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    persona1icetwst

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    朝ラギ監♀🐆🌸
    結婚してるいちゃ→付き合ってるいちゃ→夢オチ(監自覚・ラ無自覚)の自分向け欲張りセット

    ##ラギ監

    瞼の外が朝の光に満ちていた。
     意識が微睡みの淵から浮上する。身体を覆う暖かな重みに負けそうになる瞼を押し上げる。首を伸ばして窓の方を見やると、カーテンの隙間から差し込む日がいつもよりもだいぶ高い位置にあった。
     遅刻。その二文字が頭によぎり、一気に頭が覚醒する。慌てて時間を確認しようとベッドサイドのスマホに手を伸ばすと、後ろから伸びてきた左手にがしりと手首を掴まれた。
    「ユウくん…? まだ起きる時間じゃないッスよ」
    「わっ」
     同時にばさっと布団をかぶせられ、再びベッドの中に引きずり込まれる。ユウを捕らえた人物は背後から細身の体を抱きしめて、耳元に顔を埋めてシシッと笑った。
    「今日はずいぶん早起きッスね? いつもお寝坊さんなのに」
    「……ラギー先輩?」
    「ん、おはよーッス」
     気怠げなラギーの声は、いつもより少し低いように思えた。心の中で首を傾げながら、ユウは肩に回った腕を叩いて言った。
    「先輩、朝練間に合わないんじゃ…!?」
    「朝練? ユウくん寝ぼけてんスか? もうナイトレイブンカレッジは卒業したでしょ」
    「え……あれ、そう、だっけ…?」
     ラギーの言葉に記憶が揺さぶられる。まだ靄のかかった頭を振って、布団から顔を出して部屋を見回す。
     そこはオンボロ寮ではなかった。よくよく見ればシーツもベッドもカーテンも違う。ベッドサイドに置かれたスマホの待ち受けが目に入る。式典服を着た少し大人びた様子の友人たちの姿に、卒業式の光景が記憶の中から掘り起こされた。
    「あ……そっか…」
     混乱していた頭がスッと凪いだ。ぽてんとまた枕に頭を落とすと、一旦離れていたラギーの腕が再び後ろから絡みついてきた。
    「落ち着きました?」
    「……あれ……じゃあ何で先輩が一緒に……?」
    「もー! 悪い冗談はよしてください! 寝ぼけるにも程があるッス!」
     ごつんと後頭部が小突かれる。頭突きをしたままぶつぶつと文句を零しながら、ラギーがおもむろにユウの左手を掴んで引き寄せた。よく見えるように手の平を広げて、薬指の根元で輝く細いリングを指先でなぞった。
    「……わかりました?」
     朝日を反射して銀色に輝くリングを見て、心臓がとくんと跳ねた。小さく顎を引いて頷くと、ユウの左手がラギーの手に包まれる。彼の左手にも同じデザインの指輪が光っているのが見えて、にわかに耳が熱を帯びる。
    「あ……」
    「思い出したッスか? まぁ、ずっと先輩呼びは抜けねーし、まだ学生気分なんスかねぇ」
     悲しいなァと、ユウのこめかみに頬をすり寄せながらラギーは呟いた。
     ぎゅうぎゅうと腕の中にしまいこまれながら、ユウの胸を罪悪感がちくりと刺す。でも寝ぼけていたのだから仕方ないじゃないかと、口の中で言い訳しながら唇を尖らせる。
     きつく抱きすくめられ、そろそろ息が苦しくなってきた。抱きしめる腕に手をかけてギブアップの抗議をすると、突然くるんと視界が反転して、背中からベッドに沈んだ。
    「今日は休みだし、忘れねーように覚えてもらいましょうか。ね?」
     見上げた先で、牙の覗く口元がにんまりと弧を描いた。垂れ目の奥の青灰色を爛々と輝かせて、ラギーはユウの上に身を屈める。
     唇が額に触れる。それから瞼、こめかみ、頬へ。次の場所を予感してぎゅっと目を閉じたユウの上に、低く喉を鳴らす笑い声が降ってきた。
    「期待しちゃってまぁ。ほら、起きた起きた。せっかく早起きしたんなら、もう起きちまいましょ」
     ラギーが布団をはねのけ、ユウの腕をぐいっと引く。支えられるがまま起き上がって、ユウはラギーの向かいにペタンと座り込んだ。寝起きであちこち跳ねている髪を手櫛で整えるユウに、ラギーはずいっと顔を近づけて囁いた。
    「…ユウくん、はい、おはよーッス」
    「んむっ」
     唐突に唇を塞がれる。一瞬触れたそれはすぐに離れて、ラギーはユウの額に自分の額をこつんと合わせた。
    「どっか行きたいとこあります?」
    「買い物ですか? んーと、特には……」
    「遊びにッスよ。……一応、デートに誘ってるつもりなんスけど?」
     ユウの手を取ったラギーが、上目遣いで顔を覗き込む。青灰色が揺れる。きゅっと心臓が鷲掴みにされたみたいに、胸の奥が甘く痺れる。
     ユウは繋がった指先に目を落とした。お揃いのリングがきらきらと光る。彼の好物に似た形をした幸せに触れると、自然と顔が綻ぶ。少し緩いそれを親指で撫でながら、ユウはにっこりと微笑んで口を開いた。
    「……どこでも、いいですよ。ラギーさんと一緒にいられるなら」
    「………もー! ユウくんいっつもそればっかじゃないッスか!」
     少しだけ頬を赤くしたラギーが、ぷいっと顔を背けて立ち上がった。肩をいからせて部屋を出ていく後ろ姿に笑みを零して、ユウもその後ろに続いた。

    * * *

     水に身体を預けているように、ゆらゆらと意識が揺れた。気怠い微睡みが僅かに散る。遠くで誰かの声がする。起き抜けの心地良い温もりを手放したくなくて抱きしめるように身体を丸めると、より強い力で肩が揺さぶられた。
    「監督生くん起きてください! 朝ッスよ!」
     耳元で鳴り響いた声に、監督生はハッと飛び起きて左右を見回した。
    「っ!?」
    「やーっと起きた。はよッス監督生くん」
     強引に監督生を夢の淵から引きずり出したラギーが、呆れた顔でぐしゃぐしゃと監督生の頭を撫でた。随分と早くに起きたのか、ラギーはとっくにナイトレイブンカレッジ制服に身を包んでいた。
     ……制服? なぜ制服を着ているんだろうか。
     しっくりきているはずなのに何やら違和感を覚えて、監督生は首を捻った。
    「あれ……ラギー、さん?」
    「は? さん? いきなり何、どうしたんスか」
     ぎょっと目を剥くラギーを見上げる。その向こうに先日自分で張り替えたばかりのオンボロ寮の壁紙が見えて、監督生はぽかんと口を開けた。
    「あ――」
     ――夢、か。
     そう思い当ると同時に、自身の左手に目を落とす。薬指には何もない。ついでにベッドに腰を下ろしたラギーの左手にも視線をやったが、もちろんそこにも何もなかった。
    「……すみませんラギー先輩。ちょっと寝ぼけてたみたいで」
    「ならいいッスけど…。ほら起きた起きた。遅刻するッスよ」
     ぎしりと音を立てラギーが立ち上がった。監督生も暖かな布団に名残惜しさを抱えながらベッドから足を下ろす。布団の中とは打って変わって冷えた空気に身震いすると、ラギーが椅子にかかっていた上着を監督生の肩に巻き付けた。
    「ありがとうございます、先輩」
    「ん」
     立ち上がろうとした監督生の肩を、ラギーが包んだ上着の上からそっと押さえた。キョトンと見上げてくる額に顔を寄せる。一瞬びくりと震えた監督生は、羞恥に頬を赤くしながらもぎゅっと目を瞑ってそれを受け入れた。
     すっかり恒例になった朝の挨拶。寝起きで乱れた前髪から覗く額に口付けを落とすと、ますます赤くなる顔が可愛らしい。嬉しさと恥ずかしさが綯交ぜになった表情を拝もうとさらに身を屈めると、突然グイっとネクタイが引っ張られた。
     崩れそうになった体勢を慌てて支える。何とか倒れこまずに済んで文句を言おうと口を開きかけたその時、頬に柔らかな何かが押し付けられた。
    「んっ」
    「……な、ん」
     ちゅ、と小さな音を立てて、監督生はラギーの頬から唇を離した。そのまま耳まで真っ赤になった顔を、ラギーの肩にぐりぐりと押し付ける。
     ラギーはそっと自身の頬に触れる。そこには余韻すら残っていなかったが、いつもこちらが強請ってやっと返してくれていた挨拶を恥ずかしがり屋の恋人自らしてきたことに、戸惑いと歓喜がぶわりと胸の底から湧き上がってきた。
    「……は!? え、何、今日どーしたんスか!?」
    「いえ、その……願掛け、です」
     正夢にしたいなと思って。そう腕の中から消え入りそうな声がした。
     夢の内容は気になるところだったが、それは後で朝食を摂りながらゆっくり聞こうと、ラギーは羞恥でどんどん小さくなる監督生に「もう一回」とせがんで喉を鳴らした。

    * * *

     窓の外で鳥の声が響いて、監督生はパチリと目を開けた。
     古臭いカーテンを透かして、朝日がうっすらと部屋の中を照らし始めている。いくら掃除しても消しきれないかび臭さの残るにおい。昨日洗濯したばかりの白いシーツが肩からずり落ちて、隣ですやすやと寝息を立てているグリムの寝顔が朝日に晒される。グリムはむにゃむにゃと何事かを呟いて、ごろんと寝返りを打ち再び眠りに落ちていった。
    「夢……」
     グリムと二人きりの室内をゆっくり見回して、監督生の口からぽつりと独り言がまろびでた。脳裏ではやけにリアルだった夢の情景が再度上映され始める。一方的に想っているだけのハイエナ耳の先輩が自分を見て愛おしげに目尻を緩ませていた顔を思い出して、気恥ずかしさと罪悪感で胸がぎゅうっと苦しくなった。
     夢にまで見るなんて。いたたまれなくなって立てた膝に顔を埋める。顔を寄せて甘く名前を呼ぶ彼の声が脳内で響く。そんな呼ばれ方をされたことなど記憶の中には一切無いくせに、随分と都合のいい妄想を作り出したものだ。
     次に会ったらどんな顔をしたらよいのかと頭を抱えた監督生は、本日の1時間目がラギーのクラスと合同の錬金術だったことを思い出し、声にならない悲鳴を上げてベッドに倒れ込んだ。

    * * *

     ラギーはサバナクロー寮の自室で頭を抱えていた。
     ベッドの上に身を起こし、寝癖のついた髪をぐしゃりと掴む。ぺったりと伏せたハイエナ耳がふるふると揺れて、寝起きだというのにこれでもかと言うほど見開かれた目は瞬きを繰り返しながらじっと虚空を見つめていた。
     ラギーの脳裏には、微睡みの最中で見ていた夢の残像が、未だはっきりと映し出されていた。
     自分の腕の中で幸せそうに微笑んでいた監督生。潤んだ瞳。朱に染まった頬。自分より少し低めの体温。ふわふわとやたら細くて頼りない感触。くすくすと笑いながらラギーの名前を呼ぶ、はにかんだ声。
     夢の中だというのに妙に鮮明で、まるで現実のようだった。記憶の中の柔らかな感触をなぞるように、自分の唇に触れる。自分の体温しかないそこがあの一連の出来事が夢であったことを教えてくれる。知らないうちにやらかしていなくてよかったとほっと撫で下ろした胸の中に、僅かだが確かに落胆の色が見えて、ラギーはかき消すように自分の胸元を掴んだ。
    「……うそでしょ……」
     思わず目を覆う。自分でも気づいていなかった気持ちを思い知らされて、全身がカッと燃えるように熱くなる。
     掠れた呟きは誰の耳に届くことも無く、窓から差し込む朝の光に溶けていった。
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