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    deepinside375

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    deepinside375

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    Xにあげた祠破壊オーカイ(オーエンが壊した方)のちょっとした続き+うっすら過去話

     不機嫌さを隠さずにのろのろと進むオーエンの衣の裾が後ろから強く引かれる。
     幾度も引っ張られるのを無視していたが、看過できないほどの強さで引かれてとうとうオーエンは振り向いた。
    「何?」
     そこには赤銅色の狐の子供がいる。少し前からオーエンの元に転がり込んで勝手に弟子まがいのことをしているカインだ。
     カインの耳は後ろに倒れ自身の尻尾を片手で抱きしめている。そうして空いている手でオーエンの裾を握っていた。
    「……」
    「カイン。黙ってちゃ分からないよ」
     オーエンがため息をついてしゃがみこむ。
     目線を合わせると、それから逃げるようにカインの目が左右に泳いだ。そんなにも言いにくいことなのだろうか。
     いつもは遠慮もなにもなく言いたいこと、やりたいことを伝えてくる子狐にしては変な反応だとオーエンは訝しむ。
    「カイン」
     語気を強めて名前を呼べば、わずかに体を震わせて口を開いた。何度かはくはくと開閉をして意を決したようにオーエンを見つめる。
    「オ、オーエン……」
    「何」
    「あの、オーエンの……オーエンの目玉をくれないか?」
     思いもよらなかった言葉がカインが飛び出てくる。
    「は?」
     目玉? 今この子狐は目玉と言ったか? オーエンは思わず目を瞬いた。
    「えっと! オーエンの目玉を俺にください!!」
     オーエンの短すぎる返事を敬語でないことを咎められたと取ったらしいカインが言い直す。違うそうじゃない。
     成り行きを見守っていたフィガロが耐えきれずに吹き出した。
    「ぶふっ」
     こちらに背中を向けて震えている。フィガロを無視してオーエンは聞き返した。
    「ちょっと待って。もう一回言ってくれる?」
    「あ、あぁ。オーエンの目玉くれ、ください」
     カインが同じ言葉を繰り返す。聞き間違いではなかったようだ。
     フィガロが地面に崩れ伏した音がした。無視する。
    「目玉ってお前……とんでもないものを欲しがるね」
    「ひー。面白すぎる。でも、可愛らしいおねだりじゃないか」
     叶えてあげなよとフィガロが目を細めた。
    「まさかカインがそんなことを言うなんて、さすがお前の弟子といったところかな」
    「そうか? えへへ、ありがとう」
     カインはもじもじと尻尾の先っぽをいじくりながら頬を赤らめる。
     オーエンの弟子と言われたことが嬉しいらしい。
    「それ褒めてるの? ちょっと、カイン。それ褒め言葉じゃないから。悪い狐の弟子って言われて喜ぶなよな」
     悪い狐って自分で言うんだとフィガロは思ったが、口には出さない。
    「じゃあ、俺の目をあげるから。貰うだけじゃ悪いから俺の目との交換ならいい?」
     カインがオーエンにしがみついて首を傾げた。どうしてそんなに必死なのか。
    「ねぇ、どうして僕の目が欲しいの?」
     溢れそうな涙をこらえているカインの目尻を拭ってやりながらオーエンが聞いた。
    「しばらく会えなくなるんだろ?」
    「まぁ、そうだね」
    「寂しいから。オーエンが側にいないのはイヤだから、鏡を見たときにオーエンに会えるように」
     だから欲しいのだと言う。
    「奪うだけじゃなくて自分の目を捧げるというのだからカインは優しいじゃない。今なら可愛いカインに免じて俺が処置をしてあげるよ」
     普段はこんなサービスはしないとフィガロが口元に手を当ててウィンクをした。
    「うわ、きっつ」
     あからさまに拒絶反応を示したオーエンの耳が後ろに倒れる。
    「なぁ、オーエン。頼むよ。大切にするから……」
     カインがオーエンの胸元に額をぐりぐりと押し付けた。
     オーエンはひとつ息をついて、カインの頭を優しく撫でる。
    「しょうがないな。いいよ。交換してあげる」
    「ホントか?! やった! ありがとう、オーエン」
     カインが嬉しさのあまり千切れんばかりに尻尾を振った。その様子は狐というよりも犬だなとオーエンは苦笑する。
    「僕の目をあげるんだ。浮気しないでよね」
    「うん!」
     そうして両者同意のもとでオーエンとカインの左目の交換が行われた。
    「俺の目だ」
     オーエンに嵌まった自分の蜂蜜色の目をカインが嬉しそうに眺める。
    「似合ってるでしょ」
     最初は渋っていたようにも見えたオーエンがなぜか得意げに前髪をあげた。結局はじめからオーエンもその気で相思相愛じゃないかとフィガロは二人を見て思う。
     言葉にすれば天の邪鬼な狐は即座に否定するだろう。可愛いカインの前でわざわざ彼を曇らせるようなことはしたくない。
    「そろそろいい?」
     もうここまでとフィガロが手を叩いた。
     オーエンは目に余る悪さをして封印されることになっている。肉体を封印されて300年ほど魂を人間の器に入れる。そこで大人しくしていろというわけだ。いつまでもこうしているわけにはいかない。
    「師匠と弟子の悲しい悲しい別れを邪魔するなんて無粋だね」
     オーエンの目が皮肉げに歪んで弧を描いた。
    「はいはい。ごめんね」
     フィガロが両手をあげて軽い調子で言う。
    「ちっ。まぁ、いいや。カイン」
     オーエンの声にカインの耳がぴんと立ち上がった。
     カインの頭をゆっくりと撫でて、耳元で囁く。
    「しばらくのお別れだけれど、僕のことを忘れないで。見失わないで」
    「オーエンのこと忘れるなんてしない。俺はずっと待ってる」
     カインが一際つよくオーエンに抱きついた。
     抱擁を交わした二人はやがて名残惜しそうに離れる。
    「あまりバカやらないようにね」
     揶揄うようにオーエンが言うとカインは頬を膨らませてそっぽをむいた。
    「俺は大人だからそんなことしない!」
    「お前はまだまだ赤ちゃんだよ」
     微笑むオーエンがカインに背を向けて手を振る。
     
     一通りの儀式が終わり、カインがフィガロに尋ねた。
    「オーエンはそんなに悪いことをしたのか?」
     その質問にどう答えるべきか、フィガロは考えを巡らせる。
     オーエンは別に天災のように人の世界を荒らしたわけでもなんでもない。ただ、自分の庇護下にあるものを害されそうになったことに激昂した。その結果、小さな里が消し飛んだだけ。広い世界から見ればそれはほんのちっぽけな出来事。そこがなくなっても世界は変わらず回り続ける。その程度。
     理由が理由だけにフィガロたち他の妖もオーエンを責めることはしたくなかった。罰する予定もなかった。
     どちらかといえば悪いのは人間なのだから。
     しかし、それでも誰かが責任を負わなければならなくなり、オーエンが自ら罰を受けると申し出たのだ。
    「うーん。そうだね。ちょっと人間に意地悪をしてしまったから、きっとそれが原因だよ」
     的を射ないあやふやでまるで他人事のような答えを返すフィガロを見て、カインが呟く。
    「そっか……たしかに意地悪だもんな……」
     それで納得するのかとフィガロは瞬いたが、この小さい狐は聡い子だから隠された事情を感じ取っているのかもしれない。
     フィガロはカインの肩をゆるく叩いた。
    「俺は帰るよ。カインはどうする?」
    「俺はもう少しここにいるよ」
     気をつけてねと言葉を掛けてフィガロの姿が消える。
    「オーエン。オーエンのこと見失わないから」
     冷たい石に頬を寄せてカインは瞳を閉じた。
     
     
    「わぷっ! わっ、なに」
     カインが目を覚ましてあたりを見回す。ベッドの上にいるのは自分一人。この部屋の持ち主はすでに出掛けているようだ。
    「なんだぁ昔の夢か……懐かしい」
     起き上がった体をまた布団へと倒す。
     昔々の出来事。カインが居座っているこの部屋の主であるオーエンにかつてあったこと。
     今さらそんなことを夢に見るなんてとカインは枕に頭を押し付けた。
    「むー……」
     あのときからもう幾年が経っただろうか。カインが人間のオーエンの元に来るのも片手を越えた。
     カインは起き上がってのろのろと洗面所へと向かう。
     鏡の前に立ち、前髪を上げれば紅玉がこちらを見ていた。
    「オーエン。あと、どれくらいであんたに会える?」
     人間のオーエンもオーエンではあるが、本来のオーエンではない。
     交換した瞳の色は引き継がれている。今のオーエンとカインを繋ぐものはそれしかなかった。それでもカインはそれが嬉しくて、鏡の上からオーエンの瞳である左目を撫ぜる。
    「オーエンの目、きれい……」
     うっとりと眺めているカインの耳がオーエンがカインとの連絡用にと置いていってくれたタブレット端末からの音を拾った。
     慌ててリビングへ戻り確認すると、短いメッセージがひとつ。
    『冷蔵庫にサンドイッチ』
     要するに冷蔵庫にサンドイッチがあるから起きたらそれを食べろということだ。
     了解を示すスタンプを送ればすぐに既読マークがついた。
     冷蔵庫の中からレタス、ハム、チーズが挟まったシンプルなサンドイッチを取り出す。
     お茶も用意してダイニングのカウンターで食べ始める。
     カインは居候の身なので、転がり込んだときに自分ができることはやりたいとオーエンに伝えた。
     オーエンは一通りの家事や家電についておしえてくれたので、簡単な掃除などは出来る。
     サンドイッチを頬張りながら、少し掃除機をかけて散らばっている本を整理しようとカインは今日の予定を決めた。
     
    「終わった~。前のオーエンのときはこんな便利な道具はなかったからな。今回は楽でいいや」
     ようやく掃除機をかけ終わり、伸びをしてからそこかしこに置かれている本を見やる。
     拾い上げて本棚へと戻せば、本日のノルマは終了だ。
     ソファに座り、クッションに倒れ込む。気を抜いたせいか尻尾と耳が出ているが、誰も見ていないからと気にせずに目を閉じた。
    「ちょっとだけ……」
     カインはあっという間に夢の中へ旅立つ。
     微睡みから覚めれば、カインは自身の尻尾を抱えていた。先っぽがわずかに濡れていたので、尻尾を吸いながら寝ていたらしい。
    「……うわ。オーエンに見られたら赤ちゃんって言われるとこだった」
     寂しくなると出てくるカインの昔からの癖だ。狐のときのオーエンには見つかるとさんざん赤ちゃん赤ちゃんと揶揄われたことを思い出す。
     カーテンの外から茜色の光が差し込む。あっという間に夕方になっていた。
     喉が乾いたと冷蔵庫の中を見渡すと牛乳が目に入る。暖かい飲み物の気分だったので、それをオーエンがカイン用にと用意してくれたタヌキが描かれたマグカップへ注いだ。
    「えーと。レンジ、レンジ」
     カイン一人のときはガスコンロの使用は禁止されている。そのため、温めるときは電子レンジを使うように言われていた。
     そのため、電子レンジの使い方もオーエンから簡単にではあるが習っている。
     銀色の紙や金属が使われている食器を温めてはいけないなどという注意を思い出しながら牛乳を入れたカップをレンジにセットした。
    「牛乳にマグカップ! 問題ないよな」
     蓋をしめて、ボタンを見てはたとカインの動きが止まる。
     どれを押せばいいのだったろうか。カインは記憶を手繰ってボタンをじっと見つめる。
     レンジ強……500w……
    「これだ。時間……?」
     どれほど温めるかという時間の表示に首を傾げた。カインが一人でいるときにレンジを使うことがあっても、オーエンからのメモにきっちり全て書かれていたため迷うことはなかった。
     しかし、今はメモもオーエンもいない。
     そこでカインの脳内にある日に食べたカップ麺が浮かんできた。たしかあれはお湯を入れて三分だったか。
    「うーん。じゃあ、三分でいっか!」 
     にこにこと尻尾を揺らしてスタートボタンを押した。
     これで温かい牛乳が飲めるとカインは上機嫌で電子レンジの窓を眺める。
     しばらくすると鍵が開く音がした。オーエンが帰って来たようだ。
     もちろん牛乳よりもオーエンが好きなのでカインは急いで玄関へと走る。
    「オーエン! おかえり!」
    「あぶなっ……!」
     オーエンの鳩尾あたりにカインが勢いよく抱きついた。オーエンはバランスを崩しかけたが、どうにか耐える。
    「おかえり!」
    「はぁ……ただいま」
     文句のひとつでも言ってやろうかと思ったが、カインの笑顔を見ていたらそれもどこかへ飛んでいってしまった。自然と頬が緩む。
    「今日は掃除し」
     ボンッ
     カインの言葉を遮って爆発音が奥の方から聞こえてきた。
     二人とも驚いてそちらの方向へ視線を向ける。爆発音の後にチーンという音が響き、爆発音の発生源が判明した。電子レンジだ。
    「……カイン? お前、なにしたの」
     部屋に上がったオーエンがカインの首根っこを掴む。
    「えっ? 俺? なにもしてない。何もしてないって」
     何かをしたやつに限って何もしていないと言う。オーエンはカインが逃げないよう、横に抱えてキッチンへ足を踏み入れた。
     電子レンジを開けると、そこには沸騰して爆発したらしい温められた牛乳がいた。
     レンジの中は見事に牛乳まみれ。
     その惨状を見たカインが小さく声を上げた。
    「カイン」
     カインは両手で口を塞いで黙っている。耳も尻尾もしょげて、申し訳なさそうにオーエンを見上げていた。
    「カイン?」
     オーエンは笑顔だが、額にはうっすらと青筋が浮かんでいる。やばい。危険を察知したカインが視線を逸らした。
    「ぶぇっ」
     頬を捕まれて強制的にオーエンの方を向かせられる。
    「ぎゅぶにゅうぼぁたためただけだってぇ」
     カインが必死に言い訳をする。牛乳を温めただけだってと言いたいようだ。
    「きっちり教えていなかった僕の落ち度でもあるから、お前だけを責めたりはしないよ」
     オーエンがにこりと笑うが、その笑顔が怖い。ぶにぶにと頬を押されているカインは顔を青ざめさせる。
     カインはオーエンとレンジ内を綺麗にした後、オーエンによる電子レンジ講座でみっちりと使い方を叩き込まれた。
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