今日も天気がいいので昼寝をすることにしました。穏やかに揺れる水面は青く、雲ひとつなく空は晴れ渡る。どこまでも青いその世界は海と空の青が混じり合うかのように見えた。
そんな世界を1つの船が通る。背を風が押し、ゆっくりと穏やかに小さな波を立てながら進むその船。船の帆には三本の傷跡がついたドクロマーク。海賊船である。
船首には赤い竜。その上にあぐらをかいて座っている赤髪の男がいた。背中から吹く風を受けて気持ちよさそうに目を閉じ、髪を遊ばせていた。なにかに気づいたその男は立ち上がり、高い場所にある船首から甲板に飛び降りたが、なんでもないように走り出し、今まさに開いた扉から出てきた黒髪の男に飛びついた。
「お頭あぶねぇだろ」
大の男が抱きついたというのにビクともせずに片手で難なく受け止めたのはこの船の副船長その人であった。お頭と呼ばれた赤髪の男はこの船の船長である。
「お前だから大丈夫だろ」
嬉しそうに抱きついた時に首に回した腕の力を込め、肩に顔を埋める。
「眠いのか」
「…眠いと言えば一緒に寝てくれるのか」
「お頭の命令とあればな」
「なら、ヤシの木のところで昼寝だ」
了承するように男は歩き出す。
「重くねェのか?」
この船の船長は副船長の首に手を回し、腰に足を回し、全身の体重を預けていた。
「あんたをいつも運んでやってるのはどこの誰だと思ってやがる」
「…ぅ、悪かった」
「…まぁあんたを他の誰かに運ばせるなんて思ってもいないがな」
「なんだよそれ」
多くの船員がその姿を見ても周りは驚くことなく仕事を進めていた。日常茶飯事で、2人揃っているのは平和な証拠であると思うほどにその光景はこの船ではありきたりな出来事であった。
「ーー到着しましたよ。船長殿」
「おう。ご苦労様」
1度手足を離しヤシの木の下に寝そべるとその隣に並んで横になり、黒髪の男は枕代わりにと自分の腕を差し出した。
「お前の腕、おれ好きだ」
「硬いだろ」
「硬ェけど好き」
腕枕をされた男は腕を差し出した男の方を向くと反対の腕を触る。手から徐々に上に行き、腕から胸へ手を滑らす。
「たくさん筋肉がついてて羨ましい。おれはこんなについてくれねェから」
筋肉が盛り上がりできた凸凹に剣だこのできたてが指を滑らせる。
「まぁ鍛えているからな」
「おれだって鍛えてるぞ」
「剣を振るうあんたとは違う鍛え方だ。あんたも無いわけじゃ無いだろ」
「そうだけど」
触り返すように太くかさついた硬い指が剣を振るものの特有の腕を撫でる。
「ここも、ここも、ここだってあんたにも筋肉はついている」
「んっ、お前触り方」
少し顔を赤くし男は目の前の男に抗議した。
「あんたと同じように触っただけだが。敏感になってきたか」
「ち、がう。お前が夜にいっつもそうやって触るからだろ」
「くくっ」
「もう寝る。しらねェ」
頬をふくらませた後、額を胸に当て目を閉じた。
「おやすみ」
優しく抱きしめ、赤い髪に顔を埋めると目を閉じた。
ーーー足音が聞こえてきた。ベックはまだ寝ている。ちょうどベックの方から音がする。少し顔を覗かせるとあっと声が聞こえ足音を立てないようにゆっくりと近づいてくる。
「どうした」
「その、進路を変えたいので相談したいとのことですが…」
「任せると伝えてくれ」
「はい」
直ぐに離れて行く背中。頭を元の位置に戻すとベックが身動ぎした。
「誰か来たのか」
「進路の相談。任せた。あいつらなら大丈夫だろ。おれ眠いからこのまま、な」
「…あぁ」
目を開けることなくかけられた声。少し寝ぼけたような響き。腕に頬を擦り付けると頬を緩ませそのまま寝息が聞こえてくる。
「お前頑張りすぎなんだよ」
目の前の顔にはうっすらと隈が出来ている。いつもできている眉間のしわはない。それが嬉しくて頬を撫でているとぎゅっと抱きしめられた。顔はベックの硬くて弾力のある胸に押し付けられた。寝息と温かい身体に抱きしめられ、本当に眠くなってきて目を閉じた。
次に目を開けたのは日も暮れた頃。夕食だと声をかけられた時だった。声をかけてきたベックの顔はすっきりとしていておはようと笑うとあぁと頬を緩ませた。