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    DARK_azaz

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    DARK_azaz

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    現代パロでぴゅあぴゅあなライエル
    平凡と偶然の出会いを交わした二人の高校生の話でした

    ときめきの小雨がふるの 梅雨も随分前に過ぎてしまった六月末日。夕暮れの図書館から出ると、にびいろの空に小雨がふっていた。
     天気予報の言った通りだ。少年は傘を開く。このくらいならさす必要はない気がするが、せっかく持ってきたのだから使えばいい。もっとふると思っていたのだが、そうそう勘も当たらない。
     少し濡れ始めたコンクリートの上。小さな小さな水溜まり。色のない灰色の雨。音もない静音の雨。傘にあたったのかもわからない、霧のような雨だけど、今晩は涼しげだから、風邪を引かせる罠かもしれない。
     周りを歩いてる人は一人もいなかった。偶然だろうか。必然だろうか。校舎の影にあたった電灯が、急に閃き光出す。
     もうすぐ一ヶ月。
     急な思い付きでこの学校に通い始め、もうすぐ一ヶ月になる。早いような、短いような、いやいや実際はとても長かった。
     自分の知らない高校生の日常には、素敵な刺激がある筈だと、どこかで幻想していた。実際はどうだ。何も変わらない。人は媚び、嘘をつき、享楽に群がる。皮肉っても仕方がない。これが自分の生まれ落ちた世界。
     少年は雨の中に立ち止まる。青い傘が暇を見つけてくるくる回る。手慣れたように、軽やかに。傘の端から雫が飛び散る。なるほど確かに雨はふっていた。
     ちゃぷりと何かが音を立てる。
     誰か歩いてる? 傘を浮かして広げた視界。その中に、その人がいた。
     それは一人の男子生徒だった。柔らかそうな髪をわずかに濡らし、傘もささずに図書館から歩いてくる。長袖のカッターシャツはじわりと透けて、少し薄めの肌の色が、ここからでもよくみえた。
     不思議な存在だった。なぜか目がはなせない。とても普通の男子生徒だった。それなのに。
     じっとその足どりを眺めていると、当然のように目があった。彼は一瞬だけこちらを見ると、すぐにまた正面をむいて歩きだす。
     学生寮に向かうのだろう。彼はどんどん近づいてきた。すぐ前を通りすぎようとした時、彼は急に立ち止まって、少年を見上げた。
    「何を見ているんだ?」
     急に話しかけられて、少年は驚いた。なんて返せばいいのだろう。「貴方が気になってずっと見ていました」そんなことはとても言えない。
     近くでみると、自分よりずっと背が低い。成長の少し遅れた丸い童顔。長めの前髪の間で、ビー玉のような大きな瞳がつやりと光った。
     何か言葉はないかと探したが、それより先に手があがった。
     冷たい水の感触。ぺたりと滴る髪に手を乗せて、気付けばさらりと撫でていた。
     彼は何も言わない。
    「あ、ご……ごめん!」
     急に我にかえる。恥ずかしくなって傘の中で頭を下げると、彼は首をかしげるだけだった。変なやつだと思われただろうか。
    「傘は、持ってないのか?」
     少年が尋ねると、彼はこくりとうなずいた。朝は晴れていたからと、きまぐれな言葉をかえす。
    「こんな雨でもあたってたら風邪引くぞ? 寮に行くなら傘、かそうか?」
     さぁ入れと傘をさしだす。少年はぎこちない笑顔で、なんて言われるか待ち構える。こんなことするつもりじゃなかったのにと、内側で困惑する。
    「ありがとう」
     彼はあっさりと受け入れ、傘の中に入ってくる。
    「俺が持とうか?」
     尋ねかえす彼に、かえす言葉がなかなか浮かばない。どうしてだろう、緊張してる。この人と一緒にいることに。
     結局何も言わずに持ち手をさしだす。彼は受けとると、自分と少年との間、頭の上に、高く傘をかがげる。少しそうしていたが、彼はすぐに傘を少年にかえした。
    「お前が持っていた方がいい」
     肘をあげた姿勢が疲れると思ったらしく、彼は少し不服そう。
     受けとる時に指が少しふれあった。初めての接触。彼の冷たい体温が指先にあたり、じわりと体に染み込んだ。
     そのまま二人は歩きだす。無言で、彼はどこでもない前をむき、転ばないことだけを気にして黙々歩く。少年はときどき横に並ぶ彼をみて、どうしようかと焦燥する。
    「見かけない顔だが、もしかして先輩だったのか?」
     声をかけられまた驚く。いつのまにか見上げていた少年の表情は、少し冷めてて固くって。どうやらそれが彼の表情だと気付くには、随分時間がかかったものだ。
    「いや、一年だよ」
     軽い言葉でさらりとかえすと、彼もまた同じように軽くかえす。
    「俺も一年だ。ということは外部生という者だな? 実物は初めて見るが」
    「外部生っていうか、転校生だよ。六月始めにこっちに来たんだ」
     見慣れない顔に興味をもったらしい。少年にとって、それは嬉しいことだった。
    「六月始め?」
    「そうだよ」
    「それじゃあお前が、噂の天才様なんだな」
    「天才様?」
    「みんなそう呼んでいる」
     あまり聞きたくなかった言葉が飛び出して、急に肩が下がる。気泡がわれるように、緊張の糸が溶けてしまった。
     黙る少年のことなど気にもせず、彼は黙々と噂を連ねる。仮面のようにはりついた表情が、少し憎らしく見えた。
    「帰国子女の転校生がくる。なんでもできる天才で、運動も、勉強も、なんだっててきる。顔もよくて、性格もよくて、好かれやすいから、あっいうまに人気者。本を読んでいると、色々な言葉が聞こえてくる。しかし、最近はお前の話が多いため、煩わしい」
    「好き勝手いってくれるよな」
    「思っていたものと違う」
    「え?」
     じっと顔を見つめられ、足が止まる。背筋が少し反り、傘が浮いて傾いた。はみ出したことに気づいた彼は、一歩踏み込み距離を縮めた。
     彼はまだ少年を見上げる。
    「メアリーのような人物だと思っていた。実物はそうでもない。ちゃんと人間だ」
     それだけ話すと、彼はまた興味を失ったように正面に向き直ってしまった。また振り向いて欲しかったが、声をかける言葉が見当たらない。何を選ぶ必要があるのか、何を戸惑っているのか、いいから何か言えばいい。寮はもうすぐそこだった。
    「俺ってそんな印象なの?」
     気になって気になって仕方がない、けれどきくのは遠慮がち。少しうわずった、いつもよりずっと頼りない声が出る。こんな態度がとれたのか。初めての感覚に戸惑うが、それは意外にも心地よい。
    「いい人だ。傘も入れてくれた。しかし、変なやつだ」
     寮の門をくぐり、もうすぐ屋根の下。
    「変? 俺が?」
    「自覚がないのか?」
    「……そうかもしれない」
     雨はまだあがらない。強くもならず、やみもせず。
    「ありがとう」
     玄関で傘を畳むと、彼は最初と同じように言って、少しだけ頭を下げる。無機質な表情も、堅苦しい声のトーンも、何も変わってはいなかった。
    「また今度、会ったらお礼をしよう」
    「また会えるのか?」
    「すぐに会える」
    「すぐに?」
     何を根拠に答えるのか。
     それきり彼は寮の奥へ消えてしまった。
     階段の方……彼は何階までのぼるのか。どこの部屋に住んでいるのか。エレベーターは使わないのか。気になることは多かったが、知らなくてもいいことも多かった。
     早く体をふいた方がいい。いらぬ心配なんて浮かべながらエレベーターの降りるのを待つ。
     いったいどうしてしまったんだ?
     静かに上昇するエレベーターの中ででも、彼のことばかりが頭に浮かんだ。可愛らしい鼻をしていた。まつ毛も少し長かった。声変わりも遅れていて、自分なんかよりずっと高い。けれどしっかり男の子で、並んで傘に入ると肩が出る。文句も言わず歩いてくれた。
     自分の部屋に向かう途中、窓の外に彼の姿がちらりと見えた。渡り廊下を行く彼は、さっきと全く変わらぬ顔で、静かに消えてしまった。
     目がはなせなかった。
     そして気づく、やっと気づく。
     これが恋というヤツだ。
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