梅雨の久しぶりの晴れ間。新緑のなだらかな斜面を登りながら、ローズマリーはふふっと思わず笑みを零した。
「どうしたの?」
前を歩くここねが不思議そうに振り向く。
「あ、ごめんなさい。2人がとっても楽しそうだから、可愛くて」
じゃれつきながらここねと手を繋いでいたパムパムはなんだか子供扱いされた気がして頬を赤くしながら口を尖らせた。
「そういうマリちゃんだって、昨日からずーーっと顔がニヤケてるパム」
「えぇ!?」
パムパムの仕返しにローズマリーは慌てて自身の顔に手を当てる。
ここねの前でだらけた顔をしていただろうか。そんなローズマリーの心配はよそに、ここねはふわりと花開くような笑顔を浮かべた。
「そうなんだ。私も2人と会えるの、楽しみにしていたから嬉しい」
そんな風に言われてしまえばパムパムもローズマリーもさっきまで気にしていた事なんてどうでもよくなって、また仲良く談笑しながら歩みを進めた。
少し前を歩くみんなの方から『グ〜』っという音と、そのすぐ後にお馴染みの『はらペコった〜』が聞こえてきた。
「朝からあんなにおむすび食べたのにもう腹減ったのか?」
拓海は呆れたような顔をしつつも、リュックから取り出した飴玉をゆいに差し出した。
「わぁ!さすが拓海!ありがとう!!」
満面のデリシャスマイルを前に緩んでしまった顔を咳払いで誤魔化して、拓海は隣のコメコメにも飴の袋を回した。
「ありがとコメ!」
「はわわぁ〜。拓海先輩、準備が良い!」
お裾分けをもらいながら感心するらんに、ゆいはくるりと振り向いた。
「拓海のポケットって、いつもお菓子が入ってて歌のふしぎなポケットみたいなんだよ〜」
ったく。誰のために持ってきてると思って・・・拓海がそう心の中で呟いていると不意打ちの笑顔が向けられた。
「拓海、ありがとね!」
「お!?おう・・・」
気持ちを見透かされたようでドキリと狼狽える拓海をよそに、ゆいは力の抜けた顔でお腹に手を当てた。
「あ〜。でも少し食べたら余計にはらペコった〜」
「ゆいぴょん頑張って!ソフトクリームが待ってるよ!」
「そうそう!紫陽花ソフト!コメコメやみんなにも是非食べてもらいたいな」
「楽しみコメ〜」
今日はゆいがみんなを誘って紫陽花を見にきたのだけれど、花より団子かやはり食べ物の話は盛り上がる。
ゆいはもとよりグルメインフルエンサーのらんも目を輝かせてソフトクリームに思いを馳せた。
「確か紫陽花に見立てて紫・ピンク・緑のソフトクリームがあるんだよね〜。キュアスタで紹介したいから色々食べたいけど全部は無理だし・・・はにゃ〜迷う〜」
真剣に頭を抱えるらんに、隣のメンメンがグッと気合の拳を作ってみせた。
「らんちゃんボクが居るメン!一緒に食べればいっぱい食べられるし、らんちゃんのグルメレポのお手伝いがしたいメン!」
「はわわ!いいの!?ありがとメンメン!」
みんなより少し遅れて後ろを歩くナルシルトルーは前方のきゃっきゃとした声にはぁとため息をついた。
「なんでオレ様がこんな所に・・・」
「ずっと部屋に篭っていては身体に悪いぞ」
やさぐれた様子を気にする事もなく、あまねはふっと目元を緩めた。
「それに貴方と一緒に来たかったんだ。たまにはいいだろう」
「・・・・・」
『一緒に』だなんて言われてしまったら嫌々だった気持ちが変にソワソワしてしまう。
年下のくせに妙に大人っぽいところがあるあまねに上手く丸め込まれたようで気に食わないけれど、それ以上不満を口にする気も起きずナルシルトルーはケッと小さく呟いた。
前を行くメンバーが立ち止まり『わぁ』と感嘆の声が聞こえる。
遅れてたどり着いたあまねとナルシルトルーも、そこに広がる光景に同じように見入ってしまった。
さっきまで緑の木々が続いていた景色が一変し、山の斜面は見渡す限り紫陽花で埋め尽くされていた。
幻想的に道を彩る紫陽花の中を歩きながら、誰もが大切な人との思い出をその鮮やかな色と共に記憶に刻んだのだった。