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    まめた

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    まめた

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    体調不良みは鉛の様に重い身体と熱に浮かされた意識では、大人しく布団に沈むことしか出来なくなる。『これをして。』『やっぱりいい。』と沢山我儘を言って、それなのに大したお礼もせずにそのまま眠ってしまっても、巳波は普段と変わらない優しさで、全てを包み込んでくれた。
    「みなみ…」
    「あら、起きられました?よかった。解熱剤が効いてきたのかも。」
     確かに眠る前よりも意識がはっきりしている。何の薬かもよく考えずに、与えられるまま薬を飲んでいたが、巳波が解熱剤を飲ませてくれていたらしい。
     目を開けていることは出来るが動く気力はまだ起きず、ふかふかの布団を鼻まで被ると、抱きしめてもらう時にいつも感じる巳波の香りで胸がいっぱいになった。
    「明日の朝、すぐに病院に行きましょうね。早く行って、早く治しちゃいましょう。」
    「うん…」
    「少しは食べた方が良いと思ってスープ作ってありますけど、まだ眠りますか?」
    「…スープにする。」
    「わかりました。」
     ベッドの淵に座っていた巳波が立ち上がると、触れているところから染みるように感じていた温もりが消えて、ついその背中を追いかけたくなってしまった。とは言え、多忙を極める巳波に風邪を移すわけにはいかない為、ここは大人しく寝室で眠っているべきなのだろう。
    「亥清さん、動けそうですか?」
    「え…?ちょっとなら…」
    「もしよかったら、はい。一緒に行きたいんでしょう?」
     巳波は少し困ったようにしつつも、両手を悠の前に差し出して、綻ぶように微笑んだ。そんなに自分は寂し気にしていただろうか。本当は断るべき申し出も、こうして図星を突かれてしまえば、手を取らないわけにはいかなかった。
    「…行く。」
    「ふふ。私、貴方の事なら何でもわかるんですから。」
     差し出された手のひらに自分の手を乗せてそっと握ると、巳波は悠の力よりも少し強く握り返した。そのままキッチンへ続く廊下をゆっくり歩いて、リビングに辿り着くとソファーに座らせられる。巳波は寝着用のカーディガンを悠の肩にかけると、額に小さく唇を落とした。
    「こら。移っちゃうよ。」
    「額ならセーフでしょう?スープを温めてきますから、いい子に待っててくださいね。」
     そう言ってキッチンに入っていった巳波の背中を悠はぼんやりと眺めた。巳波はスープ皿を用意して、悠のスプーンを並べ、いつもより大きめのコップにたっぷりの水と数粒の薬をお盆に乗せていく。
    同棲するようになってつくづく思うことだが、自分が19歳になった時、あそこまで自立してしっかりと生きていけるのだろうか。二年後、あの落ち着きと大人びた言動を身に付けている自分はあまり想像できない。
    (俺もしっかりしないと。)
     巳波に甘やかされることに悪い気はしないが、今の自分の様に巳波が弱っている時に、真っ先に頼ってもらえるような存在になる必要はあるだろう。
    (だって、巳波の恋人は俺だし。)
     何だか照れ臭くて、巳波の前で『恋人』という言葉はあまり使わないが、これは一生揺るがない大切な関係だ。自分が好きで、相手も好き。こんな事、奇跡以外はありえない。
    「出来ましたよ。あんまりじっと見つめるから、穴が開いてしまいそうでした。」
    「あっ、ごめん…」
    「何を考えていたんです?」
    「え、っと…」
     まさかここまで掘り下げられるとは思わず、言葉に詰まってしまった。『巳波が恋人であることを実感していた。』なんてすぐに伝えられるほど、悠は素直になり切れない。視線が下に集まって必死に言葉を探したが、それを見つけるよりも先に巳波が口を開いた。
    「いいですよ。亥清さん。」
    「なにが?」
    「貴方が可愛らしいことを考えていたことは、もう十分わかりましたから。」
     巳波は悠の頬に手を這わせて一撫でした。照れているのか、熱のせいなのかはわからないが、少し熱を持った頬はほんのり赤く染まっている。置かれたままの手にそっと顔を寄せた悠は、うっすらと目を閉じると、控えめに唇を触れ合わせた。
    「もう、可愛いんだから。」
     本当ならこのまま抱き締めてやりたいが、それは悠が移るからやめろと言うので、頭を撫でるだけに留めておく。こんなに近くにいるのに、思う存分触れ合うことが出来ないのは、どうにももどかしい。弱っている悠はなんだが幼げで愛らしいとも思うが、もうその姿にも退屈してしまった。早く生き生きとした悠を自分の腕で捕まえたい。
    「熱いですから少し冷ましますね。」
    「うん。…ん?巳波がやるの?」
    「もちろん。」
    「じ、自分で食べれるよ!」
    「嫌です。亥清さん、眠ってばかりで私も退屈なんですよ。このぐらいは構わせてくれてもいいでしょう?」
    「えぇ…」
     巳波はスープを掬うと小さく息を吹きかけて、下唇に軽く当てながら温度を確認すると、ゆっくり悠の口元に寄せた。
    「はい、あーん。」
    「…むぐっ…」
    悠はどことなく機嫌が良さそうにスープを渡してくる巳波に応えて口を開けた。小さく切られた野菜とふわふわの卵が入ったスープは、久方ぶりの食事であったからかいつもよりも美味しく感じる。一度食べたら何だか食欲も湧いて来て、小さく口を開けながら巳波のスプーンを待った。
    「美味しい?」
    「うん。もっと食べる。」
    「それはよかったです。」
     もう声をかけられずとも口を開けるようになった悠は、まるで母鳥に餌をねだる雛の様だ。食べさせている最中に時折お互いに目が合って、強請るような瞳に思わず目尻を下げてしまう。それを無垢な笑顔で返してくれるものだから、庇護欲が膨らんで、段々と減っていくスープが惜しいとまで思った。
    「ごちそうさま。」
    「よく食べましたね。食欲はあるようで安心しました。」
     水と薬を机に残して、空になった食器をシンクに運ぶと、粉タイプを選ばなかったからか悠は薬もすんなりと服用して、ブランケットに包まっていた。
    「もう少しここにいますか?」
    「うん。」
    「わかりました。それなら、ちゃんと暖かくしないと。」
     巳波は毛布持ってきて大きく広げると、悠の身体を覆って、首の辺りから足先までを包み込んだ。白いもこもこに包まれた悠は、巳波にされるがままじっとして、埋もれるように身体を沈めている。
    「ふふ。はるちゃん、おくるみしましょうね。」
    「…馬鹿にしてる?」
    「あら。この上なく可愛がっているつもりなんですが。」
    「……」
     実際、悠に触れる巳波の手はさらさらと羽のように優しくて、寝ぐせも付いているであろう髪を撫でる仕草も愛でるような穏やかさで、つい、『早く抱き締めて。』と腕を伸ばしたくなる。前までは、こうして撫でてもらえるだけでも限りなく満たされていたのに、今はもうそれだけでは足りなくて、もっと近くで存在を確かめたい。
     これなら許されるだろうかと巳波の手を握りしめて顔を擦り付ければ、巳波は嬉しそうに笑って、悠の薬指に小さく口づけを落とした。
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