秘境から持ち帰られた怪しい箱の効果で🌱が🏛♀の記憶を失う話『どうしてこんなことに…』
カーヴェはこめかみに指先を添え、よろりと上体を傾けながら呟く。寝台としても使える大きなカウチソファーの隅に、彼女は浅く腰掛けていた。その傍らには、小ぶりな旅行鞄が置かれている。
今や住処を持たぬ身であるにも関わらず、カーヴェの持ち物はそれほど多くなかった。仕事道具や貴重品など、どこかに預けている分もあるのだろうが、生活必需品と衣類だけだとしても手荷物の量は随分と心許ない。
『肩肘張らずくつろぐといい。君は今日からここで生活するのだから』
『くつろぐと言ったって……』
アルハイゼンが無愛想に勧めるも、カーヴェは華奢な身体を縮こませるばかりだった。
眉間に皺を寄せる彼女の耳元で、大振りな耳飾りが揺れる。酒場からずっと胸に抱えるように持っていた鞄は床に下ろしたものの、未だ身に纏った装飾の一つさえ外そうとしない。アーカーシャ端末も着けたままだ。
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