勝負にもならない「……結婚、ッスか?」
「うん、したい?」
唐突に飛び出た言葉に、道流は目を丸くして聞き返した。事務所での待機時間に雑談をしていたはずが、どうしてそんな、人生の分岐点について問われているのだろう。彼が師匠と呼び慕っているプロデューサーは頷いて返したが、それからようやく道流が意図をはかりかねていることに気が付いたらしい。慌てて補足の言葉を続けた。
「一応、一応ね。これからアイドルをやっていくにあたって恋人がいるかとか、交際や結婚に積極的かを確認しておこうって、成人済みのアイドルみんなに聞いてて」
「……あ、あー! なるほど、そういうことッスか!」
それでようやく合点がいって、道流は肩の力を抜いた。自分の秘めた想いが見透かされてはいないと思っていても、絶賛片想い中の身としては、ギクリと緊張する部分は否めない。誤魔化すように頭を掻いて、努めて平静を装った。
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