Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    あかぎ

    三田.EXEのファン

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉
    POIPOI 16

    あかぎ

    ☆quiet follow

    EXEから50年以上経過した世界のモブ視点。
    いつか良い文章にしたい。

    やはり忘却…!忘却はすべてを解決する…!某介護施設

    彼が入居したのは2年前。残暑が過ぎ秋に向けて室内の模様替えの準備をしている頃だった。

    面会に来る人たちの話を聞き彼がかつて
    このアメロッパでオフィシャルネットバトラーとして活躍していた人だと知った。
    しかし高齢に伴って重度の認知症を患い、当時の事を全く覚えていない。
    それでも彼を訪ねに様々な人が来るのは彼の人望の厚さなのだろう。


    今日は昨日までとうってかわって大雨だ。雨音が施設の中まで響く。
    ほとんどの入居者は窓から離れ各々の場所でくつろぐ中、一人だけ…
    彼だけは今日も窓の外を見上げていた。

    今日は雨で残念ですね。
    そう声をかけようとした時

    強い閃光が走った。そして光を追いかけるかのように空から轟音が鳴り響く。
    「落雷じゃ…何年ぶりかのぅ。わしらの若い頃はよく鳴っておったが…」
    入居者の一人がそう呟くと周りも同意するかのように頷いた。
    室内のテレビには今の落雷の件が速報のテロップで数秒表示された。

    雷。最後に見たのはいつだったか、もはや覚えていない。

    物心ついた時から環境維持システムのおかげで自然災害はほとんど起こらなくなった。
    稀に台風や落雷などが起きるのだが、昔と比べて数年に一度あるかないかのレベルだ。

    急な落雷に彼が驚いたかもしれないと思い声をかける。
    だが彼は私の言葉など上の空で呟いた。

    「かつて、私は…」

    後に続く言葉の意味をこの時は理解できなかった。
    思わず聞き返すが、もう彼はその言葉を忘れていた。


    翌朝。彼は老衰で亡くなった。
    入居者の死を経験したのは今回が初めてではない。
    高齢である以上、こういう事はどうしても起こる。
    分かっていてもやりきれないものだ。
    先輩から聞いた話だと認知症の入居者の中には死の恐怖を忘れてしまう人もいるらしい。
    せめて最期くらい恐怖と苦痛を感じずに安らかに眠った事を願う。

    ふと、あの時理解できなかった言葉を思い出す。

    もしかすると彼はのんびり窓の景色を眺めていたのではなく
    ずっとあの落雷を待っていたのか?

    それではまるであの雷が彼を迎えに来たみたいだ。
    そんな考えを頭から消すように首を横に振り、いつもの業務に取りかかった。















    急な落雷に彼が驚いたかもしれないと思い声をかける。
    だが彼は私の言葉など上の空で呟いた。

    「かつて、私は…あの雷に救われたのだ…」

    その言葉の意味をこの時は理解できなかった。
    思わず聞き返すが、もう彼はその言葉を忘れていた。



    おわり
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works