七夕7月7日は七夕の日。
遠い昔の中国のお話に出てくる想い人同士のふたりが7月7日のこの7続きの日にだけ一緒にいられるという日だ。
そんな日に彼に誘われて私は商店街に来てしまった。笹を見れば大勢の願い事の書かれた短冊が飾ってある。人のする願いごとなど所詮は戯言で、本気で頑張ればできるものを、夢物語として適当に言っているだけだ。
『叶わない』からこそ夢は夢として存在価値があるのだろう。そんなことを思いながら、私たちは短冊に願い事を書く。
しかし私にはわかってしまうのだ、彼が何を書いたか、彼が何を願っているのか、何を考えているのか。全てがおみとおし。幼い頃から人の心が聞こえていたこの私、海上心に嘘なんぞつけるわけがない。
だから意味が無い。神社で願い事を相手に隠していても私には聞こえている。
無意味で無価値。そう思ってしまえば簡単なものだ。
しかし、彼は違った。私に心を読まれようとなんだろうと、一緒に来たい理由があったんだ、と彼は言った。
「お前と一緒にいたかった」
と言われて、普通の女なら喜ぶんだろうが、私たちは違う。恋人じゃなくて友達の延長線上にいる私たちに特別な感情なんて___
ん。かけたよ、心。
早くないですか?一松様。
そう?
彼の考えていることを読む気にはならなかった。なれなかった、が正しいかもしれない。特別な感情なんて持ち合わせていないと言おうとした私を殴りたい。
心は何書いたの?
……私は……まだです。
え?そういうの早いタイプかと思ってた。
意外だわーと言いながら彼はマイペースに短冊を飾る。ちらりと彼の願い事が見えた気がしたが、私は自分の短冊の方に目線を向けていた。
私が祈れるものなどない。こんな私のようなクズに祈れる人生を与えてくれる神などいない。せいぜい夢物語を見続けられる人生であれたら……なんて何回考えただろう。
んー、これは短冊に書くにはちょっと重すぎる気がする。これを見られたらなんとなく恥ずかしい。
……あ。これ……椿って書いてある。
え?なんですか?
彼が他人の短冊を見渡していたら見覚えのある筆跡と小っ恥ずかしい願い事が書いてあった。
『チョロ松くんとずーっといっしょにいれますよーに!』
……なんとまぁお気楽な姉らしい言葉選びだろう。
そんなふうに相手を思える素晴らしい関係性なのは何よりだが。
というかここに来てたんですか、あの二人は……
……らしいね、隣にチョロ松兄さんの願いも書いてあるわ
『彼女が僕の隣にいてくれますように』か。こっちもこっちで、まぁ小っ恥ずかしいことこの上ない……この関係性……バカップルと言えばいいんだろうか。
……あ。
ん?どうしたの心。
いや、いい願い事が思いつきまして。
……は?
そう言って私はスラスラと書いていく。彼に見られていた気もしたが私は気にせずそのまま紫色のリボンで短冊を結んだ。
あんたって即決すると早いよね。
まぁ……そういう人間ですので。
彼にはバレたくないけど、でも、これも誰かに見られたらバカップル、なんて言われてしまうんでしょうけど。
『心がもっと幸せになれますように』
『彼がもっと幸せに生きれますように。』