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    KaimenSponge

    @KaimenSponge
    落書きまとめ用 イマジナリー強火の落書きしかないです

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    KaimenSponge

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    現パロさんむそ庶+岱の食べ歩きサークルシリーズ、今回はタイ料理編です

    埼玉のタイに行くとある土曜日、天気は晴れ。予報では一日快晴で、最高気温は35℃まで上がるって。うへえ、暑いのあんまり好きじゃないのよね。帽子を目深にかぶりなおす。陽射しが痛いくらい。早めに待ち合わせ場所のコンビニに来たんだけど、いつも先に来てる元直さんが来てない。珍しいな、どうしたんだろう。
    気になるお店があるけど駅から遠いってこぼしたら、元直さんが車を出してくれることになった。申し訳なくて最初は断ったけど、地図を見たら駅から二キロ近くあったからありがたく申し出を受けることにしたんだよね。こんな暑いんじゃ、大正解だったと思う。歩きだったらふたりとも干からびちゃうよ。
    あ、元直さんからメッセージきた。『すまない渋滞してる あと十分くらいかかると思うから店内にいてくれ』だって。土日の道って混むよね、しょうがない。了解気を付けてって返信したけど既読はつかなかった。多分、信号待ちとかにサッと連絡してくれたんだ。お言葉に甘えてコンビニに入る。あー涼しい、生き返るぅ! 元直さんが来たらアイスコーヒーかなんか差し入れようと思いながら、一旦店内をぐるっと回る。なんか新しいお菓子とか出てるかな。調べたら、今日の目的地はここから三十分くらいで行けちゃうらしいんだけど、やっぱりドライブのお供にちょっとしたものがあると嬉しいよね。チョコはとけちゃうな……手は汚れない方がいいだろうし。飴……? うーんどれがいいんだろう。ざっと見回して目星をつけて、駐車場がよく見えるように雑誌売り場に陣取った。元直さんが来たら買って出ればいいよね。とりあえず手近な雑誌をとってパラパラめくりつつ、時々窓の外を確認。陽射し本当に強いな。日傘さしてる人も多いね。
    連絡が来てから十分くらい、何台か車の出入りはあるけど元直さんは来ない。もしかして事故で混んでたりするのかなあとふと不安になる。大丈夫かな、でも連絡しても運転中じゃスマホ見られないだろうし……。あ、車入ってきた……ウワ黒塗りの高級外車ってやつじゃんコッワ。そっか、ああいう人たちもコンビニ使うよね、便利だもんね。きっと後部座席に乗ってる偉い人がオウ飲みモン買うて来いとか言って運転してる若い衆にお金渡すんだ。今日暑いからアイスかな、フフ、コワモテのおにいさん達がみんなでガリガリ君食べてたらちょっと面白いかも……。お、運転手さん降りてきた、背たっかいひとだな、スーツじゃないんだ意外。白っぽい半袖シャツにハーフパンツ……ってあれれ? おれの見間違い? ヒゲ生やしてて、筋肉質で、髪ぴんぴん跳ねてて、なんかすっごく、見たことあるひとのような気が、するんですけど……!
    「馬岱くんすまない、お待たせ」
    呑気な入店チャイムが流れる。入ってきたのは元直さんでした! はいヤクザ確定! 本当にありがとうございました! 解散!
    「こ、こんにちは……渋滞たいへんだったねえ」
    ……てワケにもいかないんだよお! 声が上擦ってしまった。ニコニコしてる元直さんの額に汗が浮いてる。アイスコーヒー買うけど君も何か飲むって訊かれて、咄嗟に頷いたら元直さんすぐ買いに行っちゃった。速! 差し入れようと思ってたけど仕方ない、ドライブのお供にクッキー買お。元直さんがコーヒーできるの待ってる間に会計を済ませて外に出た。うわあ……本当に黒塗りの高級外車だ。セダンっていうの? 前も後ろも長いやつ。後部座席は外から見づらくなってるみたい。丸に三本線のエンブレムのデッカいのが前についてる。既にこわい。おれ、あれに乗せてもらうの……。
    「お待たせ、行こうか」
    元直さんからコーヒーを受け取って車へ向かう。見間違いじゃないね、やっぱこれが元直さんの車だよね……ワア左ハンドルだよ高そう。ドア重い。シート革張りだ、コーヒーこぼしたら殺されそう。エアコンの効きすっご。現実逃避したくて脳直レビューしちゃう。慣れた動きで運転席に座った元直さんがエンジンを始動する。行くよ、と声をかけられたので、シートベルトを急いで締めて、お願いします! と元気に言っておいた。やけっぱちだよお!
    天国のお父さんお母さん、最近できた歳上の友達はやっぱりヤクザでした。今日はこれからヤクザの運転で埼玉まで行きます。タイ料理を食べに。

    「すまない、車検が延びて車が返ってこなくてね。これ同僚に借りたんだけど、途中渋滞に巻き込まれてしまって」
    「あ、この車元直さんのじゃないんだ?」
    「ああ。こんな高いの俺にはちょっと」
    それに黒いセダンなんていかにもって感じじゃないか? ってイタズラっぽく笑ってみせてるけど、これおれ同意して大丈夫かな。ヤクザジョーク? いかにもって感じ〜どころかそもそもホンモノじゃん。こわい!
    おれは車あんまり詳しくないからピンとこないけど、元直さんのはこんなにいかつくないとのこと。よかったあ、だよね。正直こういう高級な感じのはあんまり似合わないと思う。でも同僚さんの車がこれってことは、やっぱり元直さんヤクザなんだよな、きっと。ちなみに乗り心地はめっちゃいい。
    車は市街地を抜けて大きな国道に入った。うわ、陽射しまぶしい! 慌ててサンシェードをおろさせてもらう。元直さんも眩しいなって眉を顰めた。信号待ちの間にさっと眼鏡ケースを出して掛け替える。わ、サングラス似合う〜、というか、似合いすぎてこわい。完全にヤクザ。目元が全然見えないタイプの、レンズが大きくて四角くて真っ黒なサングラスだからすんげえこわい。めちゃくちゃこわい。これで黒スーツだったら終わりだったと思う。今日は開襟シャツみたいなラフな格好だからまだいいけど……。
    「馬岱くん、そのアロハ夏っぽくていいね」
    前を向いたまま急に言われてドキッとした。またじーっと見ちゃってたの気付かれたかな。
    「えっ、わ、あ、そ、そうかな」
    「はは、驚きすぎだよ。これ、そんなにガラ悪く見えるかい」
    サングラスを指差して、元直さんはカラカラ笑った。馬岱くん顔引き攣ってるよ、だって。引き攣るに決まってるじゃん! バカッ!


    「これは……」
    「思ったより、タイだね」
    スムーズにお店に到着した俺たちを出迎えたのは、ここってタイだったかな? て感じの立派な建物。テレビで見たことあるかんじの、とんがった屋根してる。立地的には普通のロードサイド店舗なんだけど。
    「ねえ! なんかあずまや的なのある! 池もあるよ!」
    一段高くなった入り口の横にあずまやがあって、いそいそ見に行ったら建物の周囲をぐるっと幅の狭い池が取り囲んでいた。あずまやはその上にあるみたい。足元、すのこみたいに隙間を開けた造りだから水面が見えてる。
    「本当だ、あ、ここ喫煙所か」
    一服していいかい、と断って元直さんは胸ポケットから煙草を出した。慣れた手つきで一本咥えて火をつける。サングラスはもう掛け替えてて、さっきの丸っこいのになってた。火をつける一瞬だけ眼を細めて、ひと息吸ってふうと煙を吐く。イケメンが煙草吸ってるところってほんと絵になるなあ。おれは吸わないし好きでも嫌いでもないけど、映画とかの喫煙シーンってやっぱり目を惹かれちゃうもんな。
    「ここ、どうやって知ったんだい?」
    「大学の友達から聞いたんだ。埼玉の子でさ、家族で時々来るんだって。おすすめメニューも伝授してもらったからまかせて!」
    「それは楽しみだな。俺、今日は絶対パッタイを食べたいんだ……」
    「定番だからあるんじゃない? 頼もうね」
    「うん。楽しみだな」
    お待たせ、と立ち上がった元直さん、ニコニコしてる。こういう顔してると全然ヤクザに見えないのにねえ。今日だってさ、生成色のキューバンシャツに黒い膝上丈のショートパンツを合わせて、足元は黒いスリッポン。ヤクザのスリッポン意外過ぎて二度見した。なんか今まで見た中でいちばんカジュアルかも。対するおれはからし色に白抜きパイナップル柄のアロハと、焦茶の麻パンツをロールアップして、足元はサンダル。あっついからバケットハットも装備してる。元直さん、どこで服買ってるんだろ。今度教えてもらおうかな。

    お店は結構混んでた。念の為予約しといてよかったあ。席に案内されていそいそメニューを開く。メニューは紙だけど注文はタッチパネル式らしい。元直さんはいちはやくパッタイの存在を確認して小さくガッツポーズしてた。どんだけ好きなんだろ。ちょっとかわいい。
    そうだ、友達から送られてきた食べるべきものリストを確認しよう。
    「えーっとね……トムヤムクンとパッタイはマストだって」
    「わかった。ええと……とりあえずひとつずつでいいね」
    「うん。あと、鶏チャーハンと、ひき肉入りの卵焼き」
    「なあ馬岱くん、このコースにするのはどうかな。ある程度、おすすめは網羅できそうだよ」
    メニューをめくってた元直さんが指したのは二名様からのコースだ。チャーハンとかデザート、スープは二種類から選べるから、別のを選んでシェアすればいいかも。おすすめされた鶏チャーハンもトムヤムクンも入ってるし、卵焼きもある。あれ、でもパッタイはコースに入ってないのかあ。
    「パッタイは譲れないな。単品で追加しちゃおうか。おなか余裕ありそうかい?」
    「賛成! 大丈夫よお朝ごはん抜いてきたから! 頼んじゃお」
    元直さんはドリンクメニューを見てちょっと恨めしそうな顔をした。あっ、そうか車出してもらったからビール飲めないもんね……悪いことしちゃったかなあと思っていたらちゃっかりノンアルビールを頼んでいた。気分だけでも味わいたいとのこと。おれはやっぱりちょっと申し訳なくて、烏龍茶にしといた。

    結構たくさん頼んだから時間かかるかなと思っていたら全然そんなことはなくて、どんどん運ばれてきて焦っちゃった。サラダ、スープ、炒め物、ご飯ものとデザートはおれと元直さんでそれぞれ違うものにしたから二種類ずつくる。取り皿をもらって準備万端だ。
    「それじゃあ、いただきます!」
    最初はサラダ。ソムタムとヤムウンセンだ。ソムタムって、青いパパイヤのサラダだよね。たまーに駅ビルの高いスーパーに青パパイヤ売ってるけど、買ったことないな。ひと口頬張ると、えびの風味と甘酸っぱからい味。これこれ、タイ料理ってこういう味のイメージ。元直さんは春雨をちゅるちゅる食べてる。えびときくらげがたっぷり入ってて、見た目からして豪華だ。こっちもおいしそう。
    「このヤムウンセンおいしいね、えびおっきい」
    「うん、すごいね。俺、ソムタムって初めて食べたな。食感が独特だね」
    「わかる。駅ビルにスーパー巴蜀の高いの入ってるでしょ、あそこたまーに青パパイヤあるよ」
    「ああ、見たことある。茨城とか、国内の産地もあるみたいだね」
    そうなんだ。宮崎産マンゴーみたいにあったかいところでしかできないと思ってた。今度探してみようかな。次のトムヤムクンはすっぱからくて、今日みたいな暑い日には本当ぴったりってかんじ。春雨スープもおいしい。友達おすすめの挽肉入り卵焼きは、二人で奪い合うように食べちゃった。これ、地味な見た目なのにおいしいの! 自分ちでも作れそうだな。後で調べてみよ。えびのすり身揚げはぷりぷりのあつあつ、空芯菜炒めはシャッキシャキ。ごはんにかかってないガパオ初めて食べたけど、おいしいな……鶏の挽肉がむちむちで、辛くて、ビール飲みたくなっちゃう。
    「馬岱くん、ビール飲まないの? きっとこれに合うよ」
    どき。顔に出てたのかな。元直さんがメニュー片手にこっちを見てた。
    「うーん、どうしようかな」
    「俺のことは気にしないで。今日暑いから、きっとおいしいよ」
    そう言いながらぱぱっと注文ボタン押しちゃった。アッ、元直さんて意外と押し強いんだよなあ。飲みたかったのは確かだけど、なんか悪いなあ。
    「俺に気を遣ってくれたんだろう? ありがとうね。今度にとっとくよ」
    ニコッて笑ってソフトシェルクラブのカレー炒めを頬張る。すぐにやってきたノンアルビールをゴクッといって、元直さんは幸せそうにひと息ついた。お言葉に甘えておれもビールを飲む。おいしい。優勝だよ。
    さて、ごはんものは鶏肉チャーハンとパイナップルチャーハン。鶏肉チャーハンはまあおいしいってわかるけど、パイナップルチャーハンは完全に未知だ。ごはんとパイナップルだよ……? コースメニューに入ってなかったら一生頼まない組み合わせな気がする。
    ほかほか湯気を立てるチャーハンから、甘酸っぱいパイナップルの匂いがする。大きなパイナップルをくり抜いた器に、えびとか卵の入ったふつうのチャーハンが盛り付けられてる。タイ米を使ったパラパラタイプだ。向かいを見ると、元直さんもちょっと躊躇うような顔してた。顔を見合わせて頷く。
    「……いただきます」
    おそるおそる口に運ぶ。あれっ、結構おいしいぞ? 思わず顔を上げたら、元直さんもびっくり顔でこっちを見ながらもぐもぐしてた。
    「これ、うまいね」
    「うん。予想外においしい」
    スプーンが止まらない。ぷりぷりのえび、ふわふわの卵にぱらっとしたお米。そこに細かく切ったパイナップルの爽やかな酸味と甘み。酢豚のパイナップルはあんまり好きじゃないんだけど、これはすごくおいしい。器の底の方は果汁でしっとりしていて、チャーハンもパイナップルジュースを含んでデザートっぽさがある。不思議だけど、思ったより違和感がないし、おいしい。鶏肉チャーハンはスタンダードって感じでぺろっといけちゃう。食べてる間にパッタイが来て、お待ちかねの元直さんは嬉々として揉み手した。ちょっとおじさんぽい仕草だな。嬉しそうに取り分けて、卓上のお砂糖とかお酢、唐辛子やナンプラーをちょこっとずつ掛けて味変しながら食べてる。おれも真似して味変に挑戦してみた。まずはそのまま。もやしシャキシャキしてるな、えびぷりぷり、砕いたピーナッツが乗ってるのがアクセントでおいしい。おれはちょっと辛くしてみようかな。唐辛子フレークをちょこっと振って、ナンプラーも少し追加。うん、これもおいしい。フェットチーネくらいの幅の米粉麺がもちもちで、味がよく絡んでて箸が進む。ビールで一旦リセットして、またもぐもぐ。
    最後に、白くてちっちゃいタピオカ(本式のはタピオカじゃなくて、サゴ椰子から作るサゴパールってのを使うらしい。これはどっちなんだろ?)の入ったココナッツミルクのデザートとタイの焼きプリンが来た。ココナッツミルクの方は食べたことある味。ヒリヒリしてる口がすっと冷えて、さわやかな甘さが咽喉を抜けていく。おいしいな……。
    「馬岱くんこのプリン食べてみてよ、面白いよ」
    元直さんがお皿をこっちに寄せてくれた。なんか四角く切ってあって、見慣れたプリンとはちょっと色が違う。わあ、なんか硬めだな。
    「んー? これなんだろ、むちむちしてるね!」
    「だろう? 結構おいしいね。緑豆とかタロ芋を使ってるんだって」
    スマホで調べたらしく、元直さんが教えてくれた。確かにお芋のズシっと感あるかも。ココナッツミルクの香りがふわってして、結構甘いけどおいしい。こんなプリンみたいなのがあるなんて全然知らなかった。タイ、行ってみたいなあ。おれ、外国行ったことはおろか飛行機乗ったこともないんだけど……。

    お会計のときに、いい食べっぷりでしたよってお店の人にニコニコ言われるくらい食べちゃった。朝ごはん抜いてきてよかったー。元直さんはまたあずまやの喫煙所に座って、食後の一服してる。陽射しはいよいよ強い。あちち。
    「この後、何か予定あるかい? ちょっと寄りたいところがあるんだけれど」
    一応、今日の食べ歩きはお昼ごはんだけの予定だったけど、夜も特に用事はない。
    「大丈夫だよ、どこ行きたいの?」
    元直さんはほっとした顔をした。
    「直売所に行きたくて。野菜を買いたいんだ」
    「いいねえ、地場産ってやつだ」
    あんまり直売所って行ったことないけど、スーパーの野菜売り場よりも色んな種類があったりするのかな。どんなもの売ってるんだろ。
    吸い殻を揉み消すと、元直さんはお待たせ、行こうかと立ち上がった。

    直売所は案外すぐそこにあって、車で五分も掛からなかった。何年か前にできたばっかりみたいなきれいな建物に入ると、エアコンがきいてて気持ちいい。ええと、向かって右側にはイートインコーナー、左側に物産かな。ごはん食べたばっかりだから、物産の方から見ることにする。野菜だけじゃなくてお菓子とかジュースもあるんだ。
    「馬岱くん見てくれこのナス。ひと袋にこんなに入って二百円だよ⁈」
    元直さん、いつの間にか店内用のカゴを持ってて、ナス、トマト、きゅうり……と興奮した様子で入れてる。
    「見て元直さん! 新じゃが一キロなのにこの値段! おれ買う!」
    おれも急いでカゴを持ってきて、新じゃがと新玉ねぎ、でっかいトマトを入れた。
    「ハーブもこんなに……」
    「ブルーベリーだ!」
    楽しくなっちゃってどんどんカゴに入れちゃう。パクチーや生の唐辛子もあったから、何かタイ料理作ってみようかな。野菜をひととおり見た後は地元のお醤油とかソースとか、お酒とか見て回った。あ、地ビールある。元直さん今日飲めなかったから、車出してもらったし買ってあげよう。
    結構カゴが重くなってきたけど、直売所って面白いな、全然知らないものがたくさんある。棚を見て回っていたら、武蔵野うどんという文字が目に入ってきた。あ、これ聞いたことあるぞ。今日のお店を教えてくれた子がおいしいって言ってたやつだ。ふうん、このあたりの郷土料理なのか……。
    おれがパッケージをじっくり読んでいたら元直さんがやってきた。なあに、って背中を屈めて覗き込んでくる。サングラス掛けたままだからちょっとびっくりした。
    「ほら見て、武蔵野うどんだって。元直さん知ってる?」
    「いや、知らないな。このあたりのものなのかな」
    「うん。お昼のお店教えてくれた子がさ、おいしいって言ってたんだ」
    へえそれはいいねって元直さんも商品を手に取る。
    「腹一杯だから、どこかで食べて帰るのは残念だけど無理だな……」
    「じゃあさ、このおつゆと麺がセットのやつ買ってみようよ。お店行くのはまた今度にして」
    元直さん、その手があったか! って顔をした。二人で吟味して良さそうなキットを買うことにして、パッケージ裏の作り方を読んで、ねぎと小松菜もカゴに入れた。
    先にレジを通って、ビールの瓶だけ別の袋にしてもらう。あとはいつもかばんに入れてるエコバッグに突っ込んだ。おれも元直さんも大荷物だ。顔見合わせて笑っちゃう。
    「参ったな、直売所っていつも楽しくなってしまうんだ」
    後部座席に買ったものを置きながら元直さんがはにかむ。おれも結構買っちゃったけど、安くて色んなものがあるからしょうがないよね。
    お昼の感想とか、次どこ行こうとか話してるうちに眠くなっちゃって、気が付いたらもうおれんちのすぐそばまで来てた。いけないいけない、迷惑かけるとこだった。
    「家の前まで行くよ。荷物重いだろう」
    ごめん寝ちゃってたって謝ったら、元直さんは満腹だったもんなって笑った。俺も眠いんだ、だって。
    アパートの前につけてもらって、後部座席から荷物を取り出す。元直さんも一旦車を降りた。
    「元直さんこれ、今日車出してくれたからお礼の気持ち」
    直売所で買った地ビールを渡す。
    「えっ、いつの間に……いいのかい? 気を遣わなくて構わないのに……でも、ありがとう。冷やして飲むよ」
    元直さんは最初驚いていたけれど、嬉しそうに笑って受け取ってくれた。それと一緒に、車を貸してくれた同僚さんあてにもお菓子を預ける。これも直売所で買ったやつ。お会いしたことない人だから余計にきちんとしておいた方がいいもんね。ヤクザ相手なら本当はお酒とかがいいのかもしれないけど、予算的に厳しいので却下。ごめんなさい許して……。
    「悪いね気を遣ってもらって。俺からもお礼はするけれど、一緒に渡しておくよ」
    それじゃあまたねって元直さんを見送って、うちに上がる。結構汗かいちゃったな。シャワー浴びて部屋着に着替えてひと息ついて、さて買ってきたもの冷蔵庫に入れようと思ったら、思ってたより量が多い。あれ? たくさん買ったのは自覚してたけど、新じゃがとか新玉ねぎみたいな嵩張るのも買っちゃったから、単身用の冷蔵庫じゃ入りきんない! 試行錯誤の末、冷蔵庫に入れなきゃいけなさそうなものはなんとか全部入れられた。ついでに冷凍庫から豚バラ肉の薄切りを出して解凍しとく。今夜は武蔵野うどんにするんだ!

    夜、おなかすいてきたから台所に行く。豚バラ肉の解凍はできてたので、今日買った武蔵野うどんキットと小松菜を出した。ねぎも忘れちゃだめだ。パッケージの作り方を見ながら麺を茹でて、野菜を切って肉を炒めておつゆを作る。茹で上がった麺は太めで、うっすら茶色っぽい。ふうん、地粉を使ってるからこの色なんだ。地粉って普通に売ってる小麦粉とは違うのかな。麺をざるに上げたらしっかり水で洗ってしめて、盛り付ける。おつゆも別のお椀によそった。つけめんタイプなんだね。うーん、おいしそうな匂い。いそいそ机に運んで、お箸とコップに麦茶も用意して、食べる前に写真撮る。あとで元直さんに見せようと思って。
    「いただきまーす」
    冷たいうどんをあったかいおつゆに浸してすする。うわ、麺すっごいコシ! おつゆの味見した時に濃いかなあって思ったんだけど、これだけ太い麺をつけるならこのくらいの味がいいんだな。豚の脂と大きく切って焦げ目をつけたねぎ、シャキシャキの小松菜がおいしい。顎が痛くなるくらい歯ごたえのある麺だけど、夢中で食べちゃった。ネット見てたら、きのこ入れたりナス入れてもいいみたい。濃縮タイプのおつゆや麺も売ってるから、また買ってみようかな。お店でも食べてみたい。友達に教えてもらわなくちゃ。
    そんなこと考えながら、武蔵野うどん作ってみたよって元直さんに写真を送って、お皿洗って片付ける。昼間暑かったし結構疲れたなあってぼんやり動画見てたら、元直さんから返信が来た。俺も作ってみました、だって。わ、元直さんの盛り付け、きれい。お店のやつみたい。お皿もすてきだな。これと比べると、おれのはザ・一人暮らし大学生って感じ。あ、車貸してくれた同僚さんにお菓子渡したらすごく喜んでたって。よかった、ちょっと安心。お菓子持ってピースしてる同僚さんと思しき手の写真が送られてきたけど、なんかごっつい金のバングルしてらっしゃってですね……やっぱり元直さんてその道の人なんだなあって、昼間のはにかんだ顔とかとのギャップに眩暈がしそう。
    ていうか、料理できてイケメンだなんてどんなハイスペだよ。あーどうせ元直さんの彼女さん、すんごい美人なんだろうな。極妻、ではないか、独身だって言ってたもんな。そういえば、食べ歩きは彼女さんとはしないのかな。なんかいっつもおれと遊んでる感じだけど、ちゃんとデートとかしてるのかな。おせっかいなのは承知してるけど、なんか元直さんってそういうとこダメそう。仕事頑張りすぎて「仕事と私どっちが大事なの!」ってビンタされる感じする。あ、でもヤクザだと大手振ってデートできないのかも。もし彼女さんがカタギなら尚更だよね。かわいそ……。
    なあんて、思っても言わないし、会ったことなくて話聞いたこともない彼女さんに遠慮する気にもなれない。我ながらわがままだと思うけど、だって元直さんと遊ぶの楽しいし。こんなに気が合う人めったにいないと思うんだ。だから、たくさん会って遊びたい。食べに行きたいお店、まだまだあるんだし。
    ドライブするのも楽しかったし、そうだな、宇都宮に餃子食べに行くとか、千葉とか神奈川にお魚食べに行くのもありかもしれない。いつも近場だったけど、ちょっと遠くだって行けなくはないもんな。相談してみよっと。はあー楽しみだな。
    もう次にどこ行くか相談してるんだから、おれたちってほんっとに食べること好きね。またバイト頑張ってお金貯めて、お店調べようっと。楽しいサークル活動、続けられるように。
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    KaimenSponge

    DONE現パロさんむそ庶+岱の食べ歩きサークルシリーズ、今回はタイ料理編です
    埼玉のタイに行くとある土曜日、天気は晴れ。予報では一日快晴で、最高気温は35℃まで上がるって。うへえ、暑いのあんまり好きじゃないのよね。帽子を目深にかぶりなおす。陽射しが痛いくらい。早めに待ち合わせ場所のコンビニに来たんだけど、いつも先に来てる元直さんが来てない。珍しいな、どうしたんだろう。
    気になるお店があるけど駅から遠いってこぼしたら、元直さんが車を出してくれることになった。申し訳なくて最初は断ったけど、地図を見たら駅から二キロ近くあったからありがたく申し出を受けることにしたんだよね。こんな暑いんじゃ、大正解だったと思う。歩きだったらふたりとも干からびちゃうよ。
    あ、元直さんからメッセージきた。『すまない渋滞してる あと十分くらいかかると思うから店内にいてくれ』だって。土日の道って混むよね、しょうがない。了解気を付けてって返信したけど既読はつかなかった。多分、信号待ちとかにサッと連絡してくれたんだ。お言葉に甘えてコンビニに入る。あー涼しい、生き返るぅ! 元直さんが来たらアイスコーヒーかなんか差し入れようと思いながら、一旦店内をぐるっと回る。なんか新しいお菓子とか出てるかな。調べたら、今日の目的地はここから三十分くらいで行けちゃうらしいんだけど、やっぱりドライブのお供にちょっとしたものがあると嬉しいよね。チョコはとけちゃうな……手は汚れない方がいいだろうし。飴……? うーんどれがいいんだろう。ざっと見回して目星をつけて、駐車場がよく見えるように雑誌売り場に陣取った。元直さんが来たら買って出ればいいよね。とりあえず手近な雑誌をとってパラパラめくりつつ、時々窓の外を確認。陽射し本当に強いな。日傘さしてる人も多いね。
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