未定(プロローグ)この世に存在する万物には等しく物語が存在している。生き物であればこれまでの生涯、物であればここに辿り着くまでの道のり。それらはただ見ているだけでは知ることが出来ない。何度もその者と会話をして共に沢山の時間を過ごし、荒いものから細かい鑢になるまで磨いた後に初めて眼下に現れるのだ。骨董屋とはただ集めた骨董を売るだけではなく、そのものの価値を自分の手によって最大限引き出していくことも大切な仕事の一つである。
「いけない、ついゆっくりしちゃった。もうすぐお店を開けないと。」
開店前にクロスとブラシを持って店中の商品を磨いていた巳波だったが、壁掛け時計のからくり人形達が踊り出したことに気が付くと急いで店の倉庫へ向かった。
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