今際の際自分に残された時間があとどのくらいかはわからないが、いっそ僅かであって欲しい。
喘鳴を伴う呼吸は煩わしく、微熱が続いていた。
人は死が近くなると昔の事をよく思い出すと聞いたことはあったが、成程、こうも日がな天井か窓の外を眺めるしかやることがなければ必然的に昔の事を思い出しもする。教皇の三分の一程も生きてはいないが、自分にも蘇る記憶はある。
私は苦痛を伴う暇を持て余していた。
*
あの日の事はよく覚えている。
新しい仕事として遠目に示された双子座の候補生。
外界と隔てられたこの小さな集落では、知らない顔の方が珍しくはある。だが、それを差し引いてもその少年の存在は誰もが知っていた。
同年代と比較して小柄な事もあってか膂力は多少劣ってはいたが、それを補って余りある技術と運動センス、何より聡明さが彼には有った。座学の成績も良く、頭の回転も早い。通常、人間は極度の身体的・精神的負荷がかかっている状態では思考力も判断力も低下する。たとえ聖闘士といえど例外ではない。しかし、直情的な振る舞いをする者が多い聖域において、年齢にそぐわない彼の理知的な行動は目を見張るものがあった。
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