すとんと落ちる多分あの時だ。
僕の世界はとても単純で、基本僕しかいなかった。ごくたまに昔馴染みの金蝉がひょっこりやってきたりもするけれど、それ以外は僕一人だ。
僕と大量の本、本、本…………。
そして煙草。
それだけ。
小隊の子達は居たけれど、大事だけれど、それはあくまで部下であり、対等な人なんていなかった。
それで良かったし、それが良かった。
何も手元にないのはなんて自由なんだろう。
でも気がつけばいつの間にか貴方がいた。
僕一人の空間に、最初のうちは週に一度くらい。そのうち、それが二回になり三回になり、気がつけば休日以外ずっと貴方がいる。
へたをすると休日でもいることがある。
『お前飯は!?』
『……ちょい待て、風呂いつ入った?』
『バカ天!!本を出しっぱなしにすんじゃねぇって何度言ったらわかんだてめぇは!!!』
小言が煩いけど、本当の意味では煩くない。
ずっと同じ空間にいても気にならない。僕は適当に返事をして、煙草を吸い本を読む。あの人は、文句を言いつつ僕の世話を焼きソファでダラダラし、部屋を掃除し片付ける。
あの人といるのはとても楽で、息が吸いやすい。
討伐の現場では物言いだけな顔をされることもあったけど、僕等の仲はかなり上手く行っていた。
だけど、何度目かの討伐の時、僕は無茶をした。
囮は少ないほうがいいだろうと、自分の力を過信して注意を怠り、結果、置いてきたはずの捲簾がきて助けてくれなかったら死なないまでも重症間違いなしの状況だった。
天界に帰って、言葉少なに静かに怒る捲簾に、すみませんでしたと謝って訳を話す
そんな僕に決して強い口調ではなかったが、あの人は言った
『俺は上官を死なせるところだったぜ』
と。
多分あの時だ
あの時に、僕しかいなかった心の中に貴方がすとんと落ちてきた。
落ちてきた貴方を僕はおっかなびっくり受け止める。
部下を死なせたく無かった僕の気持ちと同じくらい、貴方が僕を死なせたくないと思っているんだって、よくわかったから。
一人だと思っていたけれど、僕と『一緒に』戦いたいと貴方と小隊の皆はずっと思っていてくれて、一人じゃないんだと貴方の言葉と行動でやっとわかったから。
あの日から僕の心の中には捲簾がずっといる
心の中だけじゃなく、現実でもずっと傍に居てくれる。
執務室の窓を全開にして桜を愛でつつ、二人で晩酌をしている今も。
もう少し、もう少しだけ僕の気持ちが育ったらこの胸の内を貴方に告げよう。
美しい女性達と流した浮き名は数知れない、そんな貴方に男である僕のこの気持ちは受け取って貰えないかもしれないけれど……。
でも、貴方が僕を見る瞳(め)はいつも……とても優しいから少し期待してもいいかなって思っているんです。
end