いただきますカシャカシャ、と一定のリズムがキッチンに響いていた。卵、牛乳、砂糖、それからバニラエッセンス。ボウルの中で程よくかき混ぜられたそれらは柔らかみのある黄色へと変化していく。ちょうど良い頃合いになったところで、こんなものかナ、とモリアーティは手を止めた。
ようやく勝ち取った久しぶりの休暇。もう少しゆっくりすることも出来ただろうが、なんとなく目が覚めて気が付けば彼女のお気に入りの朝食を用意している。と言っても時刻はもうすぐ十時になろうとしているのだが。
卵液に浸したバゲットを取り出し、バターを引いたフライパンへ。甘い香りはあっという間に部屋を包み込む。
きっとこの香りは眠り姫のところにも届いているだろう。目覚ましとしては最高だ。
「ふぁ……」
ほぉら、少しして聞こえてきたのは可愛らしいあくびが一つ。
「おはよう、シャーロッ…ク……」
「ん、おはよ……」
「…………」
まだ眠そうな顔をしているホームズとは反対にモリアーティは眉間のシワを伸ばそうと額に手を当てる。それもそのはず。なにせホームズの格好といえばシャツ一枚だけを羽織っているだけで他には何も身に纏っていないのだから。それもモリアーティの。見慣れた光景と言えば確かに見慣れた光景かもしれないが、朝からこれは如何なものか。モリアーティは深いため息をついた。
「いつも服着てって言ってるよネ?」
「ん……」
「顔は?洗った?」
「……ジェームズ」
「はいはい、子供扱いするなって言いたいんデショ」
不満げに頬を膨らませるホームズを横目にモリアーティは片面がこんがり焼けたフレンチトーストをひっくり返す。その一連の動作を見ていたホームズは不機嫌な顔から一変、目が覚めたように顔を輝かせた。そんなホームズにモリアーティも自然と笑みが溢れるが、シャツ一枚の現実に溢れた笑みも再びため息へと変わる。
シャツの隙間から覗く陶器のようになめらかな肌とすらりと伸びた脚。その白い肌に所々見え隠れする赤い華。
当然、理性などあってないようなもの。
自覚がないのかキョトンとした顔を見せるホームズをモリアーティは後ろから抱きしめるようにして柔らかな感触を両手いっぱいに包み込む。首筋にキスを落とすのも忘れずに。
「んっ、くすぐったい……!」
「あ〜……朝食の後にデザートをいただいても?」
「!……構わないけど、久しぶりだし昨日の夜もだからあまり激しいのは……」
顔を赤らめ徐々に声をすぼめていくホームズにモリアーティはニヤリと口角を上げて笑ってみせた。
「ふむ、出来るだけ努力はしよう。さて、まずはブレックファーストの時間だヨ?」
甘い朝食の後にはもっと甘いデザートを――