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    kurokawappp

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    kurokawappp

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    弊P道が付き合うまでの過程のお話です

    勝負にもならない「……結婚、ッスか?」
    「うん、したい?」
     唐突に飛び出た言葉に、道流は目を丸くして聞き返した。事務所での待機時間に雑談をしていたはずが、どうしてそんな、人生の分岐点について問われているのだろう。彼が師匠と呼び慕っているプロデューサーは頷いて返したが、それからようやく道流が意図をはかりかねていることに気が付いたらしい。慌てて補足の言葉を続けた。
    「一応、一応ね。これからアイドルをやっていくにあたって恋人がいるかとか、交際や結婚に積極的かを確認しておこうって、成人済みのアイドルみんなに聞いてて」
    「……あ、あー! なるほど、そういうことッスか!」
     それでようやく合点がいって、道流は肩の力を抜いた。自分の秘めた想いが見透かされてはいないと思っていても、絶賛片想い中の身としては、ギクリと緊張する部分は否めない。誤魔化すように頭を掻いて、努めて平静を装った。
    「自分は今のところ、恋人とかそういうのは考えられないッスね。まずはアイドルとして頑張って、ビルの取り壊しの話もなんとかして……考えるならそれからって感じッス」
     言葉にしてみると、全部を叶える頃には適齢期を過ぎているかもしれないなと胸中で苦笑する。そして同時に、はた、と思い当たってしまった。自分より少し年上のプロデューサーが、自分が夢を叶える前に誰かと結ばれることだって、あり得るのではないかと。
    「……師匠は」
    「うん?」
     考えるより先に口が開いた。
    「師匠は、考えてるんスか? その、結婚とか……」
     業務上の質問に踏み込んだ質問を返すべきではない、そう分かっているのに、言葉は口からぽろぽろと溢れていく。道流の不安を知ってか知らずか、プロデューサーはうぅんと唸って苦笑してみせた。
    「俺も、道流さんと同じかなぁ。THE虎牙道がトップアイドルになって、三人が目標を達成するまでは、そういうのは考えられないよ」
     その言葉に、どこかほっとしている自分がいた。まだ師匠には特定の相手がいないらしい喜びを、どうにか押し隠す。
    「師匠の人生までかかってるなら、なおさら頑張ってトップアイドルにならないとッスね」
     己の声は、まるで自分に言い含めるように響いた。こんなに前向きな言葉を放っておきながら、後ろ暗い思考が止められない。ならトップアイドルになるまでは師匠は誰とも結ばれないのだと、そんな醜い喜びが。罪悪感か何かで、胸がツキンと痛む。
     「頼むぞ」などと笑う師匠も同じ胸の痛みを抱えていることなど、この頃はまだ、まるで思い至らないまま。

     数年が経った。あの頃の予想に反して、THE虎牙道はトントン拍子にトップアイドルの道を駆け上がっていた。各メンバーの抱えていた目標も満足のいく形で一区切りつき、道流もビルを買い取るという目標を予想より早く達成。ビルのみんなも喜ぶッスと笑う道流につい、冗談半分本気半分で「そろそろ、もっと道流さんの好き放題にしてもいいんじゃない? 豪遊してみたいとか、綺麗な女優さんと付き合ってみたいとか」などと声をかけた、その矢先だった。
    「ええと、道流さん?」
     どうして自分は一瞬のうちに、壁際に追い詰められているのだろうか。戸惑いを隠せないまま、道流の顔を見上げる。口は横一文字に引き結ばれているが、真剣な面持ちをしているだけで、怒っているわけではないようだ。顔の両脇のたくましい腕が、頬にじんわりと熱を伝えた。
    「師匠が言ったんスよ、自分の好きにしていいって」
     その声はどこかじっとりとした体温を帯びて、夜の、二人きりの事務所に響く。まずい、と思った頃にはもう遅く、道流は決意に満ちた表情で、しっかりと踏みしめるように言葉を紡いでいた。
    「豪遊でも綺麗な女優さんでもなくて、師匠がいい。好き放題していいなら、自分は師匠の恋人になりたいッス」
     きっとあの頃からずっと、蓋をしていた思いなのだろう。長年隣にいた身だ、彼が自分にどんな感情を抱いているのかは、自惚ではなく自覚できてしまっていた。
    「それに師匠だって、自分のこと好きッスよね」
     図星を指されて、ギクリと背筋を伸ばす。伊達にずっと隣にいないッスよと少し唇を尖らせた彼もまた、自分のこじらせた想いなどお見通しのようだった。いよいよ逃げ場のなくなった己に、道流はますますズイと顔を寄せる。真剣な瞳に映る自分の表情は、滑稽なほど哀れっぽい戸惑いを浮かべていた。
    「自分は覚悟キメました。師匠も、そろそろ覚悟キメてください」
     背中に一筋、汗が伝う。一生隠しておくべきだと自制していた感情を、こうもあっさりこじ開けられてしまうとは。道流が時々見せる我の強さが彼の魅力であることは、痛いほど知っている。そして、こんなふうに宣言した道流は絶対に自分を曲げないこともまた、誰よりも知っていると自負している。とうとう黙っていられない雰囲気になって、けれどそう簡単に覚悟を決めることもできず。ようやく絞り出した言葉は、なんとも情けないものだった。
    「お、お手柔らかにお願いします……」
     蚊の鳴くような声に、道流はニカッと笑って返す。
    「全力でいくッスよ!」
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