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    Kon_sch5

    @Kon_sch5

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    宵待草、鳥がよぶまで 7ちょっとだけ・・・・・



     夢見が悪い、というのは、もはや疑いようのない事実だった。
     週に一、二度は、寝汗をかいて飛び起きる。それがもう二か月は続いていた。夢の内容は思い出せない。絶望的な気分だけがべったりと背中にはりつき、はげしく打つ鼓動を聴きながら肩で息をする。絶望感の正体もまた不明だった。自分自身が危害を加えられたというよりは、取り返しのつかない行為に手を染めてしまったというような、そういう種類の絶望感だという気がした。
     食いしばりも日に日にひどくなるようで、顎から首にかけてこわばったようになって目覚めることもあった。職場で雑談の一環として何の気なしに口にすると、歯科にかかったほうがいいと熱心にすすめられた。部下からは「マウスピースは食いしばりを解消するのではなく歯への負担を軽減するものなので、ボトックス注射によって食いしばりを抑える治療がおすすめ」だと言われた。ボトックス注射というのは美容医療の領域でしか耳にしたことがなかったので、月島はおどろいた。「歯ぎしりが治まるだけじゃなく、フェイスラインもすっきりするのでお得」と言われたものの、月島は別段顔まわりをすっきりさせたいと考えたことはなかったけれど。
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    DOODLE宵待草、鳥がよぶまで 6のちょっと続き
    宵待草、鳥がよぶまで 6のちょっと続き 駅前のコンコースでは、今日も若者が歌っていた。今日の歌手は二十代前半くらいにみえる青年で、槇原敬之をカヴァーしている。派手にピッチがずれているのにやたらと笑顔をふりまいて、自分で手拍子までしているので(ギターの弾き語りではなくCD音源を流していた)、鯉登は思わず顔をしかめてしまう。いつもならばこんなこと、気にも留めずに通り過ぎるというのに。それどころか、以前の鯉登なら、調子外れな歌声にある種の微笑ましさすら覚えながら聴くことができた。例えばたいしてぱっとしない歌であっても、自分のおくる風変わりな——前世の部下と「友人兼恋人」をやっているという——日々の、面白可笑しいテーマソングのように聴くことができた。それが今はどうだ。力任せにはりあげるばかりの高音のオンパレード(極めつきに最後の「い」の長い伸ばし音といったら!)に、鯉登は閉口を通り越して憎悪さえおぼえながら、できるだけ大股で広場を通り過ぎた。これ見よがしに目の前でヘッドフォンを取り出してつけ、オリジナル曲を聴いてやりたいような、意地の悪い気分だった。
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