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    なるぎれ

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    なるぎれ

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    小説も載せられるのか…!と思って、もったいないオバケをしてみよう。
    YOIでは、なんだか妙な衝動で、小説とも言い難い作文をちょこまか書いておりましたねえ…。
    ユリオくんが成人してるくらいの未来設定です。

    #YOI

    3.夜のはなし


    マッカチンは、びっくりするくらい長生きだった。

    元々利口な犬だったが(まぁ食い意地に関しては別だが)アイツは死ぬときすらも利口で、オフシーズンの、オレたち三人ともがピーテルにいるタイミングで、しかもオフの日に、きちんと死期をさとらせて、その上で逝った。

    「もう今晩あたりでお別れかもしれない」

    と、ヴィクトルから連絡が入ったときに真っ先に心配したのはカツドンのことで、(なにせ二度目の愛犬の死だ)いてもたってもいられなくなったオレは、とりあえずすぐに奴らの家に向かうことにした。

    息を切らせているのを悟られないよう、ゆっくりと部屋に入ると、想像に反して、穏やかな顔をしたカツドンがいて、マッカチンの腹をなでながら、たわいもないことを話しかけていた。

    「あ、ユリオだ。マッカチン、ユリオがきたよ」

    と、ほとんど撫でるかのように、ポンポン、とマッカチンの腹を叩きながら、カツドンが声を上げる。
    「おう、」と、出した声は、随分と囁くようなボリュームになった。カツドンの背後からそっと覗き込むと、マッカチンはゆるりと目を開けて、オレを見て、そしてまたゆっくりと目を閉じた。

    「もう最近はほとんど耳も聞こえなくなってたんだけど…、でもユリオが来たの、分かったんだねえ。いっぱい遊んでもらったもんね」

    と、またマッカチンに話しかけながら、カツドンは今度はやわく搔くように首筋を撫ではじめた。

    「勇利、少し交代しよう。何か食べておいで」

    ダイニングからやってきたヴィクトルの、その手にはスポイトが握られていた。

    「んー…」

    生返事のカツドンは、マッカチンの腹から手をどかさず、少しだけ横にズレて座りなおす。ヴィクトルは、返答のないことに特に何も言わず、その少し空いたスペースに座り込み、マッカチンの顔に手を添えると、スポイトを口にあてがった。

    「…本当は点滴のほうが良いのかもしれないんだけど…、でも、勇利が、病院より家にいるほうがいいよ、って言ってね。おれも、マッカチンが落ち着くところがいいと思って」

    独り言のようにそう言いながら、スポイトの先をマッカチンの口に入れ、水を落としていく。むき出しになった奥歯の端から水が溢れるのが見えた。飲めているのかは、分からなかった。


    オレを見上げて以降、マッカチンの目は開かない。
    カツドンを真似てなでた腹は、びっくりするくらい冷たかった。腹を凝視すると、かろうじて上下に動くのが見てとれる。カツドンが、マッカチンの胸に耳を当てる回数が徐々に増えていった。
    いつの間にか、オレたちは、三人、肩を並べるように座っていた。
    この、南側にあるでかい窓のすぐそばの、ふわふわの絨毯の上は、マッカチンの気に入りの場所だ。犬のくせに日向ぼっこが大好きなコイツは、年をとる前からここで昼寝をするのが好きだったという。
    二人は、マッカチンの腹やら首筋やらを撫でながら、マッカチンとの思い出話をポツンポツンと交わしていたが、オレがこの場所で思い出すのは、カツドンの背中だった。
    ヴィクトルのいない夜中、この場所で、ひとり座って、マッカチンを膝にのせていた背中。時折窓を見上げる際、すぅと背筋が伸びる、その姿を美しいと感じた自分にびっくりしたのだった。

    いくらでも、その背中に声をかけることはできたのだ。

    隣に座ることだってできた。

    でもオレは、ひとりと一匹で過ごした夜を、結局、覗き見ることしかできなかった。
     
    いつの間にか、ヴィクトルはカツドンの左肩にもたれかかるような体勢になっている。カツドンの背に回した手は、背中をこえてオレの脇腹にあたっていた。少しくすぐったいそれを意識した次の瞬間、今度はオレの背に手が回る。驚いて顔をあげると、それはカツドンの腕だった。
    ふいに温かくなった背中に、オレの中の何かが緩む。緩んだまま、オレはカツドンの背に手を回す。指先に触れるのは、ヴィクトルの着ているサマーニットだ。
      
    そうして、三人と一匹で、窓の下で夜を過ごした。
    カーテンを開け放した窓からは、青く白く銀色めいた光が、降り注いでいた。
     
     
    もうすぐ夏が来る。
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