この世界に初めて足を踏み入れた時の高揚は今でも忘れない。
初めて基礎呪文を放った時のこと、夢にまで見たホグワーツ城、愉快な友人たち、ヒッポグリフにグラップホーン…そして古代魔術。何もかもが新鮮でとにかく楽しかった。
謎解きに行き詰まった時はフィグ先生の知恵を頼りにした事もあった。ポリジュース薬でブラック校長に変身した時なんかは二人して大笑いしたものだ。
いよいよ物語も大詰めかというところで、隣にいるフィグ先生に話し掛けた。
「私の勇姿、見届けてくださいね。」
「もちろんだとも。」
これまでずっと一緒に冒険に付き合ってくれていたフィグ先生はにっこりと微笑んだ。
────暗転。
私の視界いっぱいには、穏やかな表情で横たわるフィグ先生の姿があった。触れたくても触れられないその肌は、きっと石のように冷たくなっていることだろう。ドラゴンと化したランロクの攻撃が彼に直撃したのを目の当たりにしてからずっと堪えていた涙がぼろぼろと溢れてくる。
「そんな…フィグ先生が……。」
「私ならここにいるが?」
声のした方を向くと、にやにやとやけに愉快そうなフィグ先生。
ゲームの中の出来事と知りながらも泣き腫らしている私のことがおかしくて仕方ないらしい。
「それはもちろん分かってますけども!」
画面の中のブラック校長が何やら演説をしているようだが全く頭に入ってこない。私は涙を拭くために握りしめていたコントローラをようやく手放した。