう。叔父にだってそれくらいわかるだろうに。
    「取り敢えず、倍は無理だけど少し増やすしかないかあ」
     ミルクとチーズをたっぷり使った大好きなグラタンもなんだか味気なくなってしまった。これからはもっと安価で、でも栄誉満点で、お腹も満足するような食事を探さなくてはならないのに、美味しく食べられないなんてご飯への冒涜だ。反省しなくては。
    「割りのいい仕事探さなきゃ」
     冒険者ギルドに何かよい仕事がないだろうか。仕送りは一回限りではない。継続してお金を稼げるような仕事が一番ありがたいのだが、そういった安定した仕事を期待するのは無理がある気がする。冒険者である時点で、小さな仕事でもいいから地道に以来をこなしていくしかないのかもしれない。
    「んん、採掘師や園芸師になってギルドに納品していく方が早いかしら」
     それも視野に入れようと思いながら今日は早めに床についた。


     窓から差し込む光が眩しくて目が覚めた。たまにゆっくり眠りたい時にはとまり木の大きな窓は少し困るけれど、今日の様に早く起きてあれこれやりたい時には大変助かる。今日は特に仕事探しに忙しいから早めに動き出さなければならないのだ。
    「やだなあ」
    わかっていても寝台から出る気にならない。あと少しだけ。いやダメだ。思考が行ったり来たりする間にも時間は過ぎていく。
     結局着替えて冒険者ギルドに顔を出した頃には朝と言うには少々戸惑う時間になってしまっていた。これでは近場で且つ報酬が良い仕事など望めないだろう。
    「ミューヌさん、何かこう、お金たくさんもらえるお仕事ないですかね……」
     無理だろうと思いつつ訪ねたらミューヌさんに笑われてしまった。私みたいにお金に困っている冒険者は実はそんなにいないのかしら。それならばもしかしたらいい感じに報酬が多い仕事が見つかるのでは。そう期待してしまったのだが、まあ世の中そんなおいしい話が転がっているものではなかったらしい。
    「残念ながらないかな。双蛇党の仕事をする方がいいんじゃないか?」
     確かに冒険者ギルドよりも報酬は良さそうだ。でも私は残念ながら双蛇党に入党していない。まだそこまで冒険者として強くなっていないのだ。今入りたいと希望したところで門前払いになるのが目に見えている。ミューヌさんだってそれくらい知っているだろうに、ひどい人だ。
    「焦っても仕方がないだろう。今君に出来ることをやるのが一番の近道じゃないかね」
    「ぐう」
     正論だ。でも私は今すぐお金がほしいのだ。できるだけたくさん。私一人ならば問題なく生活できるが、故郷に残してきた義弟のために必要なのだ。
    「とりあえず、今ある依頼で私がやれそうなやつな全部やることにします……!」
     ミューヌさんとお話をしていたところでお仕事は降ってこない。ゴントランに向き直りお願いをしたらひどく驚かれてしまった。そんなに無茶を言っているつもりはなかったのだけれど、もしかしてかなり大変なのだろうか。
    「全部って、君ねえ」
     ミューヌさんにも呆れられた。だけど仕方がないではないか。自分の食い扶持と叔父一家への仕送り、出来ればそれとは別に義弟にお金を送ってあげたい。私の仕送りから自由に使えるお金を貰っているとは思えない。
    「まあ、とりあえず一つずつこなしていったらいいよ」
     今の私ならばもうホウソーン家の山塞で受けられる仕事は簡単に対処できるだろうが、当然報酬もその分少なくなってしまうから。頭をクォーリーミルまで脚を伸ばしたらどうかと提案してくれた。確かに簡単に終わる仕事でも報酬が少ないのはちょっと困る。私の事情をくんで提案してくれた二人に頭を下げて私はカーラインカフェを出た。
    「クォーリーミルかあ。歩いて行くにはちょっと遠いよね、確か……」
     チョコボをレンタルしようか。でもレンタルは高い。目的地が決まっているのだし、ポーターを利用する方がいいか。レンタルより安価だし、勝手に目的地まで駆けてくれるのはとても楽だ。何よりあたりにいる魔獣に襲われることがないのはありがたい。
    「歩いて行ったら何時間かかるかわかったものじゃないもんね」
     チョコボを利用したって一時間かかるのだ、自分の脚では倍以上の時間がかかるのは明らかなわけで。多分その分他の仕事をすればポーターを利用する分のギルは稼げるだろう。
     そうと決まれば一刻も早く現地に向かうべきだ。カーラインカフェを出てすぐ。エーテライトの目の前にあるチョコボ留めでシングール氏にクォーリーミルまで行きたい旨伝えて五〇ギル支払った。ああ、これだけあればお夕飯にデザートをつけられたのに。背に腹は代えられない。これは必要経費だと自分に言い聞かせてチョコボに跨った。
     クォーリーミルまでの道すがら考えるのは今後のことだ。自分の生活費を節約するためにも調理師になる方がいいかもしれない。そうすれば今みたいにチョコボポーターの利用を躊躇することは減るだろう。それから、出来ることならば服を作れる様になりたい。冒険に特化した装備だけでは味気ないし、街に戻ってきてからくつろぐ時に困る。簡単な服ならばそれほど時間をかけずとも作れる様になると以前聞いたことがあし、頑張ってみる価値はあると思うのだ。
     それに、可愛い服だっていつかは欲しいし。マーケットやエーテライトプラザに行くと冒険者が身に纏った様々な国の服が目に入るのだ。義弟に似合いそうな服もたくさんあった。私が作ったと言って渡したらどんな顔をするだろう。喜んでくれるだろうか。それとも嫌がられるかな。
    「そのためにも今頑張らないとね!」
     ぱちんと頬を叩いて気合いを入れる。目指すクォーリーミルまでは思ったより遠い。中央森林から南部森林へ向かう道中に生息している魔獣たちは幸い私程度の冒険者でも狩ることが出来る強さのものばかりなのだが、なにしろ遠い。そして南部森林に入った途端、獣たちの強さは一段階上がる。一匹ずつであれば倒せてもやつらは群れていることが多いので倒すのにも時間がかかることになる。ただでさえ遠いのにそんなことに時間を取られていては肝心のクォーリーミルでの仕事に支障が出るのは間違いない。
    「もっと強くならないとなあ」
     鏡池桟橋を通り過ぎ南部森林へ入るが、チョコボのおかげで好戦的な魔獣たちに襲われることは一切なかった。いつか自分だけのチョコボがほしいと思うが、自分よりも強い魔獣のそばを通ろうものなら普通に襲われてしまうらしいから自分が強くなくてはチョコボにだって可哀そうな思いをさせることになってしまう。
     お金のためだけではなく、様々なことを考えるとやはりもう少し幻術士としての腕を磨いて使える魔法を増やさなくては。そうしているうちにきっと双蛇党にも加入できるに違いない。双蛇党に入れそのためには何をするのが良いのだろうか。バスカロンドラザーズを通り過ぎ凡そ一時間程でクォーリーミルへ到着した。
    「えっと。確かニエルさんからお仕事を貰えるんだっけ……」
     以前ゴントランさんから聞いていたけれどそのニエルさんはどこにいるのか。それほど広くないクォーリーミルを見渡すと鬼哭隊の人や自分とは明らかにレベルが違うと思われる冒険者が真っ先に視界に飛び込んで来た。みんな真剣な面持ちだし、どうも話しかけにくい。
    「あの、ニエルさんてどちらにいらっしゃいます?」
     仕方なくチョコボ留めで今まさに私が乗ってきたチョコボに水分を与えていたチョコボ屋さんに尋ねることにした。
    「ニエルさん? あそこにいるよ。ニエルさーん!」
     おぉ、あれがニエルさんかあ。と思いながらぺこりと頭をさげた。クォーリーミルに来るのは初めてではないのだけれど、実はギルドの仕事を受けたことは一度もないので少し肩身が狭い。
    「ここの仕事なんてやってられないって見限られたのかと思っていたんだけれどな」
     ニエルさんはそう言って笑った。とても心が痛い。でもクォーリーミルに初めて来た時はギルドの仕事よりも楽しいことがたくさんあったのだ。やってみたいことがたくさんあって。それは今も変わらないのだけれど、なんていうか。浮かれていたのだと思う。
    「う、それは、申し訳ないと……」
     冒険者は沢山いるのだし私のことなんて認識していないだろうと思っていたけれど、もしかして私のようにギルドの仕事をしていない冒険者は少ないのだろうか。だから覚えられているのだろうか。今更仕事をくれなんて都合がいいと思われているのかもしれない。申し訳なくてニエルさんの顔を見ることが出来ない。
    「冗談だよ! ギルドの仕事は割に合わない内容もあるしね。一切ギルドの仕事を受けない冒険者もいるくらいだ、気にしなくていい。からかって悪かったね」
     なるほど、からかわれただけだったのか。安心してやっとニエルさんの顔を見て話が出来るようになった。今後は少しギルドの仕事を請負うことにしよう。うん。
     これまではひたすらに強くなろうとしていた。ニエルさんが今言った通りあまり報酬が多くないお仕事は避けてきたけれど、今後は少し意識を変え、ギルドの仕事もある程度は引き受けるように意識を切り替えることにした。自分の都合で引き受けるかを決めていいものだから、ついつい避けていたことを猛省しなくてはなるまい。
     今は探索できるダンジョンは少ないが、これから少しずつ増えていくはずで。そうするとますますギルドの仕事から遠ざかっていく気がする。本当に自分で意識して受注するようにしなくてはならないだろう。
     毎日は無理でも月に一度くらいは、と思い直したところでニエルさんは表情を変えた。
    「それで、肝心の仕事の内容なんだが。今日はアンテロープを倒して肉を調達してきてほしい」
     ああ、あいつか。名前を聞けば脳裏にその姿をしっかりと思い描くことが出来る程度に黒衣の森ではおなじみの魔獣だ。遠出せずともクォーリーミル周辺にいるし、倒すこと自体は特に難しくないだろう。問題は幻術士の自分は恐らくケアルで回復しながら対処しないといけないということ。そして万が一その他の好戦的な魔獣に襲われた場合、大変なことになるだろうということ。
     まさか今更やめるとは言えない。それにこれ以上簡単な仕事になれば報酬も当然それなりになってしまう。自分がやると言ったのだし、明日も美味しいご飯を食べるため。弟に美味しいご飯を食べてもらうためにも頑張らなくては。
    「アンテロープのお肉ですね! わかりました」
    「中々食材の調達まで手が回らなくてね。大した魔獣じゃないのはわかっているんだが。よろしく頼むよ」
     冒険者でもない人達が例え剣を持ったところでまともに魔獣と戦うなど無理な話だ。ましてグリダニアを出てすぐ見つかるマーモットならまだともかくクォーリーミル周辺にいるアンテロープでは怪我をするだけなのは目に見えている。だから私たちが頑張るしかないのだ。
    「そのために私たちのような冒険者がいるんですし! じゃあ、行ってきますね!」
     アンテロープは見える範囲だけでも何頭もいる。探し回る必要はなさそうでありがたいのだが、少しでもクォーリーミルを離れればゴブリンはいるし、盗賊の姿もちらほら見えるのが厄介だ。安全な場所までアンテロープをうまく誘導して倒して、それからお肉を持ち帰るために切り分けないといけない。
    「もしかして……地味に面倒なんじゃ、これ」
     いっそ視界に入った盗賊団も獣人も全て倒して安全な場所を確保したらいいのではと思うけれどそれをやるにはどう考えても実力が足りない。確実に倒す前に仲間を呼ばれる。
     取り敢えず特に周囲を気にせずに倒せそうなアンテロープを倒そう。その後のことは倒し終わってから考えよう。


    「なに、あれ」
     少しでも肉はあった方が良かろうと無心になってアンテロープを倒して、お肉の処理をして。と繰り返していたら見慣れない魔獣の姿が目に入った。
     これまで見たどの魔獣よりも丸い。そして真っ白い毛並み。耳は大きくて手足は細い。胴体と思われる部分がなくて頭にそのまま手足がついているようなその生き物は、手のひらに乗るような大きさであれば可愛いと思えたのかもしれない。しかし残念ながら目の前の白い塊は、とてもではないが可愛いとは思えない大きさだった。なにしろ私の倍はありそうなのだ。
     どれほどの強さの個体なのかはわからない。でも群れずに単体で森を徘徊しているということはこの辺に生息しているどの魔獣よりも強いということだろう。
    (逃げなきゃ)
     まだ自分はあいつに気付かれていない。今ならば逃げられる。心臓が早鐘を打ち、呼吸は浅くなる。逃げなくてはと頭では理解しているけれど、足が震えて動けない。どうかこのまま更に森の奥へと行ってくれれば。そう思った瞬間、その白い何かが振り向いた。
     大きな赤い瞳はこちらを見ているように見えるが、距離があるお陰か私のことを視認出来ていないようだった。まだ大丈夫。まだ逃げられる。震える足を叱咤して私はようやくじわりじわりと後ずさりを始めた。
     足元でぱきりと小枝が折れる音にびくりと体を震わせる。あの大きな耳はこの音を捉えただろうか。しばしその場から動かずに白い丸いあいつを見つめる。
     ギョロリギョロリと真っ赤な瞳が辺りを見回す様に動くけれど私のことは素通りしている。
     早くどこかに行ってほしいと思いながら白い丸を見つめること数分。やっと体ごと森の奥の方へ向けた。私もあいつに背を向けて走り出したい気分だがまだ早い。あいつが歩き出して、もっと離れてから。それまではゆっくりと後退りするだけに留めるべきだ。
     ゆっくり少しずつ、丸いのとの距離が離れていき、その背中がかなり小さく感じられるほどに離れてから、ようやく私は肩の力を抜いた。もう大丈夫だろう。大声を出したらまだ気付かれる可能性はあるが、普通に走ったり魔法の詠唱をする分には問題ないはずだ。
     一時はどうなるかと思った。もう提示された量のお肉は集まっているのだし、欲張らないでおとなしくクォーリーミルに帰ろう。さて、クォーリーミルはどちらだったか。あの大きなエーテライトを探そうと辺りを見回した。大した距離ではないのだから歩いて戻ろう。そう思ったのが間違いだった。私はケチケチしないでテレポを使うべきだったのだ。
    「お嬢ちゃんこんな森の奥で何をしてるのかな?」
     ねとりとした声が真後ろから聞こえた。振り返れば笑みを浮かべたエレゼンが一人、ヒューランが二人いた。いつだったか連れて行かれたゴブレットビュートで見た人達を彷彿させる笑顔。つまりあまりお近づきになりたくない種類の人達だ。
    「なんだ、世間知らずのお嬢ちゃんかと思ったら冒険者じゃないか」
    「冒険者だって世間知らずのお嬢ちゃんはいるだろ」
    「それはそうだな」
     下卑た笑いを浮かべた三人から少しでも遠ざかりたくて思わず後退りしてしまった。戦うという選択肢もあるのかもしれないが、今の自分の実力では三人を一度に相手取るのは少々骨が折れる。
    (多分、この人達はレッドベリー砦を根城にしているっていう盗賊団……)
     倒すのに時間をかけたら仲間を呼ばれてしまうかもしれない。そうしたらもう勝ち目はない。でもこちらはさっき見かけた丸い魔獣がいる方向だから、違う方向に逃げたい。出来るならばそれこそ三人がいる方角に逃げたいのに。
    「さて冒険者のお嬢ちゃん、クォーリーミルの奴らに俺たちの討伐でも依頼されたかな?」
    「ち、違います! 私はアラミゴから逃れてきた人達の為にアンテロープのお肉を集めていただけ!」
     彼等を害そうなんて思っていない。それがわかったら見逃してもらえないだろうか。そんな淡い期待を胸に盗賊団とらしき三人に訴えかけてみた。戦うという選択肢は出来るならば選びたくないのだ。
    「なるほど。俺たちも食糧が足りなくて困っているんだが、お嬢ちゃんが持ってる肉を分けちゃあくれないかね」
    「お優しい冒険者様、我々にもどうぞご慈悲を……」
     何が慈悲だ。彼等はどう見ても食べるものに困っているとは思えない。痩せ細っているわけではないし、着ている物だって綻びたりしていない。アラミゴからやっとの思いでウルダハやグリダニアに逃れてきた人達とは全く違う。
     とはいえ、ここでそれを馬鹿正直に言ったらどうなるか。アンテロープの肉なんてまた集めればいいだけだ。必死に集めた時間は無駄になってしまうけれど今を無事に乗り切れるならば安いものだ。
    「これしか、ないですけれど……」
     今日集めたお肉を取り出そうと彼等から視線を手元のカバンに移したのがいけなかったのか。草を踏む音が三人分聞こえた。思わず顔を上げた時には彼等はもう腕を伸ばせば届く距離にいた。
    「ララフェルってどうだったっけか」
    「冒険者だしなあ。やめておいた方が無難じゃないか」
    「こんな場所うろうろしてるんだから大丈夫だろう」
     目の前で何やら相談を始めた三人に私はどうしたらいいのか。これ幸いにと逃げ出したところでララフェルとエレゼンでは足の長さが違い過ぎる。私がちょっと走ったところですぐに追いつかれるのが関の山だ。となると、どうにかして見逃してもらう以外に道はない。
    「とにもかくにも、一度持ち帰って聞いてみるか」
     私には長く感じられたけれど、ああでもないこうでもないと話していたのは多分一瞬だった。三人は私の方を見て笑みを浮かべて、一歩近づいた。もう私が走り出そうがすぐさま腕を取られる距離だ。つい後ずさりをしてしまったけれど、そんなのなんの意味もない。
     正面に一人、残った二人は斜め前に立っている。私の腕を取ろうと、右側に立つエレゼンがこちらに腕を伸ばしてきた。絶対に勝てないけれど、それでも戦うべきか。さっきの白くて丸い奴よりは可能性があると思う。
     そう決意して、目の前の男達を睨んだ瞬間、私に腕を伸ばそうとしていたエレゼンが腕を引っ込めた。いや、少し違う。顔は歪み、こちらに伸ばしていた左腕を右腕で庇うようにしている。
     何があったのかわからない。それは残りの二人も同じだった様だ。何事かと腕を押さえたエレゼンを見ていた。ただ、右側のエレゼンだけが私を通り過ぎて後ろの方を見ている、
    「どうしてこんなところに……!」
     その後に続く言葉はなんだったのか。最後まで言うことなく目の前にいたエレゼンは私を睨んだ後、踵を返し森の奥へと走って行く。残された二人はどうしたものかと一瞬悩んだようだったが、結局後を追って去って行った。
    「よ、かったあ……」
     何がなんだかわからないが、危機は去ったらしい。今になって手足の震えが止まらなくて、思わず座り込んでしまった。服が汚れてしまうが知ったことか。立っているのも正直つらいのだ。それにしても本当に何があったのか。何か音が聞こえた気はしたのは確かなのだが。
     彼は自分の後ろを見ていた。押さえた左腕からは僅かにだが血が流れているようだった。つまり私の後方、しかも彼らに気付かれない程離れた場所から誰かが攻撃をしてきたということで。
    (でもなんだか知ってる人みたいだった?)
     どうしてと言っていた。彼らにとって想定外の相手。果たしてそれは私の味方なのだろうか。いや、味方じゃないなら何故助けてくれたのかわからないけれど。
     取り敢えずどんな相手かわからないけれど助かったのは事実なわけで。お礼を言うべきだろう。もし私にとっても逃げたくなるような相手だった時は諦めるしかない。あぁ、でも折角だからクォーリーミルにお肉を持っていきたかったなあ。
    「大丈夫だった?」
    「ひゃっ、ひゃい!」
     どうにかお肉を届けられないかと考えていたら声をかけられた。あまりに突然で変な声が出てしまった。必死に噛み殺そうとしたのだろうが、くつくつと笑う声が後ろから聞こえてきた。恥ずかしい。
    「クォーリーミルの仕事を引き受けたのかな?」
     声だけで判断するのはどうかと思うけれど、どう考えても自分を害するようには聞こえない。情けないことにまだちょっと立ち上がれそうにないから、しゃがみ込んだまま振り返って相手を見る。
     残念ながら最初に目に入ったのは足だった。そりゃあそうだろう。自分はララフェルで、しかも座り込んでいるのだ、同じララフェルでないならば顔など見えるはずがない。
     視線を上に動かしてようやく助けてくれた相手の姿をちゃんと見ることができた。大きな男性。いや、ララフェルから見たら大概の人は大きいのだけれど。
     とにかく、一人の男性がそこにいた。義弟と形は違うけれど長い耳が頭にある。ヴィエラという一族だったか。義弟は私とは違って肌が白いのだが、この人の肌は義弟とは少し違う。まるで薄曇りの時のお空の色。
     育った環境によるのか、それともララフェルにプレーンフォークとデューンフォークがいるように、ヴィエラにも色々な種族がいるのかもしれない。
    「……大丈夫? どこか怪我をした?」
     私が黙ったままだから、どうやら心配させてしまったらしい。慌てて立ち上がって服についた砂をパタパタと払った。
    「あの、助けてくださりありがとうございました」
     スカートの端を持ってお辞儀をする。この人も身につけたものを見るに冒険者だろう。ただ私なんかと違って熟練の。きっと海を渡り空を駆けているに違いない。冒険者が冒険者に助けてもらうなんてと思わないではないけれど。強さが段違いなのだから恥ずかしがることはない、はずだ。
    「難民の為の食材が足りないとかでアンテロープのお肉を集めてほしいと頼まれて……必死に集めていたら先程の盗賊団に絡まれてしまったんです」
     失敗を語るのは恥ずかしいけれど、助けてもらっておいて一切事情を説明しないのも不義理というか。なんというか。あの変な白くて丸いやつについては話さなかったけれど、話した方がいいだろうか。私では瞬殺されるであろうあいつもこの人ならば普通に倒せるかもしれないし。
     でも既にどこに行ったのかわからない魔獣を探させるのは気が引ける。森の奥に向かって歩いていたことだし、人と遭遇することはそうそうないだろう。
    「……クォーリーミルまで送ろうか?」
     私が考えを巡らせているのをどう思ったのかそんなことを申し出てくれたけれど、そんな面倒をかけるのは申し訳ない。さっきまでは足が震えていて立つのもやっとだったけれど今ではすっかり治っている。それならば移動手段のない私はこの人にとってお荷物にしかならないだろう。
    「大丈夫です、すぐそこですし!」
     木々の間からはエーテライトも見えている。迷うことはないだろう。そんな場所で盗賊団に絡まれていたという事実は彼方に放り投げた。
    「でも……っなんだよ、もうっ!」
     尚も言い募ろうとしたヴィエラの先輩冒険者さんだったのだが、どうやらお知り合いから何か連絡が入ったらしい。長いお耳に触れて何やら言い合いを始めてしまった。
    (手も大きいんだあ……)
     しばしの間虚空を睨みながら話をするのをなんとなく眺める。まあ、背が高いしお顔はよく見えないんだけど。背中に担いでる弓矢は、見たことのない装飾がされているし、グリダニアにいるどの弓術士の持つものより大きい。私の小さな手では持つことも出来ないだろう。そこは種族の差だから仕方がないのだけれど。
     身に着けている装備はグリダニアの街を歩いていれば見かけるものではあるけれど。この辺の店で買えるような物ではないのは一目瞭然だ。この辺で売ってるものなんて素材だってちょっと遠出すれば手に入る程度の物ばかりだし、デザインはなんというか野暮ったい。でも目の前の冒険者さんの物は全然違う。
    (いつか、私もこんな素敵な装備を身に着けられるようになるのかなあ)
     弓とかは無理だけれど。きっと幻術士に対応した素敵なものがあるに違いない。お値段も素敵なのだろうから、出来れば自分で作りたいものだけれど、作れるようになるには長い年月が必要だろうし、それならばお金を頑張って貯める方が現実的だろうか。
    「ごめん、本当に一人で大丈夫?」
     ようやく会話を終えたらしいヴィエラさんが尚心配そうに尋ねてきたので大きく頷いた。私は一応冒険者なのだしある程度のことならば対処できる。あの変な丸いのとか盗賊だとかと遭遇さえしなければこの辺は比較的安全なのだ。
    「私も一応冒険者ですし、どうしても対処できないことがあっても拠点に戻ればいいだけですし、大丈夫です!」
     どういう理屈かは理解出来ないけれど、冒険者になれば魔獣との戦闘で動けなくなるほど消耗しても自身で決めた拠点に戻れるのだ。本当にどうしようもなければそうやって拠点に戻ればいい。依頼された物を納品する為には改めてクォーリーミルに来なくてはならないが、それだけならばなんとでもなる。
    「ごめんね、本当に」
     謝罪の言葉の後、再び知り合いから文句の言葉でも入ったのか、ヴィエラの冒険者さんは架空に向けて悪態をついてからテレポをして行った。
    「あ、名前教えてもらえば良かった……」
     そうすればお礼の手紙など送れたのに。こんなことを義弟に知られたら呆れられてしまうに違いない。
    「ないしょないしょ」
     しばらくは大丈夫だろうと思うがもしかしたら先程の面々とは違う盗賊団がやって来る可能性もあるだろう。早々にこの場を離れることにしよう。
     荷物が入った鞄を抱え直して、私はクォーリーミルを目指して駆け出した。あんなことがあったんだからテレポを使えって話だけれど。でもエーテライトのてっぺんが見えているくらい近いのにテレポなんて勿体無いよね。
     
     
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    melrose_E

    DONE暑い日が続くので。涼しいお話を書きたいなってなったのです。
    あと純粋に新しい水着を仕入れたので…

    ヴィエラとララフェルのCPの小話。勢いで書いてるので誤字脱字等々ご容赦くださいな。
    眩しすぎるのは太陽じゃなくて 今日の朝ごはんは私が作った父さん直伝のドードーオムレツと、ルカくんが作ったパースニップサラダにウォルナットブレッド。ウォルナットブレッドは私が食べやすいようにちょっと小さく丸い。しかもほんのり甘い。私の大好きなパン。
     二人でキッチンに立って準備をした朝食は簡単なものばかりだけれど美味しい。何より二人で作って、同じものを食べる日々が楽しい。
    「ねえメルさん海に行かない?」
     オレンジジュースを口に含んだところで突然のお誘い。ちょっと驚いた。
    「この前新しい水着、買ってたよね?」
     確かに買った。去年貰った水着も嫌いではないけれど、先日タタルさんから譲ってもらった無人島で交易を頑張って頑張って頑張ってやっと勝った水着は上に半袖のシャツを羽織れるようにとセットになっていたから重宝しそうだなあと思ったのは確かだ。普通の水着と違って、そのシャツに合わせたショートパンツもあったから、海に入らないにしても暑い時にはいいかもしれないと思って。買ってすぐにルカくんに見せたのも事実なんだけれど。
    2085

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