「はあ……」
_ザー、ザー…と雨音が鳴り響く中、アオキはパルデアリーグの出入口で立ち尽くしていた。
営業の仕事が終わり、さあ帰路につこうと出口へ向かえば突然の雨。確か今日は午後から曇りだった筈だとスマホロトムを起動し天気予報を見れば、午後から雨の予報に変わっていた。
ついてない…と、再度溜息を吐く。
「(こんな時に限って折り畳み傘を忘れるとは…)」
鳥ポケモン達の力を借りれば、自宅までそう時間はかからないだろう。然し、大切な鳥ポケモン達の羽を濡らしてしまう事はできれば避けたかった。
暫く思考し、徒歩で帰ろうという結論に至る。濡れてしまうが、帰ってすぐにシャワーを浴びれば大丈夫だろう。
そう考え屈伸運動を行い、リーグから出ようと身を乗り出した__その時、
「アオキ、何をしているのです」
紺色の傘を持ったハッサクさんに声をかけられた。
_____
「驚きましたですよ。迎えに来てみれば、突然屈伸運動を始めて……貴方、この雨の中濡れて帰るつもりだったでしょう」
「………」
あの後、ハッサクさんに一緒に帰りましょうと言われ、今夜はハッサクさんの家に泊まる事になった。
相合傘をしている事実を紛らわす様になぜ此処にと問えば、アカデミーの職員会議の中でぺリッパーの群れの大移動により、パルデア全域に大雨が降るとの話があり、業務を終えて直ぐ様飛んできたらしい。
その話を聞き、成程と納得する。
ぺリッパーは特性に【あめふらし】を持つポケモンだ。群れの個体の中に【あめふらし】を持つ個体が居たのだろう。
「よく自分が傘を持っていないと分かりましたね」
「だって貴方、小生の家に傘を置いたままでしたから。きっと困っているだろうと走ってきて正解でした」
…通りで傘が無い訳だ。すみません、と呟けば良いのですよと返ってくる。申し訳なさに沈黙していれば、ふとハッサクさんの傘を持つ手に目が向く。
長く、自分の手より大きなハッサクさんの手。
「……」
そっ、と傘を握るハッサクさんの手に指を沿わせ、そのままぎゅっと手を握る。じんわりと彼の体温が伝わり、胸がぽかぽかしてきた。
外に居た筈なのに、何故こんなに温かいのだろう。
雨で冷えた体が温まる感覚。もっと感じていたくてハッサクさんに体を密着させ_
「アオキ…?」
は、と意識が現実に引き戻される。驚きに見開かれた蜂蜜色の瞳に、手を握る自身。
_認識した途端、ぶわりと顔面に熱が集まるのを感じる。ドクドクと高鳴る心臓が煩い。
「あ、いや、これは、その…」
慌てて差恥を紛らわす様に顔を逸らせば寒くて、と小さく呟く。然し、反応が無い。恐る恐る振り向けば、下唇に柔らかい感触。
数秒経ってキスされているのだと気付いた。
「…!?ハッサクさ、ん、ふッ」
「ん…」
突然の事に驚き口を開けば、ぬるりと舌が入り込み、自身の舌と絡み合う。
「ッ~~~!」
慌てて肩を押せば、大人しく口内から舌が抜かれた。
はあ、はあ、と荒く息を吐くと可愛らしいですね、アオキ。と耳に囁かれる。
「…帰ったら、一緒にお風呂に入りましょうか」
そう、にこりと微笑んだ彼の表情。明らかに別の意味も含まれているだろう事に更に赤くなる。
雨で冷えた体温はすっかり温まっていた。