好きになった時『大変だったな』
――大変……?だった…?
『お前だってまだガキなのによぉ』
――でも…、俺は……。
『日向も兄貴頑張ってんだな』
――…そうだ……俺、ずっと頑張ってるんだ…。
闇に迷い込んだあの日以来、日向は初めて自分を認めてもらえた気がした。出会って間もない、まだ名前しか知らないこの男に。
オレンジ頭の柄の悪い男が放つ言葉は、不思議と瞳の奥を熱くし、日向の内側にあったボロボロの堤防は決壊する。
こんなにも脆く、危ういところにどれだけの物を詰め込んでいたのか。幼い頃から溜め込んでいたものが一気に外へと噴き出し、キツく蓋を閉めていたはずの寂しいという感情も、気づいた頃には吐き出されていた。
一度爆発したそれは日向自身にも止め方がわからず、まだあどけない少年の顔を盛大に涙と鼻水で汚していく。
それでも向日葵は何の躊躇もなく日向を胸に抱きしめ、ゆったりと幼子をあやす手つきで頭を撫で始めていた。
自分を認めてくれたこの人の存在が嬉しくて。
日向は泣いて、泣いて、子供の様に泣き叫んでいた。
しかし、幼い頃からの洗脳めいた考えの頭は、この心の解放を許そうとはせず、頭と心のバランスが崩れた日向は無意識に均衡を保とうと、あらゆる雑用を一度に引き受けていた。
もっと頑張れ、認めてもらった気になるな、まだ足りない、立ち止まるな、走り続けろ、全力で取り組め、もっと、もっともっともっと――!!
――目が覚めると日向は保健室のベッドの上にいた。
何故こんなところで寝ているんだろう、頭の中を探ってもここにいきつくまでの記憶がない。
困惑している日向に声をかけたのはベッドの傍らにいた桜(サク)だった。
「日向…!よかった…。気分はどう?」
桜の声に反応し、日向が目覚めたのだと気づいた保健師も小走りで駆け寄ってくる。
「…ん…少し、……頭が痛い…」
「あ…!ごめん!うまく支えきんなかったから…」
え?と聞き返す日向に、体育の合同授業後、授業で使用した備品を日向が1人で2クラス分片付けていたこと、それを手伝おうと桜がかけよった瞬間、日向は膝から崩れるように倒れ、咄嗟に手を伸ばして支えようとしたものの一緒になって倒れてしまったのだと申し訳なさそうに説明した。
桜には幸い怪我はなかったようで、日向は安堵する。
一通り状況が理解できたと判断した保健師は、見たところ外傷はないが、痛みがひどいようなら念のため病院へ行く事を勧め、今日は大事をとって早退するように伝える。
日向は素直に「わかりました」と頷くも、どこかまだぼんやりとしていた。
しかし、迎えに来てもらおうと日向の親に連絡をとっている事を伝えた瞬間、ぼんやりとしていた顔つきが一転し、険しいものとなる。
「空澄くんの親御さんってお二人共学校の先生だったよね?授業中なのかな、実はまだ繋がらなくて…。ちょっとお母さんの学校に直接電話してみるね」
保健師がそう言って離れようとした瞬間、
「――っやめてください!!!!!」
顔を歪ませ、悲鳴とも怒声ともとれる日向の叫びに保健師は目を見開く。
「俺一人で帰れます」
込み上げてくる何かを必死に堪えながら、逃げるようにベッドから降りた日向だったが、立ち眩みが酷く壁にもたれるようにしてその場に座り込んでしまう。
「日向!!」
慌てて駆け寄った桜が日向の顔を覗き込むと、何かに怯えるかのように今にもこぼれ落ちそうな涙が日向の瞳に溜まっていた。
見たことのない友達の姿に、尚も日向の親を呼ぼうとする保健師を止め、桜が呼び出したのは、兄である向日葵だった。
連絡をして20分後、乱暴に保健室のドアを開け放って入ってきたオレンジ頭の不良は、走ってやって来たのか少し息があがっていた。
「え…なんで…ヒマさん…?」
「サク、日向乗せろ」
向日葵は、壁にもたれて座り込んでいる日向の目の前に背を向けてしゃがみ込む。
兄の言う通りに桜は日向の腕を向日葵の肩にまわし、上体を持ち上げ背中に乗せはじめる。
「ま…待ってください…待って、サク…」
「おら、ちゃんと捕まってろ」
テキパキと呼吸のあった2人によって、日向は抵抗する間も無く向日葵の背に担がれた。日向の脚をがっしりと掴み、軽々と立ち上がった向日葵は、桜に自分の荷物を託し、代わりに日向の学生鞄を片手に持つ。
「俺の荷物は頼んだ」
「わかった」
淡々とした兄弟の会話に入る余地はなく、拉致される形で向日葵に背負われ保健室を出た日向は、見慣れない制服の黒髪の男と目が合った。
向日葵に背負われた状態で目線が合うということは、この黒髪の男もかなりの長身であることがわかる。
「サクに俺の鞄託してる」
「了解。あ、君が日向君…」
「え…?」
「うん、確かにヒマ君好みの顔だね」
「おま…っ!!言わんでいい!!」
笑顔を向けて来た黒髪の男はどうやら向日葵の知り合いらしい。よく見ると同じ制服を着ている。
「俺はサク君と一緒に弟くんのお迎えに行けばいいんだよね?」
「ん、よろしく」
「えっ…!まさか、陽の迎えのこと言ってるんですか…?!」
「そうだが」
日向の顔が一気に青ざめる。
「いっ、いや、申し訳ないです!!本当に!!本当に待ってください!俺が!俺が行きます…っ!」
「暴れんなって」
「俺が行かなきゃ………っ、俺が……っ」
「おい、コラ!!あぶねーって!!!」
向日葵の背中からなんとかして降りようともがく日向を、保健室から出てきた桜が手を添え静止させる。
「――日向」
「サク……」
「陽くんとは俺こないだ仲良くなれたし、大丈夫だって」
「……でも…っ!俺…迎えに行けるから…!」
「そんな弱っててフラフラなお兄ちゃんの姿見たら陽くん絶対心配するぞ?いーのか?弟に心配かけて」
「…………そ、れはっ…」
ジッと目を見つめて問いかけてくる桜に、日向はなんとか理由を探そうとするが、そうはさせまいと桜が畳み掛ける。
「俺だったら、兄ちゃんに迷惑かけたって落ち込むし、ショックでご飯も食べられないな。大丈夫かなって心配で眠れなくなるし、あ、保育園行くのもやめるかも。こんなリスク負ってまで日向が行くのは危険じゃね?」
「……っ!!」
若干オーバーだったか?と思いつつも日向が何も言えなくなったのを見て、
「大丈夫だって。陽くんには日向が体調悪いの秘密で、ちゃんと家まで送り届けるからさ!」
桜の頼もしい笑顔に、何故かその後ろで拍手している黒髪の男の感情が日向にはよくわからなかったが、確かに自分が行く事でかえって迷惑になるのかもしれないと考え、「…わかった」と俯き、事の成り行きを静かに背中で聞いていた向日葵に体勢を戻した。
ようやく背に身体が預けられたとわかった向日葵が振り向くと、日向を説得していた桜と目が合う。
「お前も可愛い奴だな」
向日葵が目を細めてニヤリと笑うと、「俺が陽くんだったらの例えだから」と、早口で桜は返す。わざとらしく首を傾げた向日葵は、
「例え〜?でもお前、昔俺が熱出した時、兄ちゃん死んじゃうかもしれない〜って泣い…」
「早く日向連れてけっての!!!!!」
桜の拳は見事に向日葵の腹に直撃。
こうして、向日葵と背中に乗った日向は、勢いよく追い出される形で学校を後にしたのだった。
*****
「あの…、大丈夫ですか…?」
「別に?重くねーよ」
「……あっ、いえ、そうではなくて…、いや!それもなんですけど……」
桜に腹パンされたお腹が痛そうだったから、と気になっていた日向だったが、あれはこの兄弟の戯れの一部なのかもしれないし、何より自分が向日葵のお腹を心配したところで今背中に乗ってる人間が言うことではないだろうと口を閉ざす。
「………はぁ」
「大丈夫か?気持ち悪い?」
耳元で聞こえた日向のため息に、向日葵は少し顔を寄せて問いかける。日向は顔を伏せたまま、
「………俺、また迷惑かけてしまって…本当にすみません…」
「また?………あー、俺とお前、会うの今日で3回目ってことくらいで俺にはお前に迷惑かけられた想い出は今のところないんだが」
「…こ、この間、ヒマさんの制服汚しましたもん」
「ははっ、涙でぐしょぐしょだったなそういや。あれはいいもん見れた」
「…っ?!」
日向は勢いよく伏せていた顔をあげる。
「…い、今このおぶって頂いてる状況だって…!とても迷惑かけてます!」
「うはは、なんだそりゃ。迷惑だと思ってたらそもそも迎えに行ってねーつの。つーかお前多分過労かなんかだからあんま大声だすな?」
こんな状況で楽しそうなこの男が、日向は不思議でたまらなかった。
ただ、彼の言う通り、少し声を張っただけで頭蓋に響き、目が回る。陽を迎えにいくんだと暴れた際に力を使い果たしたのか、手足も既に使い物にならない。
「…っと、ここで曲がっとくか…」
――学校からの帰り道、通学路を通りながら日向の家に向かっていた向日葵は、川沿いの散歩道へと進路を変える。
このまま真っ直ぐ進めば商店街へと続く道であったが、人目の多い商店街を避けたのは、背負われてる日向に対する彼なりの気遣いなのだろう。
この町の商店街は、地域の子どもたちを大人たちの目で守ることを目的としている。その為、幼い頃から商店街を登下校で通っていた日向は顔見知りが多い。商店街を通るとなればきっとおじさんやおばさんは心配するだろうし、どういうルートで親に連絡が行くかもわからなかった。
だが、何も聞かずともその不安要素を回避してくれた向日葵に、
「……ヒマさんって…、本当に優しい方なんですね…」
「っは、今度はなんだ」
「商店街、敢えて避けてくれましたよね…?」
日向がそう問うと、少しの間の後、
「別に…?こっちの方が人少なくて歩きやすいだけだ」
と、ぶっきらぼうに答える向日葵だったが、彼の耳が少し赤いことに気付いて、この態度は彼なりの照れ隠しなんだと日向は悟る。
向日葵の思いがけない一面を見た日向は、ぽつぽつと胸中の想いをこぼすように続ける。
「ヒマさんはあの日、陽のことを救ってくれただけじゃなくて、俺のことまで救ってくれました…」
「んー?そうだったか?」
「…俺のこと…、頑張ってるって言ってくれましたよね。…あの夜…本当に、救われたんです…。誰かが見てくれることで、こんなにも満たされた気になるなんて…俺は知らなかったから…」
言葉とは裏腹に日向の声は暗く、消えてしまいそうだった。
「けど俺は…みんなより劣ってるので…頑張らないとダメなんです。…俺が頑張らないと…全部がダメになるんです…っ。母さんや父さんにも、迷惑がかかります」
向日葵の背中に顔を埋め、絞り出すように吐く日向の声は震え、
「今日だって…、俺が頑張れていたら、皆さんに迷惑をかけずにすみました…。陽のことだってお迎えにちゃんといけました。……あの時だって…!俺が手を離さなければ…陽が迷子になることはなかった…!怖い思いをさせることなんてなかった…!!」
瞳にはただただ空虚で、諦観に満ちた絶望が映っていた。
「陽はっ…、俺がお兄ちゃんである意味なんです…」
――ふいにうっすらと瞳に滴が浮かぶ。
「それを放棄してしまったら俺は…、一体何なんですか…」
自分の存在理由を求めるように、日向は唇を震わせる。瞳に溜まる滴が頬を伝い、向日葵の肩口に落ちていく。
黙って聞いていた向日葵は足を止め、川沿いの土手へと腰を下ろし日向を座らせた。
困惑する日向を他所に、向日葵は日向の少し後ろに片膝を立てて座り、そのまま寝かせた片方の膝へ彼の頭を促す。
「…え?え、っと…?」
「いいから寝ろ。そんで目ぇ瞑れ」
突然の向日葵の膝枕に困惑しつつも、言う通りに目を瞑る日向の頬には先程零れた涙の跡がまだ残っている。
向日葵は、不安そうに目を瞑っている彼の目元にそっと左手を被せた。
向日葵の手の温度がじんわりと広がってきて、不思議とそれだけでまた涙が溢れる。
「…なぁ、お前さ。今日体調悪いの気づいてたのに無理したんだろ」
「…………っ!」
「サクはそれに気づいてたからお前を手伝おうとしたらしいが」
「……できると…思ったんです」
「そうか。じゃあ学んだな」
日向はキュッと口を結ぶ。
「……難しい…ですね」
「楽に考えろ。このままだといつか本当に大事なもんも見落とすぞ」
「……?」
「自分を大事にできねぇとさ、気づかねぇうちに余裕がなくなるんだよ。余裕がなくなると目の前のことだけになって本当に大事にしたかったもんもわからなくなる」
「………」
「日向の大事なもんはなんだ?人でも、物でも、気持ちでもいい」
「…………俺の………」
何も思い浮かばないほど頭が働いていないらしい。本当に大事なものすら忘れてしまっているのだと日向は痛感する。
「すぐでてこねぇのは悪いことじゃねぇよ。お前がちゃんと考えようとしてる証拠だ。今は頭が動いてねぇだけ」
「……そう、なんですかね…」
「ん、だからまずは今日ゆっくり休め。そんで自分のこと大事にしてやれ。その後にお前の大事なもんもう一度見つめ直してみろ」
「……でも…俺が休む時間なんて……」
これだけ満身創痍になっておきながらも尚も動こうとする日向に、向日葵は日向の目を覆っていた左手を外すと、ゆっくりと今度は彼の頭を撫でる。
眠りから醒めたようにぼんやりと開かれた瞳はまっすぐに向日葵を見つめていた。
まだ少し腫れた目で大人しく膝で寝ている少年に、向日葵は声を落として問いかける。
「…お前、自分のことを常に1番下に考えてねぇか?」
「…へ?」
日向にとってはそれが当たり前で、自分が他より劣っているから頑張らなければならないのであって、頑張ることで周りが幸せになると信じている。
それなのに、何故向日葵はそんな苦しそうな顔で自分の事を見つめてくるのか。
訳がわからないと言った様子で日向が返答に困っていると、
「日向。お前さ、弟が転んで怪我したらどうする?」
突然の質問に更に混乱しつつも日向は勢いよく、
「すぐに怪我の手当てをしますっ!!!」
「はは、そうだよな?」
「………はい…?」
例え話とはいえ本当のことのように焦り始める日向が可愛らしく、思わず向日葵の顔に笑みが漏れる。
そんな向日葵を不思議そうに見つめる日向に、改めて質問する。
「じゃあお前は?転んだらどうする?」
「……え、俺が…ですか?……俺…は…、特に、気にしないと…」
「だよな。アホ」
「アッッ?!」
思いがけない罵倒に口をはくはくさせる日向に、
「今の日向の状況はな、何かにつまづいて転んで怪我しても、何につまづいたのか、どんだけ怪我したのか知ろうとしねぇまま、また走ってるんだよ」
「…………!」
「でもよく見りゃ足がもげてる。だから倒れちまう」
「もげ……」
「そんな大怪我したままじゃ弟のことだって守れねぇだろ?」
「…た、しかに…そう、ですね……」
腑に落ちたのか、視線を落とし黙り込む日向を見て向日葵は続ける。
「自分のこと大事にできねぇ奴は他人も大事にできねぇってのはそういうことだぜ。他人と同じようにちゃんと自分のこと見てやれ。そんで辛い時は休め。な?」
頭を撫でられる指の感触が、自然と自身に重くのしかかっていた何かを軽くしていく。
「…………嬉しかったんです…」
「ん?」
「ずっと陽が俺のことを求めてくれてたからわからなかったんですけど…。あの日陽がいなくなって、本当にパニックになってしまって。俺は陽がいなくなると存在理由がなくなってしまうってどこかで思っていて…」
「……」
「だけどヒマさんが俺のこと認めてくれて、俺を存在させてくれたんです。…それが、嬉しくて…浮かれてしまいそうで…。このままじゃダメだって思って動いてたらこうなっちゃいました…」
力なく笑う日向に釣られて、「お前は自分に厳しいな」と向日葵も笑う。
「よし、これから毎日一緒に帰るか」
「え…、ええ?!!!」
突拍子もない提案に思わず大声が出てしまう。
何をどう捉えたら今の流れでそうなるのかと回らない頭でぐるぐると考える日向に、
「2人でじゃねぇけどな…。サクとも一緒に。…あーあとさっきいた奴」
「あ!あの黒髪の男性…ですか?」
「あぁ。俺の幼馴染。名前は別に覚えんでいい」
「そうだ、お迎え…。もう家についてるかな…。お2人にもお礼言わなきゃ」
起きあがろうとする日向を向日葵は制し、「もう少し横になってろ」と寝かせる。
随分と回復したと思ったのだが、もげた足はまだ元に戻ってないらしい。
「…あの、それで毎日一緒に帰るというのは…」
「あ?そのまんまの意味だが」
「えっ…、いや、なんで…急に…?」
「どうせまた無理するだろ。つうか、休めっつっても休み方知らなさそうだからな…。周りに誰かいた方がお前も頼りやすいだろ?」
自分のせいで人の時間を奪ってしまっている。そういうことかと日向は声のトーンを落とし、
「あ……ごめんなさい、俺、本当に迷惑かけちゃってて…」
「は?迷惑とかじゃなくて……」
申し訳なさそうにしゅんとする日向に、向日葵はかける言葉を間違えたと頭を抱える。眉間に皺を寄せ何とも言い難い感情のまま唸り声をあげた後に、
「…お前といる時間が欲しいんだよ」
睨むように、厳つい顔を向ける向日葵の耳がわずかに赤く染まっていた。
初めて見る彼の表情に日向は目が離せず、途端に訳もわからず恥ずかしくなり顔が熱くなる。
「えっ…、わ、すいませ…」
紅潮する顔をわたわたと両手で隠す日向に、
「何隠してんだ」
「変っ!変なんで!!俺…っ」
「変?…何言ってんだお前はまた」
「かっ、顔、すぐに真っ赤になるんです…。変なんで…!あんまり見ないでください……」
がっしりと両手で顔面を隠す日向だったが、力の差は歴然で容易くシールドは解かれてしまう。
「ちょっ、ヒマさ…っ」
「はっ、可愛いじゃねぇか」
「………ふぇっ!!!?」
「俺の前では隠すな。あと、変とかも言うな」
「……、…っ?!」
「つうかな、緊張したり恥ずかしい時は誰だって顔は赤くなんだよ」
ずっと変だと、おかしいと、みんなと違うから気持ちが悪いと思っていたことを、そんなの誰だって当たり前のことだと簡単に言う彼の頬もよく見ると染まっていた。
何故向日葵の頬まで赤くなってるのか日向にはわからなかったが、なんだか幼い子のようで可愛いと思えてしまい、確かに赤らむ顔は"変"ではないと素直に思えた。
「…凄い…、またヒマさんに救われました…」
「あ?」
「ありがとうございます。…、あの!俺も一緒に帰りたいです」
ふにゃ、と笑う日向に気づかれぬよう小さくガッツポーズをした向日葵は、
「そんじゃ、明日桜と校門で待ってろ。キタミネと迎えに行く」
「キタミネさんって言うんですね」
「忘れろ」
膝の上でくすくすと笑う少年は年相応の可愛らしい顔をしていた。
「…日向」
「はい?」
「大事なもんのために頑張るのは良いことだからな。頑張ってきたお前自身を否定はすんなよ?」
「……、はい…っ!」
空を見上げる日向の目にうつるのは、太陽に照らされて、オレンジ色の頭が一層煌びやかに光る優しい顔をした男。
この胸の高鳴りはなんなのだろうか。
大事なものを見つめ直したらわかるといいなと、日向は頭を撫でてくれる心地よい指の感覚に誘われ目を閉じた。