一緒にお風呂に入りたいラギ監シリーズ08「ほら、ユウくん。もっとくっついて。」
「は、はい…。」
恋人という関係になってから、初めて迎えたラギー先輩の誕生日。
誕生日パーティーが終わってから、ラギー先輩はオンボロ寮に泊まりにきた。
今まで何度か一緒に夜ご飯を食べたり、遅くまで勉強をみてもらったりしたことはあったけど。
どんなに遅くなってもラギー先輩はサバナクロー寮へと帰っていた。
なのに…。
今日は外泊届けを出してきたッス。
…何もしないから、一緒に寝よ?
誕生日だから、いいッスよね?
プレゼントを何か用意しなくては、と思いながらも今日を迎えてしまい。
いつもよりも豪華なドーナツと元の世界の記憶をたどりながら作った和食をふるまって。
パーティーでさんざん食べてお腹がいっぱいのはずなのに、ラギー先輩はどれもおいしいと言いながらたいらげてくれた。
それからいつもと同じように、サバナクロー寮へと帰っていくのかと思いきや。
今日は泊まる、だなんて…。
しかも一緒に寝るって…そんな…。
「シシシッ、緊張しちゃって。…かぁわいい。」
「……っ!!」
ラギー先輩は自分の家のようにてきぱきと食卓を片付け、お風呂も済ませて…。
今、こうして一緒にベッドに入っている。
ちなみにしっかりと抱きしめられていて、ちょっとでも離れようとすると、さっきみたいに引き寄せられてしまう。
確かに…確かに毎回、ラギー先輩が帰ってしまうことに寂しさを感じていた。
もっと一緒にいられたらいいのに、って思っていた。
だけど、いざその願いが叶ったら…変に緊張してしまって。
「ユウくん、いつもよりドキドキしてるッスね。」
「あっ、当たり前!…です。こんな…。」
こんなにくっついていたら、心臓の音が聞こえてしまう。
ただでさえ獣人のラギー先輩は耳がいいのに。
それだけじゃなくて顔も真っ赤になっている自信があるし、息もうまくできていないような気がする。
そんな私を落ち着かせるように、ラギー先輩は頭を撫でてくれて。
それから、いつもみたいに優しい声で言った。
「本当に何もしないから…安心して?」
「うぅ…。」
ラギー先輩のことを信じていないわけじゃない。
それに…恋人なんだから、されて嫌なことなんてない。
だからこれはただ…本当に私の気持ちの問題で。
…心の準備ができていない、だけで。
「…オレもドキドキしてるッスよ。」
「う、ウソばっかり!」
「ウソじゃないッス。」
よぉーく耳を澄ませてみて?と言われて、その通りにすれば。
自分の鼓動に混じって、別の音が聞こえてくる。
それは呼応するようにとくんとくんっと速いリズムを刻んでいて。
ぎゅっとラギー先輩の服を握れば、優しく抱き寄せられる。
「ユウくんだけじゃないッスよ。」
「…え?」
「ドキドキしてるのも。…別れ際が寂しいのも。もっと一緒にいられたら、と思ってるのも…。」
恥ずかしくてうつむいていた顔を上げれば、ラギー先輩と目があって。
部屋の明かりは消しているからはっきりとは見えないけれど。
とても大事なものを…愛しいものを見ているような表情で、目がそらせなくなる。
そのままじっと見つめていると、ちゅっと唇が触れあって。
「な…!何もしないって言ったのに…!」
「今のはユウくんが悪いッス。」
「私は何も…っ!」
抗議を続けようとした私をさえぎるように、ラギー先輩は私の頭を自分の胸に押しつけて抱きしめる。
さっきよりも少し速くなったラギー先輩の鼓動が聞こえてきて。
「あんまりかわいい顔しないで。…ガマンできなくなる。」
聞き逃してしまいそうなほど小さな…余裕のない声で、ラギー先輩が言う。
私はまた恥ずかしくなって、ラギー先輩の胸に顔をうずめた。
「さぁさぁ。…もう寝るッスよ。」
「…はい。」
こんなに緊張していて、寝られるわけがない。
なんて思っていたけれど。
ぽんぽんっと背中を叩いてくれるラギー先輩の手が気持ちよくて。
不思議と緊張がほぐれて…だんだん眠たくなってきた。
「おやすみ、ユウくん。」
「…おやすみなさい…ラギー…せん…ぱい…。」
額にあったかいものが触れた気がしたけれど…。
ぽかぽかした気持ちのまま、私は夢の中へと入っていった。
「あんなに警戒されると…ちゃんと意識されてるって嬉しい反面、なーんか悲しいッスね。」
すぅすぅとかわいらしい寝息をたてながら眠るユウくんに向かってオレはつぶやく。
ー誕生日くらい、一緒に過ごしてこい。
ユウくんには外泊届けを「出してきた」と言ったけど。
実際にはレオナさんから外泊届けを「出された」ようなものだ。
その後、嫌みたっぷりの表情で「毎回シケた面見せられても困るんだよ」とか言われるし。
オレが帰る時、ユウくんはいつも寂しそうな顔をしていて。
何度そのまま食っちまいそうになったことか…。
今日だって…危なかった。
けど、思った以上にユウくんが警戒していて。
ちゃんと男として意識されているんだと感じられた反面。
…彼氏なのにまだ心を許しきっていないのかとも感じた。
とはいえ、今はオレの腕の中で気持ち良さそうに眠ってるけど。
「オレ以外には…ちゃあんと警戒するんスよ。」
ユウくんのさらさらの前髪をよけて、オレは額にキスをする。
オレへの警戒心は…これから時間をかけて、ゆっくりとといていけばいい。
でも…。
「…いつまで耐えられるッスかね。」
かわいい寝顔をしばらく眺め、オレはひとりつぶやいて。
自分だけのものと主張するように、ユウくんの体を抱き寄せた。
あぁ…はやく…。はやく、ユウくんの全てが欲しいなぁ。
なんて思いながら、オレも眠りについた。