ざくろ「いで、召し給え」
薄暗い部屋にふかふかの座布団。呼吸するたびに肺を侵蝕する生きた花の香り。息を呑むほど立派な黄色をその身に宿す彼が、ひとつ、果実を割り開く。
ぎっしりと詰まったひと粒をつまみ上げて、そして私に差し出した。
「今年の柘榴はめざまし」
「……そうだね、でも……まだダメ」
彼は瞳を金色に輝かせて、驚く。私が拒絶するなんて思わなかったんだろうね。
「されどよく熟れたり……いと甘きぞ……?」
ぴかぴかで、同じ名前の宝石があるくらい立派なひとつぶ。きっと極上の味がするだろう。
彼に寄り添い、それを彼の手ずから味わうのは、至福のひと言に尽きるに違いない。
「……今はまだダメ」
だから私は緩やかに立ち上がる。
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