きっかけは、些細な口喧嘩だった。
お互いに引けないほどにヒートアップしてしまい、最後は恐ろしいくらい冷えた潔の声が響いた。
「もういい」
それだけ言って、潔は部屋を飛び出していった。
出ていく潔の背中を凛は動けずただ見送るだけだった。
バタンッ、とドアが閉まる音がして、静寂が広がる。ふーっ、と重い溜息を吐き出して、凛はソファに沈む。
売り言葉に買い言葉になって、自分でも思ってもいないことを潔にぶつけてしまった自覚はある。その時一瞬見せた、潔の傷付いたような悲しさが滲んだ表情。それが脳裏にこびり付いて凛の心に重くのしかかっている。
かと言って、すぐに追いかけることができるほど、凛はプライドを捨てきれてなかった。心はすぐにでも追いかけろと叫んでいる気がするのに体が動かない。体と心がバラバラでもう訳がわからない。
3155