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    一臨若モリホム

    ミントグリーンの魔法「…………」
    食堂内の喧騒から少し離れるように一番奥の端の席。青年はひたすらノートにペンを走らせていた。カリカリとリズミカルに綴られていく小さく几帳面な文字と数式は次々とあっという間にノートを埋め尽くす。まさに没頭というにふさわしいその姿に声をかけるものはいないし、かけようとも思わないだろう。だが、青年はピタリ、と走らせていたペンを止めた。いや、止めざるを得なかった。
    「……僕に何か?」
    「いや、気にしないでくれたまえ」
    ノートから少し目線を上げれば机に片肘をつきうっすら口元に笑みを浮かべた男の姿。気にするな、とは言いながらもかれこれ数十分は真正面から視線を投げかけ続けているのに、気にしない方がどうかしている。これ以上の続行は不可能だと判断した青年は、はぁ、と短いため息をこぼしパタンとノートを閉じた。
    「それで?僕になんの用だい?」
    「正確にはキミに、というよりはその机の上に並べられた品々に、かな?」
    そう言って視線を落とした男につられるように青年も視線を机の上へと落とす。
    ノート。ペン。それからチョコミントドリンクが二杯と、三種類のチョコミントケーキ。ケーキに添えられたほとんど溶けかけているチョコミントアイス。
    どれも先ほど厨房の赤い弓兵に無理を言って作ってもらったものだが、そんなに珍しがるような光景だろうか。いや、確かにこれを頼んだ時には好奇というよりドン引きに近い眼差しを向けられたのは確かだが。
    「あー……頭をスッキリさせるのにこれがちょうどいいんだ」
    「身体に悪そうな色をしているのに?」
    「あなたの悪癖よりはずいぶんマシだと思うが?」
    冗談だと受け取ったのか目の前の男がハハハと笑う。どうやら嫌味が嫌味として通じていないらしい。青年はもう一度嘆息すると、すっかり溶けてしまったアイスを掬って口へと運ぶ。その光景をミントよりも深いグリーンの瞳がじっと見つめていた。
    なんだかずっと見られているのもむず痒い気がして青年は三種類あるチョコミントケーキのうちの一つを一口サイズに切り分けるとそれを男の前に差し出した。ピクリと男の片眉が上がる。
    「ほら、良かったらどうだい?」
    「……いや、結構だ」
    「食べ比べできるケーキなんだが、これが一番ミントの刺激が強くてオススメなんだ。ぜひあなたにも食べてみて欲しくて」
    「……」
    最初は拒絶していた男だったが、青年の強い押しに観念したのか小さな口をゆっくりと開く。そのままケーキを口へと運んでやれば素直に受け入れられた。しばらく咀嚼した後、嚥下する白い喉を今度は青年が見つめていた。一瞬驚いたような表情からふっ、とこぼれるような笑みを見せた男に青年の顔にも笑みが浮かぶ。
    「なかなかイケるだろう?」
    「あぁ、悪くない」
    「それは良かった」
    小休憩を挟んでリフレッシュするのも悪くない。チョコミントの爽快さとあなたとの会話が刺激を与えてくれるから――
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    SueChan_Factory

    DONE花火を見るほわか
    夏の華――今日の夕方、家に来てほしい
    端的に用件のみが書かれたメッセージを受け取ったのが今日の午後。〝来てほしい〟はいいが肝心の〝なぜ〟の部分は書かれていない。いや、敢えて書かれていないのだ。キミならこのメッセージの意図を汲みとれるだろう、とでも言いたげに。彼の言葉足らずは今に始まったことではないが、これが恋人に対して送ってくるメッセージだろうか。もっと他にあるだろう、と内心では思いつつもそれを言葉にするでなく代わりに深いため息としてジェームズ・モリアーティ青年は吐きだした。視線は手元のスマートフォンに落としつつも、机の端に置かれた卓上カレンダーに小さな印のある今日の日付を視界の隅に捉えながら。


    夏至を過ぎたとはいえ七月の終わりはまだまだ日が長い。日中の蒸し暑さを未だに残す七時よりも少し前。夕方というよりも夜と言った方がいい時間だが、燃え盛るような真っ赤な夕陽は空をオレンジ色に染め上げ、混ざり合った薄い青は徐々に紫色へとグラデーションを描いている。そんな美しい風景を少しだけぼんやりと眺めてからモリアーティは先輩兼恋人でもあるホームズの部屋のチャイムを鳴らした。
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