助けて、マイヒーロー「そろそろここでお別れだな、高峯」
「なんで……こんなところで死のうとするなよ守沢先輩……!」
思わず声を荒げてしまった。いつもあんな明るくて笑顔の先輩が急に死にたいなどと言いだして止めないわけがない。
「高峯……落ち着いて聞いて欲しい」
「は……何を言って……」
先輩はそんな俺の言葉を聞く耳など持たずにESビルの屋上のフェンスに手を掛けながら話を続けた。
「俺はずっと人助けしていれば誰かのためになっていればいつか報われると思ってた」
「だが、現実は何も報われなかった、ずっと俺のことを蔑んだ目で見てくる俺がいる」
淡々と語り掛ける先輩の目は冷え切っていて、何も感じない。けど、俺だっていつも鬱だ死にたいなんて言ってたから今の守沢先輩にはそんないつもの俺に似た何かが見えた。
もしかすると、俺の想像より遥かに苦しんで生きていたのかもしれない。
「……」
「そんな俺を俺はもう見たくないんだ……ならば俺にとって一番の報いは死ぬことだと思ったんだ」
「あんた……自分の言ってることがわかってんの……?」
あの人勢いだけで物事を言うこともあるから案外何も考えずに言ってるだけであってほしい、そんな微かな希望だけを抱いて聞いた。でも返ってきた答えはある意味予想通りだったかもしれない。
「これはヒーローの俺ではなく、一人の人間である俺として言っている」
「高峯もいつも死にたいと言っていたのだから、俺の気持ちも分かってほしい、理解して欲しい」
「……っ」
核心を突かれてしまった。“自分で言っておいて相手の同じ言葉がわからないわけ無い”という圧をかけられた気がする。本気なんだ、ヒーローの守沢千秋は皆を助け笑顔にしたい反面、人間の守沢千秋はきっと、苦しくて死にたくて報われなくて変身を解くたび生きる理由を必死に探してたんだ……誰かのためじゃないと生きる意味を見出だせない、だから死なないと救いにならないんだ。
「ごめんな」
優しく笑い掛けてくれる先輩に俺は言い返す権利なんてなかった、先輩はそれを分かって話したんだと思うと憎くて仕方がなかった。そんなこと思ったって、言い返したところであの人は納得してくれない。一度決めたらてこでも動かないような人だから。
嗚呼、俺って先輩のために何もできないまま終わって生きるんだ。
虚しいまま一生を過ごすんだ。
守沢千秋という人間は自分の空っぽなところをヒーローという仮面を被ることによって自分を保ってた、好きだからヒーローになってたはずのあの人は、周りから求められすぎたから人間に戻れなくなった。戻ったときには限界を迎えていた。
なんで気付いてあげられなかったんだろう、同じユニットに居るのに……身内ですら気付けないほどに先輩はヒーローを完璧に演っていたのか、あの人がハリボテなことはずっと分かっていたのに。
何も聞かないのもらしくないだろうからって何かしら問うことにした。
「聞いてもいいですか1つだけ、あんたの人生楽しかったですか」
「どうだろうな……?だが、お前たちと居るときは楽しかったぞ、ずっと生きていたいなんて思えてしまうほどだ」
「じゃあ、ヒーローなんて辞めて普通の人間として俺達といてよ、俺達はあんたに望んでいることはヒーローで在ることじゃない」
「あんたが俺達に心を開いて、あんたにとって居場所だと思ってもらうことなんだよ!」
生きていたいと思ってくれるんだったら生きてよ、そんな願いしかない、それ以上は望まないから人間のあんたでも叶えてくれるでしょ、それくらい……
「その言葉だけでも生きてて良かったな、と思った」
「だが、世間は俺にヒーローを続けさせることを望んでいるんだ、責任が俺にとって苦しいんだ、手放したいんだ」
「とても幸せだったぞ、今まで。」
幸せと呟く先輩の顔は見えなかったけど、飛び降りるあの人の姿はまるで本当に空を飛んでるかと錯覚するほどヒーローそのものだった。
……死ぬときまでヒーローの檻から出られないなんて幸せなわけ無いのに。