キスカムの沢深 今年の休暇をアメリカで過ごしたいと言ったのは深津の方で、沢北はそれを快諾した。そのときは今年も二人のんびりと束の間の休息を過ごせるものと信じて疑わなかったのだ。
どうやら今年は何かが違う、ということに沢北が気付き始めたのは、深津の滞在が一週間を超えたあたりからだった。
沢北が念願のNBA入りを果たしてからすでに四年の月日が経っている。実力も実績も十分に認められた選手であることは事実だが、オフの日の過ごし方は気楽なものだった。少なくとも自分が何者であるかを悟られないよう変装をしたり、顔を隠して出掛けたりするような気の使い方はしない。深津がオフシーズンに合わせて滞在する間も、沢北はレストランでたまに居合わせたファンにサインを求められることがあるくらいで、ごく普通に日常生活を送っていた。
4042