モラトリアムの衝迫 それは桜の花が少しずつ咲き始めた頃だった。
時刻は丑三つ時。ESから程近い公園にはほぼ誰もおらず、いても通り道に使う程度で足早に去る人たちばかり。こちらを見る人なんて一人もいなかった。
ひらひらと舞い落ちてくる花弁に対してつい手を差し出すも、自分の先程までの『仕事』を思い出し、ゆるゆると手を下ろす。
今回の依頼もその前の依頼も、こはくさんには頼らずに一人でこなした。悪い人間とは掃いて捨てるほどいるようで、一人片付けてもまたすぐに依頼が入る。そういった人間をなんとかしてほしいという依頼内容は俺に直接来るので別にこはくさんに言わずに済ませてしまえば、それで終わるのだ。もしかしたらこのことにこはくさんは薄々気付いているかもしれない。それでもこの行動を変えるつもりはなかった。裏の仕事のことで前回連絡したのはいつだっただろうか。すぐに思い出すのはもう難しい。
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