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    tokeyukumikan

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    酔っ払ったグレにだる絡みされるムルのグレムル短い話です
    とっても短いサクッとスナック小話

    夢見て偶像 酔っ払いの相手は往々にして面倒なものだ、と陽気に笑いながら肩を組んで体重をかけてくるグレゴールを押し除けながらムルソーは思った。
     業務を終えてバスの後部の各自の部屋に戻っていく囚人たちの中で、管理人であるダンテがムルソーを呼び止めた。先の戦闘で使った新しい人格の感触を聞きたいとのことで、ムルソーは列から離れて踵を返し、しばらくダンテと話し込んだために帰還が遅れた。
     思ったより時間をかけてしまったことを詫びるダンテに変わりない終業の挨拶をして、今度こそ自室へと戻ろうと廊下を歩き出したムルソーの手を壁際で待っていたグレゴールの手が掴んで引き留めた。その時点で頬はうっすら赤らんで、眼鏡の奥の両目は陽気に細められていた。アルコールに浸った息を吐いて、掴んだ腕を引きながらグレゴールは笑った。
    「俺の部屋で飲もうぜ、ムルソー」 
     既に酩酊に両足を突っ込んでいる彼の提案を退けるのは無為に時間を浪費するだけだと経験していたムルソーは手を引かれるがまま部屋に入り、そうして今に至る。
    「ムルソー、飲んでるかぁ?」
    「飲んでない」
    「なぁんでだよぉ」
    「明日も業務があるからだ」
    「真面目だねぇ…そういうとこも嫌いじゃねぇけどさぁ」
     でもちょっとくらい羽目外したってバチは当たらないだろぉ、と背中を叩いて笑うグレゴールを、ムルソーはただ冷めた目で見つめた。グレゴールの悪酔いにはいくつか種類があって、ひたすらに人生を呪いながらさめざめと泣く日もあれば、暴力的な衝動を持て余して歪に笑いながら手を伸ばして来る日もある。今回は比較的ムルソーへの被害は少ない酔い方をしているが、やたらとスキンシップが増えている上に言動が気持ち悪い。
    「かわいいなぁ」
     これだ、とムルソーは眉間に皺を寄せた。しわくちゃのシーツがかろうじて乗っかっている、という状態のベッドに腰掛けるムルソーの大きな掌を取って、グレゴールはニコニコと機嫌良さそうに呟いた。抵抗せず力の抜けた指を一つ一つなぞっては、「あんさんの爪先なんかかわいいんだよな、深爪気味だからか?」などと独り言を言っている。アルコールによって脳がふやけている相手の戯言を真に受けるつもりもないが、控えめに言って医者に行ったほうが良い錯乱具合だとムルソーは思った。
     髪が黒くて真っ直ぐなのが良い、肌が白だから色が変わるのがわかりやすいのが良い、すぐに壊れそうもないでかい体が良い。脈絡もなく、好き勝手に褒め称える言葉を吐いて無遠慮に身体に触ってくる片手はじっとりと熱を持っている。この調子ならそう時間も経たずに眠りにつくだろうと、鼻筋通っててかわいい〜などとほざきながら鼻先を突いてくる手を払いつつ飲みかけの酒の缶をその手に押し付けた。振り払われて寂しそうに唇を尖らせていた男は、握らされた酒にすぐニッコリと相好を崩す。何にでもかわいいと言う若い女性を思い返していたムルソーの脳裏に、おしゃぶりを咥えて笑う赤子が上書きされた。
     機嫌よく缶を呷るグレゴールを横目に、物が乱雑に散らばった床をなんとなしに眺めた。殆ど物を置いていないムルソーの自室とは異なり、グレゴールの部屋は見る度に物が増えている気がする。今は酒の缶というどうしようもない物で溢れているが。
     ムルソーは前後不覚になるまで飲むという感覚がわからない。そういう時に自分のような反応の薄い人間を呼び立てる意味もわかっていなかった。性欲を伴う衝動を押し付ける相手としてならまだしも、泣くほどの不満をぶちまけたり、甘い賞賛を浴びせるには自分が不適合であるという自覚がムルソーにはあった。グレゴールが求めるであろう反応を、ムルソーは一度だって返したことはない。求めるものが与えられないから、彼は何度でもアルコールに手を伸ばすのだろうか。自身と業務にさえ影響がないのなら、大人である彼が何をしたところでムルソーに興味はないのだが。
     思考に沈んでいたのはそう長い時間ではなかったはずだが、唐突に伸ばされた掌が顎を掴み、思いの外強い力で引き寄せられたことで霧散した。不快感を覚える疼痛に顔を顰めるムルソーに、グレゴールは真剣な面差しで口を開いた。
    「…このお綺麗な口も、昏い緑の目も好きだよ。けど時々憎たらしくなる」
     呼気に多分にアルコールを滲ませた声は、しかし酔いを感じさせないほど明瞭で、唇を親指で強く拭ったかと思えばそのまま頬を滑って目元に触れた指先は焼けるほどの熱を持っている。じっと見下ろすムルソーの平坦な視線を真っ直ぐに見返して、グレゴールはふっと微笑んだ。自嘲するように。
    「…夢も見させてくれないんだもんなぁ…」
     途方に暮れた囁きを残し、ぐらりとその身体から力が抜けてそのまま床に倒れ込む。ムルソーは数秒そのまま倒れ伏したグレゴールを見下ろし、手を伸ばして顔を覗き込んだ。真っ赤に赤らんだ顔は幸せそうに微睡んでいた。その顔から眼鏡を取ってやりテーブルに置いて、本体は雑にベッドに放り捨てた。酷い音を立ててスプリングが軋んだが、深い眠りの中にいるらしいグレゴールが起きる気配はなかった。
     立ち上がり、床に散乱する缶をどうするか一瞬考えて、手を出さずにそのままにしておくことにする。自分が飲んだ水のペットボトルだけ回収してそのまま部屋の出口へと向かった。
     グレゴールはアルコールに強いわけではない。許容を超えればすぐに酩酊し、泣いたり怒ったり笑ったり忙しく、大抵は一人で騒いですぐに寝落ちる。だが記憶を飛ばすことは滅多になかった。
     酒の匂いと自分に触れた熱と、目が覚めて自分の失態を思い出し一人悶える羽目になるだろう酔っ払いを置き去りにムルソーは部屋を後にした。夢なら一人で見られるだろう、と誰に言うでもない囁きを落として。
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