Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ロバ耳

    @yfyy3744

    ジャンル雑多にする予定 何も信用しないでほしい

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 48

    ロバ耳

    ☆quiet follow

    死んだ譲介があの世でKAZUYAに会う話

    !譲介がTETSUより先に死んでます。
    !KAZUYAさんがめちゃくちゃ出てきますが喋りません。
    この2点を筆頭に全体的に注意です。何でも許せる人向け。
    こんなん書いちゃっていいのか……?と何度も迷ったのですが、マァ私が読みたいんだからしょうがねーなと思い書くことにしました。

    さよなら大怪獣 やってしまった!

     譲介は頭を抱えていた。やってしまった、とんだ大失敗だ。もっと慎重であるべきだったのに。
     アメリカは銃社会だということは言われるまでもなく知っていた。格差があり治安の悪い地域もあり、アジア人への差別も決して少なくないと覚悟していた。財団の方からも度々注意するよういい含められていたのだ。学校や病院にほど近い住居を与えられ、どのエリアに立ち入らない方がいいかもしっかり説明を受けていた。譲介はKから託された大切な客人として、そして一人の学生として、たくさんの人から守られていた。だから自分でも、己の身をもっとしっかり守らなければならなかった。
     けれど。
     我慢できなかったのだ。いつものスーパーマーケットから帰る途中、真昼の往来で突如鳴り響いた発砲音。比較的治安のいい地域のはずだった。数年暮らして来て今までこんなこと一度もなかった。一瞬で頭が真っ白になって、それでもなんとか姿勢を低くして身を守ろうとした時、崩れるように倒れた女性の側で呆然と立ち尽くす少女の姿が目に入ったのだ。それでもうダメだった。助けることしか考えられなくなってしまった。無我夢中で飛び出して、被さるようにして少女を床に屈ませ、倒れている女性の脈を測ろうとした。

     直後に、ズドン。

     一発の銃声。頭部への衝撃。回転する視界。子供の悲鳴と鮮血の匂い。譲介の記憶はそこで途絶えている。





     目が覚めた譲介は病院のベッド。ではなく、何もない空間にいた。
     本当に何もない。天も地も壁もなく、明るいのか暗いのかもよくわからない場所に、譲介はポツンと座り込んでいた。見渡す限り人の姿もなく、声を出しても返事はない。空調もなさそうだが暑さ寒さもない。時間の感覚さえもわからない。
     試しに歩き始めてみたが、どんなに進んでもどこへも辿り着かず。景色は変わらず、かといって疲れることもなく、譲介は諦めて歩みを止めた。そもそも最後に記憶している状況的に、自分が普通に歩き回れること自体が異常なはずだった。そして譲介はついに理解したのだ。ここがどんな場所で、自分がどうなってしまったのか。
     ここは死後の世界だ。
     僕は死んでしまった。
     あんなに面倒を見てもらったのに。手をかけ目をかけ金をかけ、時間を割いて心を割いて大切に大切にここまで育ててもらったのに、何も返せないまま死んでしまった。譲介は座り込んだまま呆然と顔を覆った。あまりにも申し訳がない。恥ずかしい、悔しい、ああ、とんでもない失敗だった!
     なにより急に飛び出すなど愚の骨頂だったのだ。もう少しだけ時間をおいて、安全を確認してから救命活動をすべきだった。パニックだった、動揺していた、冷静な判断力を失っていた。後悔してもしかたないとわかっていたがそれでも考えずにいられない。どうして僕はこうなんだ。肝心な時に正しい判断ができないんだ。あまりの情けなさに涙が滲む。
     せめてあの少女だけは助かっただろうか。あの母親も、なんとか助かってくれていないだろうか。見渡せどあたりには誰もいない。死んだのは自分だけなのか? 死んだ人は皆違う場所に連れて行かれるのか? 考えても答えは出なかった。何しろここには何もないのだ。色も匂いも音も温度もない。未来も希望も夢もその先の世界も何もない!
     譲介は蹲ったまま、言葉にもならない感情を大声で喚き続けた。ごめんなさいK先生。ごめんなさい朝倉先生。ごめんなさい、ごめんなさい……。最後に目に浮かんだのは「あの人」の姿だった。
     ドクターTETSU。こんなことになっても尚、彼になんと呼びかければいいかさえわからない。一方的に約束を押し付けて、一方的に反故にしてしまった。死んでからどれだけ時間が経った? 彼に連絡は届いているのだろうか? 疑問に対する回答が得られる日は永遠にないのだろう。譲介は死んで、時間は止まってしまった。もうどこにも辿り着けない。
     項垂れた譲介は、不意に聞こえた何者かの足音に顔を上げた。
     幻聴かとも思ったが念のため辺りを見渡す。相変わらず何もない空間。──否。遠くから何かがこちらに向かってきている。
     目を凝らすとそれは一人の人間の形をしていた。近付くごとに少しずつ輪郭が顕になっていく。背が高く、ガタイの良い、黒髪の日系人。その顔を譲介はよく知っている。
    「……一也?」
     なんでお前がここに。
     叫びかけた声が喉の奥で詰まった。違う。一也じゃない。けれど譲介は彼のことを知っていた。会ったことはないけれど、何度も何度も話を聞かされた。不世出の天才外科医。薄命の伝説。一也のオリジナル。『彼』にとっての、たった一人の『K』。
    「か、……KAZUYA、さん?」
     譲介の目の前で立ち止まったその男は、少し困ったような顔をして肩を竦めた。





     死後の世界でKAZUYAに出迎えられてしまった。
     譲介は当惑していた。確かに、確かに譲介は彼のことをよく知っていたが、それは完全に育ての親からの受動喫煙の結果であって、譲介とKAZUYAには全く接点がないのである。なぜ出迎えに来られたのか、そもそも彼がなぜ譲介を知っているのか、全く何一つわからない。
     もしやまだ生き返る術があるのかと思い色々と問いかけてみたけれど、KAZUYAは痛ましげな顔で目を伏せて首を振るばかりだった。無情な現実である。彼が無理と言うなら無理なのだろうという謎の説得力があり、一周回って心穏やかになりつつあった。
     だって死んでしまったものはもう仕方がない。突然の邂逅によりすっかり涙も乾いてしまって、譲介は少しだけ自暴自棄になっていた。

    「まぁ僕が言うことじゃないとは思うんですけどね、葬式くらいは呼んであげても良かったんじゃないですか?」

     自暴自棄になっているので、KAZUYAに対してこんな話も衒いなくぶつけてしまえるようになる。
     譲介はKAZUYAと地面(であると思しき場所)に並んで胡座をかき、取り留めもなくドクターTETSUの話をしていた。なぜかと言うと共通の話題がそれしかなかったためだ。この世界は本当に何もなく、特にイベントが起こるわけでも無く、気が狂いそうなくらい暇だった。物怖じなどしている場合ではない。人がいるなら雑談くらいしなければ心まで死んでしまう。
     KAZUYAは困ったように笑うばかりだった。どうやら譲介の声は届いているようだが、なぜか返事が聞こえない。相槌は打ってくれるので無視されているわけではなく、どうやら向こうの音がこちらに届いていないらしい。居る世界が微妙に『ズレている』のかもな、と譲介は少しSFなことを考える。
    「めちゃくちゃ寂しがってましたよあの人。まぁ本人は絶対認めないでしょうけど」
    「ていうか、ホントになんで呼ばなかったんです? 確かにかなり面倒な人ではありますけど、その…… そこまで毛嫌いするほど、悪い人では……あ、違う? そういうのではない?」
    「うーーん、流石にジェスチャーじゃよくわからないな……とりあえずなんか理由があったんですね。ちょっと安心しました。あの人にも教えてあげたかったな」
     言ってから乾いた笑いが漏れた。それがもう叶わないとわかっていたからだ。こうして「叶わなくなってしまったこと」を見つけるたびに、譲介の胃の底はズンと重しを入れられたように冷たくなった。
     俯いた譲介の視界の端で、KAZUYAがまたすこし眉を下げたのが見てとれる。胸を痛めてくれているのだろう。伝説のKとか一也のオリジナルとか、飛び抜けた事前情報からイメージしていた人物像からすると、かなり人間味を感じる姿だった。
     享年は確か36歳。一也と譲介が3歳の時だ。それから30年近く、彼はずっと一人でここにいたのだろうか。
    「……誰か、待ってるんですか?」
     問いかけは自然と口からこぼれ出た。踏み込みすぎたか、とも思ったけれど、彼は嫌な顔ひとつせず頷いてみせた。
     やはりそうなのだ。相手が誰なのか、一人なのか、複数なのか、詳しいことはわからないが、彼はこの何もない場所で『誰か』もしくは『何か』を待ち続けていたのだろう。そこになんの因果か譲介がやってきた。この出会いはそうして果たされた。
     いや、因果がどこにあったかなんて考えるまでもない。譲介とKAZUYAを繋ぐ接点はたった一人の存在だけなのだから。譲介は少し考えて口を開く。「その『誰か』の中には……」あの人も入っているんですか。言い切る前に口が閉じる。

     KAZUYAが全力の張り手で譲介を真横へと突き飛ばしたためだ。

     丸太のような太い腕から繰り出されたフルパワーの張り手により、譲介の体は1.5メートルほど吹き飛んだ。助走などの予備動作なしでこの威力である。熊の腕の一振りと大差ないのではなかろうか。
     不思議と痛みはなく、しかし、吹き飛びながら譲介は目を見開いた。彼が吹き飛んだ後の空間を一条の黒い影が切り裂いていく様が目に映ったためだ。黒いブーツに包まれた長い足。見覚えのある白いパンツ。ロングコートに黒のタンクトップ。
     そして『ふざけた前髪』。
    「ど、ドクターTETSU……!」
     尻もちをつきながらの叫びに対し、その人は射殺さんばかりの目つきで譲介を睨みつけた。初めて見る顔だった。銃撃事件に巻き込まれた時にも感じなかった、一般的な社会生活を送る上では一生経験するはずもない本気の殺気が臓腑を貫く。長い歩幅で一気に距離を詰め、竦んで動けない譲介の顔を狙って容赦のない拳が繰り出される。
     それを、横からKAZUYAの逞しい手が掴んで押し留めた。その一手でTETSUの殺気が譲介からKAZUYAに移ったのがわかった。体を捻りながら振り返りざまにアッパー。KAZUYAはバックステップでそれを回避、掴んだままの腕を捻るように引いて巴投げ。TETSUの体が空中で回転し、猫のように足から着地する。

     筋骨隆々とした190センチ越えの大男が二人、重い打撃音を響かせながらのステゴロガチマッチ。

     突如始まってしまった大怪獣戦争を前に、譲介のようなフィジカル一般人は体を小さくしながら震えることしかできなかった。流れ弾(拳か足だが)に当たらないよう震えながらもしっかりと目を見開いて戦闘の流れを観察する。
     TETSUが若い。記憶にある彼の動きと比較して圧倒的に身が軽い。信じられないくらい早い。しかし、KAZUYAも同じくらい早い。なにより一撃が重い。防御が硬い。次第にTETSUが押されていくのが素人目にもわかる。
     二度目の投げ技をいなす体力は残っていなかったようだ。地面に叩きつけられたTETSUは低くうめき、往生際悪く立ちあがろうとしたが、KAZUYAが背後から取り押さえたためそれは叶わなかった。
     勝負あり。思わず拍手してしまった譲介の前でTETSUが吠えた。

    「ざけンじゃねェぞ、クソったれどもが!!」

     腹に響くような怒鳴り声。一瞬で萎縮してしまった譲介だったが、同時に「この人の声は聞こえるのか」とすこしだけホッとした。
    「畜生ッ! 触んな、放しやがれッ……譲介ェ!テメェも何遠巻きにしてやがる! こっちきて4〜5回殴らせろォ!!」
     まるで罠にかかった猛獣のような暴れよう。あまりの迫力に近寄ろうにも近寄れず、譲介は暫く半径2メートル先で右往左往した。なにしろ殴るとか言っているのだ。先ほどの様子を見るに、一発でも受けたら外科治療が必要になりそうな攻撃である。近くに寄りたいわけがない。
     しかし、いつまでもそうしているわけにはいかない。困り果てた譲介がKAZUYAの顔を見ると、大丈夫、とでも言うように瞬きが返ってきた。それを信じて恐る恐る距離を縮める。突然解放されて襲い掛かられたらどうしよう、と思いつつ。あと1メートルほどの距離まで間を詰めたところで、ようやくTETSUの表情がはっきりと見えてくる。
     TETSUは泣いていた。
    「畜生……畜生ッ! 何なんだテメェらッ、揃いも揃って……!」
     譲介は呆然とその泣き顔を見つめるしかなかった。彼が泣くところなど初めて見た、いや、泣くような人だと思ってもみかったのだ。憤怒に染まった表情の、眼光だけで人を殺せそうな双眸から、透明な水が場違いなほど静かに2本の筋を描いている。
    「勝手に人生に入り込んで……散々期待だけ持たせて……梯子外すような真似しやがって……アアッ畜生! 見てんじゃねぇ! 死ねッこのクソ野郎共が!」
     もう死んでます……などと茶化しを入れられる空気では無い。
     と思ったらKAZUYAが何か口を動かし、顔色を変えたTETSUが一瞬の隙をついて彼の顳顬に裏拳を叩き込んだ。素晴らしい角度、速度、精度の一撃。流石に効いたのか拘束が緩み、ついに抜け出した怒れる獣が譲介の前に仁王立ちする。
     それを見上げながら、「KAZUYAさん『言った』な……」と譲介は思った。そして二度目の死を覚悟した。
     しかし、衝撃はいつまでもやってこなかった。
    「……痛みは、ないか」
     代わりに降ってきたのはそんな言葉で、譲介はグッと胸から込み上げてくるものを感じた。「はい」かろうじてそう答える。「あの……連絡は、どこから?」
    「奴の……お前の『先生』からだ。すぐに行けば埋葬には間に合う、ってよ」
    「……あの親子は……」
    「子供は軽傷。母親は重症だが回復傾向にある。事件で死んだのはお前だけだ」
    「そう、ですか」
    「顳顬から入った弾丸が頭蓋の中で2回跳ねた。即死だ即死。痛みを感じる間もなかっただろうよ。頭じゃわかってる、だが……」節くれ立った指先が譲介の顳顬を撫でる。「……理屈じゃ、ねぇんだ」
     途端、どっと涙が溢れた。「ごめんなさい」言っても仕方がないのに謝罪が口をつく。
    「ごめんなさい……ごめんなさい」
    「謝んじゃねぇ。胸糞悪ぃ」
    「手紙、読んでてくれたんですね」
    「……ンなもんは知らねぇ」
    「嘘だ、さっき期待したって言ってた。……騙すつもりはなかったんです」
     触られた温度がない。感触も鈍い。ここはどうしようもなく死後の世界でしかなく、そして譲介もTETSUもここにいた。こんなところへ来てしまった。手が届かなかった未来と、守れなかった約束をあの世界に置き去りにしたまま。
    「貴方の最後の居場所になりたかった。貴方が旅立つ時に、一人になってほしくなかった。本当なんです。……ごめんなさい。約束、守れなくて、ごめんなさい……」
     ボロボロと感情が溢れて落ちていく。貴方はいつどうやってここに来たんですか。気になって、けれど怖くて、どうしても口に出せなかった。縋るように彼の手を握ると、意外にも振り払わずそのまま握らせてもらえる。
     冷たさも温かさも感じない掌。記憶を辿ってもその感触に覚えなどなく、比較することすらできなかった。譲介の知る彼の温度は点滴の針を指す瞬間、その腕に触れた時に感じたそれが唯一だったのだ。だから今見ているこの世界が現実なのか、銃弾により破壊された脳が見せる刹那の妄想なのか、判断する術を譲介は持たない。
    「……はぁ〜〜……ったく、ガキみたいに泣きやがって。殴る気が失せちまったじゃねぇか」
    「殴ってもいいです、僕は……ぼくは、ほんとうに、どうやって詫びたらいいか……」
    「もういいっつってんだろ。次謝ったら首の骨へし折るからな」
     すみません、と言いかけて「はい」と言い直す。TETSUはフンと鼻を鳴らして背後を振り返った。
     そこにKAZUYAが立っている。譲介は急に気恥ずかしくなり、服の袖で急いで涙を拭う。
    「おいKェ! テメェいまだに成仏してねぇのか。未練タラタラでなっさけねぇな!」
     TETSUは威丈高にそう言い放った。先ほどまで自身もベソをかいていたくせに。あまりにも溌剌とした態度に譲介は呆れ、KAZUYAは苦笑していた。そして譲介には聞こえない声で何事か口を動かした。
    「あぁ? ……ああ、あのメスか。はーー、なるほどな」
    「ククッ、律儀なことで。いけすかねぇな。テメェらしいや」
     会話している。
     TETSUには彼の声が聞こえるのだとわかって、譲介の胸にじわじわと不安が込み上げた。同じ死者同時でもそれぞれ世界が少し違うのだと思っていた。けれど、もしかして、違うのは僕だけなのか? そわつく譲介をよそに、因縁のライバル達は旧交を深めるように話し合い、軽く小突きあって、やがて吹っ切れたように手を握り合う。
    「だが、俺はもう行くぜ」
     譲介は弾かれたように顔を上げた。TETSUはKAZUYAの手を振り払うように離して、それから譲介を振り返った。
    「あばよ、譲──「僕も連れて行っててください!」……ァア?」
     言えた、と思った。自分でも驚くほど咄嗟の判断だった。
    「連れて行ってください、貴方が行くところに」
    「お前……あのなぁ」
    「だってわからないんです、どこへ行ったらいいか」
     TETSUが眉間に皺を寄せる。譲介は必死に言い募った。
     自分が今天も地も何もない世界にいること。道もなければ壁もなく、KAZUYAの声も聞こえていないこと。少し二人とは違う場所にいるのかもしれないこと。けれど、帰る道があるわけでもないと言うこと。
    「ンだそりゃ。なんでそんなことに」
    「わかりません、何でだろ。あはは。親より先に死んだからかな」
     パコンッと頭を叩かれた。やはり痛みはない。痛みがないのも自分だけなのかもしれないなと思いながら、祈るような思いで目の前の人の手を握る。
    「だから、ね。貴方がどこへ行くとしても、ここにいるよりずっといいと思うんです」
     TETSUはKAZUYAの方を振り返った。何とかならねぇのか、と目が訴えていた。KAZUYAは静かに首を振り、何も答えない。どうにもならないと言うことだろう。
     そんな彼もいずれはここを去っていくのだ。待ち望んだ誰かと共に。その後誰が来るかはわからない。もしかしたら誰も来ないかもしれない。そうなると、自分はそれ以降永遠にこの空間に一人でい続ける羽目になるのだ。それは間違いなく一つの地獄だった。それならこの人と一緒に、賑やかに地獄行脚と洒落込んだほうがよっぽど愉快なことだろう。
     話を聴いたTETSUは苦虫を五十匹は噛み潰したような顔で黙り、唸り、暫く考えて、深く深くため息をついた。
    「もういい。勝手にしやがれ」
     踵を返して歩き出す。譲介は慌ててその背中に続いた。少し迷って、彼の服の裾をそっと摘む。怒られない。勇気を出して手を握る。怒られない。しっかりと握り直す。
     そうして二人は連れ立って歩き出した。まっすぐ進むTETSUに半歩遅れるように譲介がついていく。手をしっかりと握り合ったまま。その影が揺らぎ、背丈が変わり、譲介は高校生の姿になり、TETSUの片手には杖が握られる。彼らは共に暮らしていた頃の姿で、ゆっくりとした歩調で前に進んでいく。
     ふと譲介が背後を振り返ると、そこには変わらぬ姿でKAZUYAが立っていた。二人に向かって大きく手を振っている。引き止めることもなく、道を示すわけでもなく、ただ別れを惜しむように。彼らの行く末を寿ぐように。
     譲介は胸いっぱいの感謝を込めて手を振り返し。再びTETSUの背中を見て、その後は一度も振り向くことはなかった。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏😭😭💖💖💖😭😭😭😭🙏😭😭😭👏😭😭😭😭😭😭😭🙏😭🙏💖💖💖🙏👏👏👏👏👏👏👏👏👏😭👏😭👏😭💖💖💖😭😭😭😭😭😭😭🙏😭😭😭😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works